第145話 ビックリな一日・その五

 シーマ十四世殿下一行は、「未確認飛行物体型魔導機ジョージさん一号」に乗り、鉱山の国を治めるプルソン王の城に到着したわけだが……


「お前は逐一悪ふざけをしないと、気が済まないのか!?」


「えー、でも、魔王として威厳のある登場をしろって言ったのは、お前じゃないかー」


「だからって、あんな珍妙な乗り物で飛来したら、みんなビックリしちゃうではないか!」


 ……さっそく、魔王がプルソンに叱られるという、イザコザが巻き起こっていた。


「すみません、プルソン王。ボクからも言っておきますので……」


「ぷるそんさんや、ビックリさせちゃってごめんね!」


 魔王に代わってシーマとはつ江が謝ると、プルソンは腕を組んで、ふん、と鼻を鳴らした。


「まったく……、シーマ殿下のみならず、こんな異界の年寄りまで城に呼び込みおって」


 プルソンが吐き捨てると、はつ江はキョトンとした表情を浮かべ、シーマは尻尾を大きく揺らした。


「プルソン王、失礼ですが、その言い草はいかがかと思いますよ?」


 シーマがギロリとした視線を向けると、魔王もムッとした表情でうなずいた。


「そうだぞプルソン、はつ江はうちの客人なんだからな」


 二人の言葉を受け、プルソンは丸みを帯びた耳を後ろにそらし、足をダンッと踏み鳴らした。


 そして……


「うるさいのだ! この城はまだバリアフリーにあんまり対応してないから、段差で転んで骨折とかされたら、たいへん……、じゃなくて、迷惑なのだ!!」


 ……尊大な口調で、わりと親切なことを口にした。


 その言葉を受け、シーマと魔王はキョトンとした表情を浮かべ、はつ江はニッコリと微笑んだ。


「心配してくれてありがとうね、ぷるそんさん。でも、最近は膝も痛くないから……、心配ないさー!」


 急に歌うように高らかに声を上げると、シーマが尻尾の毛を軽く逆立てて、ビクッと震えた。


「あー……、はつ江、プルソン王に向かってその言い方は……、わりとどうかと思うぞ?」


「あれまぁよ、そうなのかい?」


 指摘を受けてもクヨクヨしないはつ江の様子を見て、プルソンは小さくため息をついた。


「ふん、年寄りの『心配ない』ほど心配な……、じゃなくて、信用ならないものはないのだ」


 プルソンはそう呟くと、そばに控えていた黒豹の兵士に顔を向けた。


「おい、シトリー!」


「はっ! なんでありましょうか!?」


「殿下とそこの婆さんを宝石博物館まで案内してやるのだ! あそこなら、バリアフリー対応もバッチリだし、休憩スペースもたくさんあるから安心……、じゃなくて、迷惑にならないからな!」


「かしこまりました!」


 シトリーと呼ばれた黒豹は、わりと親切な命令に敬礼すると、はつ江たちのもとに向かった。


「それでは、ご婦人、お手をこちらに」


 シトリーがしっかりとした肉球のついた手を差し出すと、はつ江はニッコリと微笑んだ。


「ありがとうね、しりとりいさん」


 はつ江が微妙に名前を間違いながら手を取ると、シトリーは苦笑を浮かべた。


「えーと、シトリーです。それでは、殿下も行きましょうか」

 

「あ、ああ。そう、だな」


 尊大な親切心を持つプルソンの態度に呆気に取られていたシーマも、コクリとうなずいて歩き出した。


 三人が玉座の間から出ていくと、プルソンは腕を組みながらコクコクとうなずいた。


「これでいいのだ」


 プルソンは満足げに、都の西北にある難関私大の隣にあるという大学出身の某パパのようなセリフを呟いた。

 そんな様子を魔王はジトっとした目で見つめていた。その視線に気づいたプルソンは、ハッとした表情で尻尾を縦に大きく振った。


「な、なにが言いたいのだ!?」


「別にー、お前も根本的なところは変わってないなー、って思ってな」


「う、うるさいのだ! それより、早く管弦楽を流す魔導機を直すのだ!」


 プルソンの言葉に、魔王は面倒くさそうに頭をかいた。


「まあ、直すのは直すが、正直なところそんなに急がなくてもいいだろ? お前や俺が異界に召喚されることなんて、最近ではめっきりなくなったし……、なんならシトリー君のほうがよく召喚されてるくらいだし」


「それでも! 管弦楽を鳴らさないと、我が輩を召喚してくれた者に、威厳が示せないではないか!」


「威厳、威厳って言うが……、そんなに大事なことか?」


「当たり前なのだ!」


「そうかぁ? なんなら、以前のお前のほうが、気さくで優しい王様として、この国の民に慕われてたろ」


「それは……」


「それに、長生きな種族の民たちの間では、『遅めの思春期がきた』って微笑ましく見守られてるらしいし……、なんだかこっちまで気恥ずかしくなるんだぞ」


「よ、余計なお世話なのだ! 我が輩は次期魔王として、威厳に満ちていなければならないのだ! それに……」


 プルソンが、なにかを言いかけた。

 まさに、そのとき!


「プルソン様! ただ今戻りました!」


 扉がギイッと音を立てて開き、シトリーが戻ってきた。

 プルソンはコホンと咳払いをして、シトリーに顔を向けた。


「うむ! ご苦労であった!」


「はっ! ありがたきお言葉! それと、一つ報告したいことがございます!」


「ふむ、どうしたのだ?」


「はい! 先ほど熱砂の国から、『セクメト様がお忍びでそっちに遊びにいっちゃったから、あとヨロシク!』、という報告を受けました!」


「な……、なんだってー!!」


 プルソンはまるで魔界が滅亡すると言われたようなセリフを吐き、驚愕の表情を浮かべた。

 そんな様子を見た魔王は、キョトンとした表情を浮かべて首をかしげた。


 かくして、やっぱりネコ科が集まりそうな予感が高まりつつ、鉱石の国でのあれこれが本格的に幕を開けるのだった。

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