アルトルート破壊完了!
「……それ、アルトのイベントよ」
「やっぱり……」
数日後、『同盟祭』の概要を話し合う為に借りた広めの会議室。
その壁際でこっそりヘンリエッタ嬢に確認したら案の定。
あれはアルトルートのイベントだった。
しかし、聞けば聞くほど奇妙な事が出てくる。
確かにあれはアルトルートのイベントだが、そのイベントは『アルトと戦巫女二人きりで起きる』らしいのだ。
俺が十月に控えるであろうバトル勝利が条件のやつと同じく、そのイベントはアルトが
勝利すればアルトの『トゥルーエンド』。
勝てなくとも十ターン耐えれば応援が来てイベントはクリア。
ただし『トゥルーエンド』は迎えられない。
二人のHPがゼロになる……つまり敗北は普通に『バッドエンド』。
つまり死亡エンディングだ。
お、鬼か。
まあ、戦巫女の『治癒の力』を使えば余程の事がない限り死亡エンディングはない。
「負けるのなんて全エンディング回収班だけね」
……そんなのおるんかーい……。
「何の話だ? この間の竹取り事件か?」
はい、さすがに婚約者と二人で話されては面白くないケリーが参戦。
つーか竹取り事件ってお前……。
「ええ、なぜかアルトのイベントが起きたの。ヴィンセント、何したのよ? 絶対貴方が原因でしょ? 他に思い浮かばない」
「えぇ……? な、何もしていませんよっ。濡れ衣ですっ。そもそも無印以降に追加されているアルトルートのストーリーとか知りませんし」
「くっ。そ、そだったわね。でも、あのイベントって最後の方のイベントよ? ガッツリ進めてなきゃ起こらないのに! ……このフラグクラッシャー鈍器め……!」
「えぇ〜……」
そんな事言われても本当に分からない。
つーか、最後の方のイベントって事は、何?
アルトって誰かヒロインに攻略されてたの?
あ、でも戦巫女がヒロインの場合のイベントなんだっけ?
え?
じゃあ真凛様がアルトを……?
「?」
なんか、急に胸が重たく……。
なんだ?
あの時の事を思い出して『記憶継承』の弊害が出たのか?
それにしてはちょっと軽めなような?
「アルトの追加ストーリーイベントは『夏風邪』と『襲撃』! 『夏風邪』は恋愛イベントの入り口ね〜。家族の事で悩んでたアルトは夏を前に風邪をひいて寝込んじゃうのよ。で、それを介護……じゃない看護しに行くヒロイン」
介護って……。
まさかゲームの中のアルトって介護が必要なレベルなの?
い、いや、プレイヤー同士でそんな扱いになってるだけかも?
「そこでアルトを勇気付けて、両片想いに発展! その後、戦巫女がヒロインだと謎の手紙で呼び出されて竹林で襲われるの」
「…………」
た、多少の補正はあるものの……あれ?
「戦闘に勝利すればアルトはお父さんの本当の想いを知る事が出来て、戦争にも勝てれば『トゥルーエンド』よ!」
「…………」
「その顔は心当たりがありそうだな?」
「……う、うん、まあ?」
え?
あれ?
夏風邪……夏風邪ではないが……。
「『斑点熱』には罹ってましたよね……」
「あ、そうね?」
「そういえば唯一ガッツリ『斑点熱』患者になってたな」
それが補正的なものだとしたら、確かにアルトは『夏風邪』イベントを真凛様と過ごしてる……事になるのかな?
あの時、『斑点熱』を治癒したのは真凛様だから。
あ、あれでイベント成立した事になってたんかーい!?
「え? じゃあ竹林のアレも……?」
「……アルトルートのバトルイベントよ……。勝っちゃったから、アルトが従者なら『トゥルーエンド』一直線ね」
「へー、父親と仲直りするなら良い事したんじゃないか?」
「…………そ、そ……ソウデスネ」
ぶわ、と変な汗が出た。
え、え、じゃあ真凛様はアルトルートも同時進行してたの?
す、すげぇ、さすがヒロイン!
「…………」
そうだ。
あの人はヒロイン。
攻略対象は十人以上……。
例え他にヒロインがいたとしても、戦争では他国の攻略対象も待ち構えている。
あ?
なんなんだ、この胸のモヤモヤした感じは……。
あ、戦争の事を考えて『武神』に雷蓮の妄執が反応しているのか!
……それにしてはこう、乗っ取ってくる感じはないが……。
変な症状も起きるものなんだな。
「……?」
「どうしたの?」
「い、いえ……」
……どうしよう?
二人にも『記憶継承』の弊害の事は話しておいた方が良いだろうか?
でも、ケリールートの事でヘンリエッタ嬢は不安そうだしな。
新しく不安要素を増やすのはどうかと思う。
うん、鈴緒丸を持っていればそれだけでも多少は抑えられる。
それに、俺の精神力を鍛えれば良いだけの話だ。
よし、今後は魔法の訓練の他に実戦訓練、そして精神を鍛える訓練を追加しよう。
「精神力ってどうやって鍛えれば良いんですかね?」
「え?」
「は? いきなりなんだ?」
「いえ、やはり戦争に行くには精神面も鍛え直した方が良いと思いまして」
「これまでの会話の流れでなんでそう思ったのかは知らないが……お前の場合は簡単だ。義姉様へのご奉仕を耐えれば良い」
「……!!」
そ、そうか!
それで忍耐力と精神を鍛え——!
「……………………」
「……めちゃくちゃあからさまに死にそうな顔になってるわよ……?」
「な? 効果絶大そうだろう?」
「……ハイ……エ……マジですか……?」
「マジも何も言い出したのはお前だろ?」
ケ、ケリー……コイツ!
マ、マジでなんつー鬼畜な事を考える……!?
お嬢様にご奉仕してはならないだと!?
そ、そんなご無体な……そんな、なんて残酷な……お、俺に死ねと言っているのか……!?
大体俺がお嬢様のお食事を作らなければ誰が作るというんだ!?
マーシャやメグには到底作れないぞ!
お弁当だって、おやつだって!
なんて恐ろしい事を……!
「そうね、それは良い考えかもしれないわ」
「おおぉお嬢様ァ!?」
「ね、義姉様! い、いつからそちらに!?」
「精神力を鍛えるとかなんとか……ヴィニーが言い出した時よ。ヴィニー、お祭りの方、貴方と巫女様の案が正式に採用される事になったわ。ちゃんと会議に混ざりなさい」
「あ……はい」
マジか。
いや、採用されるのは別に……真凛様の功績にもなるし?
いや、けど、それよりも聞き捨てならない。
「お、お嬢様、あの……」
「精神力を鍛える話? そうね、やってみたら良いのではない?」
「!? そ、そんなお嬢様! ケリーの冗談ですよ!」
「最終的に執事の仕事を一日休んでも平気な顔をしていられるくらいを目指しなさい。というわけで今日からわたくしの食事は作らなくて良いわ。ルークに作ってもらいます」
「んなっ——!」
ちら、とお嬢様がルークを見る。
反対側の壁に立って、お茶汲みをしていたルークはお嬢様の視線に気が付くと近付いてきた。
あ、あっ、ま、待ってお嬢様……そんな、そんなぁ!
「ルーク、ヴィニーには今日からあらゆる執事としての職務を休み、戦争の準備に没頭してもらう事にしました。その代わりを貴方に頼みます」
「! そ、そうなのですね……確かに、もう戦争まで半年を切ってるし……。わ、分かりました! お義兄さんの代わりになるかは分かりませんが、このルーク・セレナード! 全力で取り組みます!」
「その意気よ。よろしくね。ヴィニー、貴方も頑張ってね」
「………………」
「返事は?」
「は、はい」
え、嘘だろ?
アルトルートだけじゃなく俺の執事ライフまで破壊された、だと?
誰か嘘だと言ってくれ。
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