最終戦決着

 

『愚かな子、ゴルゴダ。こんなことになるなんて……』

「エ、エメ……ティターニア……?」


 大人版エメリエラ……これがティターニア?

 え、創世女神ティターニア?

 ゲームには名前しか出てこないよな?

 復活、した?

 そんなことあんの?


『……は、母上』


 やはりというか、間違いないらしい。

 あれほど巨大化したゴルゴダが、滝のような汗を流しながら萎縮していく。

 後光がすげぇもんなぁ、やっぱ本物……ご本人登場なのか。


『鈴緒丸』

『!』


 巨大化したエメリエラ——ではなく、ティターニアの手のひらが鈴緒丸を包む。

 包めてしまえるほど、巨大化した。

 そしてその手のひらがゆっくり離れると、少年の姿だった鈴緒丸がそれはもう立派な武神のような青年の姿になっていた。

 ゴルゴダと今の鈴緒丸、どちらが武神でしょうかクイズしたら十人中十人が鈴緒丸だと答えるだろう。


『わたしは創世神。戦う力を持たぬ神。あなたの力で、愚かなあの子を終わらせて』

『承った、この世界の創世神よ。……と、いうわけだゴルゴダ。正式に依頼されてしまった』


 にやり、と笑う鈴緒丸。

 攻略対象にカウントしてもいいくらいのイケメンと化したな。

 ……あれ、刀の付喪神のゲーム、前世で流行ってなかった?

 やっぱお前だけゲーム違くね?


『さあ、主人。構えろ。この世界の全たる創世神の依頼だ。奴がどう抗おうと、もはや覆す術はない』

「……ああ」


 正式なる裁き。

 覚悟? 今更だろう。

 どちらにしても、俺は最初からゴルゴダを倒すつもりだったのだから。

 構えた刀——鈴緒丸が半透明な姿で巨大化していく。

 ゴルゴダの巨体を捉え、間違いなく貫けるほどに。

 目を細める。

 ゴルゴダの足下に、モモルを含めた各種族の世話係たちの姿が見えた。

 しゃがみこんで、首を垂れて、背を丸めている。

 震えて泣いてるようにも見えた。

 囚われて、喰われた魂たち。

 今、解放してやるよ、モモル。


『嘘だ。こんな……ここまで、やっとここまで溜めたのに! やっと、あと一つというところまで……! それなのに、こんな! 嘘だ! 嘘だぁぁぁぁぁぁああぁ!』

「鈴流祇流 天の組 貫鳴ノ雷かんめいのいかずち!」

『ギャアァァァァァアァァァ!!』


 ドームのような結界が砕け、天神族の姿が現れる。

 ゴルゴダが消え、ゴルゴダだったモノが地面に飛び跳ねながら落下した。

 てっきり消滅すんのかと思ったら、小さな妖精族になったらしい。

 しかし、その姿を見てギョッとした。


「メ、メロティス!?」

「え、ま、まさか」

『ぐう、ぁ……うう、ゆ、許して……許してください母上……消滅は、したくありません……!』

『そうはいきません。わたしが魂を喰うことを禁忌としたのは、異界に影響が出るからです。この世界のことだけではなくなるから。あなたは母の言いつけを守れなかった。武神族としての力と、天神族としての地位を奪います。それでも許されたいのなら妖精として修行し直しなさい』

『アッ!』


 ティターニアは妖精になったゴルゴダ……メロティスを指先でつまみ上げ、ポイっと戦争会場の端に捨てた。

 声が遠のく。

 いや、え?

 メロティスだっあんだけど、あれ。

 捨て……え?


「エメ……いえ、あの、ティターニア様……い、今の……」


 真凛様が恐る恐る、巨大な女神に話しかける。

 よくぞ聞いてくださいました。

 ゆっくりと振り返ったティターニアは、奴相手とは違い優しく微笑む。


『あなたたちがいずれ戦う“メロティス”という妖精ですね。わたしもエメリエラの時の記憶は持っていますから、覚えていますよ』

「そんな! 本人なんですか!? どうして……!」

『ここは空間も時間も曖昧に流れる場所。このままウェンディール王国の過去へと落ちたのでしょう。けれど、あなたたちはなにも心配することなどありません。だってあなたたちは、メロティスに“勝って”ここに来るのですから』

「「…………」」


 メロティスに、勝って。

 真凛様と顔を見合わせる。

 どちらかというと、メロティスをどうにかしたのはプリシラのような。

 ……いや、メロティスは利用できるモノすべて利用して、“橋を渡ろう”としていた。

 妖精の国に帰ろうと?

 なるほど、本当は聖域ここに帰りたかったのか。

 聖域ここに帰り、神の座に戻ろうとしていたのか……!

 結局クズはクズのままじゃん。


『さあ、それでは勝者人間族。ゴルゴダの代わりにわたしたち天神族が全員立会人となりましょう。望みを告げなさい。他の誰にも、文句は言わせません』

「あ……エメ……」


 天神族たちが、皆跪いて頭を下げる。

 俺たちは各々の顔を見てから、顔を上げて告げた。


「大陸支配権争奪戦争の廃止。そして、五種族間の不可侵、及び和平協定の締結。また、亜人族を第六の種族として認めていただきたい」

『獣人、エルフ、人魚、妖精たち……勝者はこう望んでいます』

「亜人族を認めろってのはちと、どうかと思うが……勝者の意見には従う! こいつらは強いぇ! 身も心もな。ジオ、俺は賛成するがおまえはどうする」

「ふん、あんなものを見せつけられて、反対などするものか。我ら獣人は強者に従う」


 ガイが俺たちに対してウインクして見せる。

 チッ、ムカつくけどかっこよく見えんなぁ。

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