驚きのラスト従者
「なるほど、つまり俺かエディンのどちらかという事だな」
「待て待て待て、確かにその通りだがその殺意高めで即座に剣を構えるのはどうかと思うぞ
「もちろんだ。それが最も手っ取り早い」
ええええええええぇ……。
相談した途端にこうなるぅ〜?
いや、しかし……。
「まあ良いか?」
「良くない」
「そうだな、手っ取り早いし」
「俺が圧倒的に不利だろうが」
俺とケリーは賛成なんだが、エディンは嫌がるしみんなも「それはちょっと」な空気なので残念ながらそれはなし。
残念だ。
本当に実に残念だ。
うっかり殺られてしまえば良いのにって思ったんだが。
「まあ、戦略的に考えればディリエアス先輩が適任だろうな」
と言うのはアルト。
夏なのに冬服。
その上にショール。
もはやこういうキャラデザの子なんじゃないかと思うほど、最近ショール掛けっぱなし。
ただ、若干顔色は良い。
唇もちゃんとオレンジ色レベル。
ふむ、どうやらレイヴァスさんに提供した調合は効き目があったようだな。
「…………」
あれ、今『ディリエアス先輩』……『先輩』って言った?
は?
何それズリィ……俺もツンデレにちょっと嫌な顔されながら『先輩』って呼ばれてみたい。
「(ヴィンセントさんがろくな事を考えてない時の顔になってる……。やはりここはこれしかないかな……)……あ、あの、でもクレイさんの事情もあるので……わたし、考えてみたんですが」
「巫女……」
「何か良いお考えが?」
一瞬真凛様が残念そうに俯いたが、すぐに顔を上げて提案なさる。
それは——。
「あみだくじで決めませんか」
まさかの。
まさかのあみだくじ。
嘘でしょう真凛様。
まさかの。
「あ、あ……あみだくじ……とは?」
ですよね。
みんな頭に「?」が乗っかってるよ。
ですよね。
「紙に線を引いて、横にも線をいっぱい入れて、下に二人の名前を書いて……皆さんも線を足していってください!」
え?
全員が更に頭の上のハテナマークを増やす。
真凛様、なかなかにワイルド……。
しかし、意味が分からない方が逆に良いのかもしれない。
俺はあみだくじ知ってるけど。
というか、なぜあみだくじ。
普通のくじではダメだったのか?
いえ、真凛様がそう仰るならきっと何か深い考えがおありなのでしょう。
「では! エディン様とクレイさんは右か左、どちらかを選んでください!」
「ど、どうなるんだ?」
「で、では俺は右で」
「……ひ、左で構わんが……み、巫女よ、これはどういう……」
クレイがすごいビビってる。
耳がぺそっとなってる……そんなに怖がらなくても大丈夫だぞ……!
ただのあみだくじだ!
「はい! では行きます!」
「「「な、何が……」」」
みんなも怯えてる。
紙に線を引いただけなのにそんなに困惑するとか。
いや、だが戦巫女の力で普通のあみだではなのかも?
指先でエディンの名前を指差して、線を指でなぞっていく。
下の『従者』と書かれた部分は紙が折られて分からなくなっている。
「ちゃらっちゃっちゃ〜♪」
な、なんと!
『CROWN』の『ギフト』ですね!
良い曲ですよね、分かります!
今に相応しい曲……さすが真凛様、ナイスチョイスかと!
「(ヘンリとヴィニーはなんで笑顔なんだ?)……巫女殿、それは……何をしているんだ?」
「えーと、こうして線をなぞっていくと、はい!」
真凛様の指が紙の一番下まで降りた。
ついに従者最後の一人が……!
…………こんな決め方で本当に良いのだろうか。
いや、真凛様が決めた事だし!
女神のご加護的なものがあるかもしれない!
じゃんけんとかだと動体視力のやばいクレイが勝ってしまうだろうし!
真凛様が正しい!
「決まりました! 最後の従者は…………エディン様、お願いします!」
「……、……あ、ありがたく拝命する……」
「…………っ」
ガーン、とあからさまに落ち込むクレイと、複雑そうなエディン。
ん、むう?
ま、真凛様、この場の空気はどうしたら……。
「……戦略も何もあったものではないが……女神エメリエラの選んだ巫女が選んだのなら……何か意味があるのかもしれない……?」
「そ、そうですね?」
と、真面目に分析しようとするアルトとラスティ。
いや、めっちゃあみだくじだし、横線入れはみんなでやったじゃん。
「く、くじって本当にくじだったんだね」
「は、はい! くじです!」
レオの呟きにガッツポーズ付きではっきり「くじ」って言った真凛様。
ちらりとクレイを見ると、耳が……耳が!
「ク、クレイ!」
「つ……つまり、俺にはくじ運がなかったという事なのか……あ、亜人族の命運が俺のくじ運如きに……」
「お、落ち着け、そういう事ではあるような気もするがそこまで深刻に受け止めるべき事ではない! 多分!」
両膝と手を付いて完全に落ち込んでしまった!
でも確かになんとなくくじ運とか幸運値とか低そう!
「み、巫女様、本当にエディンでよろしいのですか? 私も戦略的に考えれば『風属性』で剣も弓も使えるのエディンの方が良いとは思いますが……性格に難しかありませんよ?」
「おい」
スティーブン様が困った顔で進言するも、何気にエディンを従者に選ばない理由が性格だけというのもなんというか……腹ァ立つな。
しかしそれを聞いて真凛様がくじの紙を持ち上げ、困った顔をなさる。
「だ、ダメだったでしょうか? じゃあ、やっぱり他の方法で……」
可愛い。
「ダメではないですが……」
スティーブン様の困り顔も可愛い。
「ふむ。クレイは僕らに何か思わぬ事が起きた場合の補欠という形で良いんじゃないかな。一応ね。まだ半年あるし、僕らの中で怪我をして動けなくなったり、病気をする者が出るかもしれないだろう? 作戦はその分多く考えておけば良い」
「お、王子……」
「そうですね。最近陛下も体調が芳しくないようですし、レオ様が半年以内に急遽即位する恐れも……」
「そ、それはさすがにないんじゃないかなぁ!」
体調ねぇ。
……いや、しかしスティーブン様の言っている事はユリフィエ様の事含みだろう。
『王誕祭』でユリフィエ様が乱入してきて、俺を『オズワルド』と呼んでから、いくらあの方が心を病んでいて誰もその言葉を信じなくとも……当事者からすると相当なダメージだったようだし。
自業自得だけど。
自業自得で俺からすると割と「ザマァ」と思わんでもないけど!
レオやお嬢様伝手で聞いただけだが相当参っているらしい。
ルティナ様がケツを叩くのに忙しくしておられるようだ。
……なんつーか、いっそ最初からあの陛下の正妃がルティナ様ならこんな事になってないのでは、と思ってしまう。
まあ、その場合俺やレオやマーシャは生まれてなさそうだよな、あははははは。
「だからって『従者』や陛下に暗殺考えるなよ」
「そ、そんな卑劣な事はしない。メロティスでもあるまいし」
「……メロティスか。あいつ今頃何してるんだろうなぁ。大人しすぎるのも気持ち悪いんだが」
「……恐らく戦争時にしか開かれない『道』の出現を待っているのだろう。妖精族の国に行くのが目的のようだが、受け入れられると思っているのか……」
確かに。
妖精族の方が亜人族をどう認識しているのかは知らないが、妖精族は基本他の種に興味が薄いと聞く。
とは言えよそで他種族を殺して回るような奴を「ようこそ」と出迎える程呑気ではないだろう。
その辺りは妖精族の寛容さ次第だが……。
「ヘンリエッタ様は妖精族にもお詳しいですよね? 妖精族がメロティスに会った場合どう対処すると思われます?」
「え? ……えーと……」
「!」
あれ、この反応……。
もしかしてゲームでメロティスって出てこない?
「た、多分、はっ倒されるんじゃないかしら?」
……そんな事もないのかな。
クレイルートとかだとラスボスで出てきそうだし。
メグでクレイ攻略中なら、最終的にクレイルートでメロティスははっ倒されるって事なのだろうか?
はっ倒される程度だと若干気が治らないので八つ裂きぐらいでお願いしたいのだが。
……まあ、クレイの様子だと自然とそうなりそう。
亜人同士、因縁深いっぽいし。
「では、クレイ様は補欠という事で!」
と、スティーブン様が綺麗にまとめ上げる。
これにはクレイも渋々納得してくれた。
まあ、ごねても仕方ないしな。
そんな歳でもないだろうし。
「はいはーい! 俺っち今日はレオハール様と模擬戦したいでーす」
「えぇ……魔法ありの?」
「もちろんでーす!」
切り替えの早いハミュエラ。
いきなりレオに模擬戦挑むとは相変わらず無謀というかむちゃくちゃというか。
しかし魔法ありとなるとレオも困り顔。
相性的にも剣の実力的にもレオが有利なのだが……ハミュエラの風魔法の使い方は猿そのものというかアクロバッティックすぎて動きがまるで読めない。
相手にするのは相性的に有利だとしても、割と嫌だ。
分かる。
「待て。それならば俺が王子と戦う」
「え、えぇ……なんなのクレイまで……」
レオが肩を落として嫌そうな感じに困っていると、クレイがようやく立ち上がった。
耳も尻尾も突然のやる気に満ち溢れていて今日もクレイの耳が可愛い。
クレイの三角の耳とか尻尾見てると獣人を見た時、濡れたお鼻とか触らずにいられるか、不安になるよなぁ。
「こうなったら俺は全力で貴様らを戦争に勝たせる側……サポートに回る事にする。ならばまずは王子、その中途半端な戦い方を鍛え直せ」
「え?」
「本気で戦った事がないな? 見ていてイライラする」
「……っ」
「!」
……本気で……。
そういえばレオが本気で戦ったところとか見た事ないな?
あ、でも俺やライナス様やエディンも鉄剣でさえたまに壊すから、本気では……。
そもそも模擬戦で本気とか出さなくない?
ある程度、相手に配慮して……するもの、だよな?
まあ、レオは特に本気ではやらないタイプというか……。
「でも僕は……」
「他の者がどうかは知らないが、自らの本気を把握しておかねばいざという時に最大限の力を発揮出来ないぞ。まずは自分の限界を知る。そこから手加減して初めて戦う者となる」
「……う……」
レオは争いが嫌いだ。
それは多分、王族の血筋の中でも如実に身体能力が高いから。
俺も『クレースの名』を借りてから体が軽くなっている。
この状態で鍛え続けてきたなら、獣人の身体能力くくらいは出せるようになっていそう。
まあ、予想というか、イメージだけど。
……その分、『記憶継承』の弊害も……まあ強めに現れるようになったが、『クレースの名』を借りる前からだからコレは完全にきっかけがエリックだろうな。
チッ、あの野郎。
とことん嫌な野郎だったな、マジで。
「……でも、壊すかもしれないし」
「巫女、確か光の魔法は結界を張れたのだったな?」
「あ、は、はい。エメ、そうだよね? うん……」
「巫女、結界って張れる?」
「は、はい! 出来ると思います。やってみます!」
え、マジで?
真凛様も光の魔法が使えた……のか。
あれ?
じゃあレオも使えるのでは……?
「え、えーと……」
「魔法も同じだろう。魔法ありで出し惜しみせずぶつけてこい。俺ならば無効化出来る」
「…………」
うーん、レオよ……とりあえずクレイの懐を借りる感じでやってみると良いのではなかろうか。
身体能力の高さなら、クレイより高い奴はいないはずだし。
俺は『トゥー・ラブ』プレイしてないけど、見かけたステータスはレオとクレイ、どっこいどっこいだった気がする。
二人の模擬戦か。
単純に興味深い。
「エメ、結界よろしくね」
真凛様が手を掲げると、虹色の光が降り注ぐ。
俺たちのいるベンチから、魔法研究所側の壁に沿って薄い光の幕が出来上がる。
クレイとレオは、その中だ。
「本当にやらなきゃダメ?」
「ダメだ」
「終わったら俺っちとも遊んでくださいねー!」
「うー……」
さすがハミュエラ。
しかし、レオの本気かぁ……どんなものなのか。
「では行くぞ」
「わ、分かったよ〜」
レオが構えたのは亜人族から献上された剣。
ようやく観念したのか。
クレイも二本の剣を構える。
「では! 僭越ながら私が審判を行いますね」
スティーブン様が一歩前に出て、結界ギリギリ側で手をあげる。
エディンがものすごく「やめとけ」という顔をしているのだが……スティーブン様がやりたいというのならやらせて差し上げろ。
多分、分かっておられないのだろうが、そのウキウキとした様子が可愛いので眺めていたい。
「始め!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます