帰還

 

「わたくしたち人魚族は、とうに人間族と不可侵と和平を結ぶと決めていますわ。真凛と、その知り合いの娘たちともお茶するんですの。女神族の方々も一緒にいかが?」


 と、すごいこと言い出すのはクレヴェリンデである。

 なお、一瞬驚いた女神族たちだが、アミューリアが「楽しそうですわ。ぜひ!」と言い出したのでもしかしたらとんでもなくやばいお茶会が開催されるかもしれない。

 今から変な汗出てるんだが。


「我らエルフ族も従います。……個人的に、他の種族から学ぶことが多いように思いますから……」

「マーケイルはぜひアミューリア学園に留学においでよ。僕はあと一年ほど在学しているから、共に学ぼう」

「っ……」


 マーケイルはどうやらレオに陥落したらしい。

 無理もない。

 レオ、かっこいいもんな。

 王太子として、次期王として共に学んでいくのならいいと思う。


「我々妖精族も異論ございません。なにしろ、女神の思し召しですから!」

「「「「女神マリン様のご意向のままに!」」」」

「!? わ、わたしは女神じゃないですよ!?」

「なにをおっしゃいます! 我らはマリン様に命を救われたのです! 女神エメリエラ様の力と、マリン様のお力あってこそ、我らはここにいます。そうだよな、みんな!」

「「「「はい!」」」」


 妖精族が真凛様に下った。

 なんだ、このモヤモヤとした気持ち。

 はっ、そうか!


「アニム殿、先に言っておきますが真凛様の犬になるなら俺の試験を受けていただきますよ」

「えっ」

「ヴィ、ヴィンセントさん? 犬!?」

「俺はお嬢様の犬です! なので真凛様の犬の席は空席ですが、それに座るというのならそれ相応の能力と覚悟を示していただきます!」

「やめろ、ヴィニー! 人間族に変な文化があると思われるだろうが!」


 ケリーにガチで止められてしまった。

 解せぬ。


『うふふ……ではここに、五種族に加えて亜人族を新たなる種とし、全種族の不可侵と和平を宣言しましょう。それに伴い、大陸支配権争奪戦争は禁止とします。そして——サターン』

『はい、母上』

『あなたに“審判”の権能を授けます。新たな武神たる者が生まれるまで、兼任してください』

『母がそう望まれるのでしたら』


 頭を下げるサターン。

 確か——終末の武神、だったか。

 そんなのが“審判”と“終末”の武神になるのかと思うとちょっと怖いな。

 だが、これで俺たちの望みは叶った。

 五種族で五百年周期に行われる『大陸支配権争奪戦争』は終わる。

 和平が続く限り、行われることはない。

 平和にするより平和を維持する方がよほど難しいというが、特に人間族は寿命も短いし忘れっぽいから努力を尽くしていかなければならないだろう。

 そこは信仰の力を借りるしかない。

 幸い、女神族の中に俺たち人間に親切な方々もいる。

 王家の持つ『記憶継承』と、『記憶継承』にまつわる禁忌の力も愚か者の制御に使えるだろう。

 時に汚いことも必要になるだろうが、平和を勝ち取るための犠牲——モモルたちのような、殺され、魂を喰われて二度と転生すらできなくなった者たちを思えばそれも必要。


『では——エメは真凛と人間族のところに帰るのだわ!』

「エメ!」


 巨大な姿だった女神ティターニアが、一瞬で消え去り、中から黒髪のエメリエラが出てきた。

 そのまま真凛様に抱き着いて、頬擦りする。

 羨ましいような、尊いものを崇める気持ちのような。

 っていうかエメリエラ、普通に『ウェンディール王国』に帰ってくんの。

 いいの? それ。


「エメ、いいのかい?」

『いいのだわ。エメは真凛とレオの恋の行く末を見るのが楽しみなのだわ!』

「「…………」」


 ものすごく複雑そうな真凛様とレオ。

 足下に巨大な魔法陣が広がる。

 これは、転移陣か?

 見ればナターシアが手を掲げている。


『あとは下界で話し合いを行いなさい。今の誓いを、決して忘れぬように』

「わかりました。ありがとうございます」

「じゃあ国に戻ったらすぐに使者を『ウェンディール王国』に送るわ。それでいいかしら?」

「はい。こちらも各国の使者をお迎えする準備を整えておきます」

「俺は自分で行くぜ。なんなら他の国も見てみたい」

「ハイハイ! 妖精族からはこの僕が使者として行きますよ!」


 マーケイル以外は攻略対象が『ウェンディール王国』にやって来そうだ。

 アニムは元々アルトと話したそうだったからわかるけど、ガイ、お前もか。

 クレヴェリンデも自分で来そうだよな、女王なのに。


「待ってますね!」

「ではまた」


 不思議な光景だ、と鈴緒丸が呟いた。

 前回の戦争を知っている鈴緒丸にとって、手を振り笑顔で別れる五種族なんて不思議以外のナニモンでもないんだろう。

 そう言われれば確かにそうか。

 だが、俺たちはこれが見たかったしこの結末がほしかった。

 城に帰れば、エンディング。

 俺と真凛様が目指した『ハッピーエンド』に至る。


「鈴緒丸」

『む?』

「ありがとうな」


 五百年、待っていてくれて。

 このエンディングに至ったのはお前の力も大きい。

『ウェンディール王国』に戻ったら、また見えなくなるんだろうし……最後に言うならこれだろう。


『こちらこそ主人。またいつでも使ってくれ』


 それを理解してるのか、鈴緒丸も微笑んで見下ろした。

 小さな生意気そうなクソガキの姿に戻って、転移人が光ると同時に姿が消えていく。

 二ヶ月どころか一週間もしないうちに戻ってきたら、みんな驚くだろうなぁ、と思いつつ——俺たちは約束通り、誰一人欠けることなく『ウェンディール王国』に帰還した。

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