決戦の日

 

 翌日。

 いよいよ最後の相手、妖精族との決戦の日となった。

 この戦いに勝利すれば俺たち——人間族の優勝は確定だ。

 俺たちに対しての不公平な嫌がらせが、逆に俺たちの優勝に繋がるとはゴルゴダザマァ。

 無論、ここまで来てゴルゴダの野郎がなんの保険も用意してないとは思えない。

 なにかしらの工作はされているだろう。

 なので、今日の相手は俺がレオがするつもりなのだが。


「ゴルゴダ様より戦巫女様の出場指名が届いております」


 沈黙。

 からの顔の見合わせ。

 俺たちも予想していなかったわけではないが、マジで名指しを連続でしてきたな。

 なりふり構ってられないって感じか?

 昨日は予想外にクレヴェリンデがカッコよくこき下ろしてくれたからなぁ。

 しかし、今日のはさすがに他にも手を回されているはず。

 敗者の魂を食ってるとか、エメリエラを狙っているとか、そういうのを差し引いても一度殴らんと気が済まなくなったな?


「俺たち出番がなさすぎると思わないか?」

「そうですね? これでは帰ったあとの我々の評価に傷がつきかねません。再考いただけないか、ゴルゴダ様にお伝えいたたけませんか?」

「申し訳ございません。わたくしめには、そのような権限は……」

「我々の意見を伝えてくれるだけでいいんだぜ?」

「開始の時間も迫っておりますので……」


 実際にはエディンとケリーは真凛様に剣と魔法で戦う時の訓練をつけてくれていたり、作戦を細かに考えてくれていたりしていたり、エディンは私情込みでレオの護衛に専念してくれていたりと出番がなかったとか、そういうことはない。

 むしろ剣の訓練は俺とレオでは真凛様につけることができないので、実質エディンが適任だった。

 俺は刀だし、レオは——まあ、その手加減が、な?

 ケリーも師事役としては大変優秀。

 作戦の数々はルール変更にも対応していた。

 あと、ケリーは真凛様への勉強も見ててくれてたっぽい。

 勉強というのは学園の方の勉強。

 戦争は二ヶ月という長丁場の予定だった。

 それでなくともアミューリア学園は『記憶継承』のある貴族が通う。

 真凛様には大学で学ぶレベルの専門的な知識尽くめで、それはもう苦労している。

 それが二ヶ月も穴が開くとなれば大幅な遅れが出るだろう。

 それを少しでも埋めようと、空いた時間を勉強に割いてくれていたのだ。

 うちのケリー本当優しい。クソガキだけど。

 なお、こうしてケリーとエディンがごねて見せるのも二人の作戦のうちである。

 そもそも、俺たちの主張は至極真っ当なものだ。

 こうして“きちんと主催者の理不尽な要求に対して抗議した”、という事実が大切なんだよ。

 そうすれば“主催の理不尽さを人間族はちゃんと理解していた”ってことになるし、“主催はそれでもゴリ押しした”ってことになる。

 その上、開始時間ギリギリのこのタイミングで言ってくるとか卑怯じゃね?

 まあ、俺ら全員今すぐ真凛様の代わりに自分が出るの余裕だけど。


『あいつ本当クソだな。邪神じゃん』

『最低なのだわ』


 そしてうちの神様sが、絶対零度の眼差しをここにいないゴルゴダに向けている。

 ちょっとここまで冷め切った眼差し向けられるのヤバくない?

 鈴緒丸はショタだしエメリエラはロリなので、そういう性癖の奴でなかったら耐えられないだろう。


「申し訳ありません。皆様、そろそろお時間です」

「仕方ない。こうなっては文句言うしかあるまい」

「そうですね。申し上げるしかないですね」


 要約すると「てめぇ、何度も何度も理不尽ぶっかけておきながらいつまでも逃げおおせられると思ってんじゃねーぞ。今日の戦いで俺らが勝ったらその面を白日の下に晒してフルボッコしてやるからな!」って感じだ。

 俺らここ五日間本当に我慢したからな!

 味方もいることだし、必要な異議申し立ても抗議もきちんと行った。

 その上でこの仕打ち。

『審判の武神』が聞いて呆れる!


「では、いってらっしゃいませ」


 モモルが転移陣の前まで来ると頭を下げる。

 そういえば俺たちがさったあとここはどうなるんだろうか?

 一度戻ってくることになるんだっけ?

 忘れたな?


「あ、あの、モモルさん」

「?」


 俺の記憶、そしてヘンリエッタ嬢の話では最後の戦闘で勝利し、優勝が確定したあとレオのルートだと武神ゴルゴダとの戦闘になりそのままエンディングだった。

 だからここには、もう戻ってこないかもしれない。

 真凛様はモモルの近くに駆け寄って、その手を掴む。


「短い間でしたけど、たくさんお世話になりました。モモルさんはもう、生きてない……んですよね……。でも、こうしてお会いできてよかったです。……魂もゴルゴダに食べられて、転生ができなくなったから、だから……私たちがこうして会えたのは、本当に奇跡みたいなことだと思うんです。だから…………ありがとうございました」

「……」


 モモルが目を見開いた。

 転生が、できなくなった。

 魂が、もうそこにないから。

 ああ、言葉にすると、こんなにも……。


「そうだな。食糧とか、ありがとうな、モモル」

「いつも部屋を暖かくして、灯りをつけて待っていてくれてありがとう」

「ああ、ベッドがいつも清潔だったのはよかったな。礼を言うぜ」

「お風呂も毎日沸かしてくれてありがとう」

「……!」


 真凛様が言うので、俺たちもそれぞれ宿での生活のことを感謝しておく。

 モモルは敵ではなく被害者。

 許せないのは、ゴルゴダだ。

 お前の敵は必ず取るよ、モモル。


「……行ってらっしゃいませ」

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