VSゴルゴダ【4】

 

「ヴィンセントさん、落ち着いてください! 大丈夫です、わたしたちも一緒に戦います! あなたはわたしが、絶対守りますから!」

「っ……」


 横で防御壁二枚に挟まれ、影鬼が粉砕したが俺はそんなものどうでもいい。

 真凛様の声、言葉に感動して……そしてなにより焦りから冷静さを欠いていたことに気づかされた。

 俺は一人で戦っているわけではない。

 影鬼どもの横槍を完璧に防ぎ、攻撃をいなして隙を作ってくれるレオ、俺にバフや回復をかけて補助してくれるケリーとエディンも。

 魔力供給してくれる真凛様あって戦うことができていることも、俺は忘れかけていた。

 みんなで戦ってる。

 確かに攻撃は俺しかできないかもしれないが、みんながいるから攻撃できるのだ。

 情けない。

 お嬢様がここにいたら「しっかりなさい」とおっしゃったはずだ。

 ああ、そうだ。

 レオは自分の後ろにいる民と、お嬢様のことを考えれば本気になれると言っていたな。

 俺の後ろにみんながいると思えば——。


「…………」

『……ほう? よく効く薬だな』

「ああ」


 頭がスゥ、と冴え渡る。

 みんなの——このいないみんなの心も、俺の剣に乗るように。

 本当はこの場に立ちたかった者たちの想い。

 俺たちを無事に帰そうと、本当に多くのことを考えてくれた者たちの想い。

 俺たちの無事を願う想いも。


「貫鳴ノ雷!」

『っがーーァ!』


 それは決して弱くないぞ、ゴルゴダ。

 お前が喰ったものは、そういう想いのこもった魂だ。

 許されると思うな。

 そこまでのことをして、創世女神ティターニアの横に並び立てると思うな。

 俺がお前みたいなやつを、お嬢様や真凛様のいるこの世界にいつまでも立たせておくと思うな!


『なん……! 威力が、上がっていく……!? う、うおおおぉ! ふざけるな! 人間族風情に! 異国の魂風情に! 俺が負けるわけがない! 俺は! 神だぞ!』


 影鬼を急にすべて回収したと思ったら、それを吸収して巨大化していくゴルゴダ。

 悪者の典型かよ、追い詰められたら巨大化とか。

 でも参ったな、これ。

 的がでかくなったが、でかくなりすぎて届かねぇ。

 十メートル、いや、まだでかくなんの!?

 二十……三十メートルくらい?


「エメ! 僕たちに回す魔力を全部神力にしてヴィニーに渡すことはできる!?」

『え、あ、た、多分?』

「ではやってくれ! ヴィニー、エメと巫女、三人で力を合わせてゴルゴダを討ってくれ! ……いや、どんな手を使っても討て! これは、『ウェンディール王国』王太子として下す勅命だ!」

「!」


 レオ……。

 王族として、まるで偉そうに振る舞うことなどないレオが。


「かしこまりました」


 この場所以外の、すべての命のために命を下す。

 王族の勅命ってのはこうでないとな。

 影鬼がいなくなったことで、真凛様が俺の側に駆け寄ってくる。

 ゲームだったら、まさに最後の局面って感じだろうか。

 悲しいかな、ゲームではなく現実。

 でも不思議なくらいに落ち着いていて、負ける気がしない。

 あなたの差し出した手を自然に握ってしまうくらい、妙に頭はすっきりとして冷静だ。


『全従者石に回していた魔力を一旦切って、全部神力にして手渡すのだわ!』

「ありがとうございます、エメリエラ様」

『……凄まじい力を感じる……なんだ、これは……ただの神力ではない……?』


 鈴緒丸が意外そうな顔をする。

 それはそうだろう、俺と真凛様は顔を見合わせてから笑う。

 ここが正念場の戦場だというのも、分かった上で。


「そりゃそうだろう。だってこれは」

「「『愛の力!』」」

「なんだからな」

『ふふふ! なのだわ!』

「はい」


 鈴緒丸にだけはイマイチ理解し難いものらしい。

 俺も真凛様に出会わなければ、一生気づけなかったかもしれない。


「あ?」

「?」


 その時、真凛様のヘアピンが同じぐらい強い光を放ち始めた。

 なんだこれ、え、真凛様のヘアピン?

 真凛様のヘアピンといえば、俺がチェイリーブロッサムの飾りに『キリンの鱗』を交えて作り直してもらった……真凛様のお兄様が真凛様に持たせたという『キリンの鱗』付きヘアピン。

 なんでそれがこんなに光り輝くのか。


「な、なに!?」

『ななななな!』

『これは……! 神獣麒麟キリンの鱗!? しかも王獣種の麒麟の鱗ではないか! “神殺し”の神力——!』

「えっ」


 キリンってやっぱり鱗のある生き物なのか!

 と、思ったが、鈴緒丸の認識する“キリン”は、竜馬のような姿をした獣。

 雷蓮の記憶の中の“王獣種”なる生き物とは些か違うが、その獣の力は神を裁き、時に死のない神に死を与える特殊能力を持つ。

 え、待って。

 なんでこのタイミングでこんな情報が俺の脳内に流されんの?

 だてか、その力を使えばゴルゴダを……!


『ああ……』

『あ、主人! エメリエラが!』

「今度はなんだ!」

「エ、エメ!?」


 怒涛の展開が重なる。

『麒麟の鱗』の輝きを受けて、エメリエラの姿が幼女から大人になっていく。

 白い鳥の翼は虹色の光を放ち、姿も巨大に……ゴルゴダと遜色ないほど大きくなる。

 なに、なに、なに!

 なにが起こってるの!

 鈴緒丸、説明して!

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