お嬢様の誕生日パーティー……で起きた事件
「…………お嬢様……」
「言わないでいいわ。分かっています」
さて、同盟締結も無事に済んで1ヶ月が経った10月29日。
本日はうちのお嬢様の誕生日パーティーが学園のダンスホールで行われる。
お嬢様の誕生日は10月30日なのだが、その日は『女神祭』のパーティーがあるので登城しなければならない。
故に前日の今日、ダンスホールを借りて行う……の、だが……。
「ようこそいらっしゃいました、陛下、ルティナ王妃。身に余る光栄です」
「ふむ」
「ごめんなさいね。…………本気で止めたのですが行くときかなくて…」
「い、いいえ」
「本当にごめんねローナ……僕もまさか本当に本気で来ると思わなくて……」
「だ、大丈夫ですわ」
割とガチでルティナ妃とレオが頭を抱えておられる。
う、うん、そ、そうだよな。
な、なんで一生徒のお嬢様の誕生日に来ちゃったんだよ陛下〜⁉︎
突然の陛下来場に生徒はおろか教職員その他関係者全員とんでもない事になってんですけどおおぉ〜っ!
「おお、マーシャ。今宵のドレス姿もよく似合っておるな」
「ふぁ! は、は、は、は、はははひぃ! あああののののド、ドレス! 贈ってくださりありがとうございます!」
「良い良い、その姿を見に参ったのだ。畏まらずとも良い」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「…………ごめん」
「いや、お前は悪くない」
…………さて、状況の説明をしよう。
ほ、本日はお嬢様の誕生日パーティーが学園の! ダンスホールで行われる。
案の定というべきか、ダドリー・オークランドの友人のパーティーの後片付けが異様に遅くて俺たちリース家の使用人は半ば諦めて会場を西区の別邸に移す話し合いをしていた。
そこへ城の使用人、メイド等が押し寄せてきたのだ。
なんだなんだと困惑する俺たちは城の執事長だという男性からとんでもない事を言い渡される。
「陛下が本日ローナ様のお誕生日パーティーにいらっしゃると」
「ほああ⁉︎ どどどどどういう事ですか⁉︎」
「ヴィニー! 大変だよ! 陛下が……あ、ロビン! ヴィニー、ロビンに聞いた? 陛下が来るって!」
「あ、レ、レオハール殿下! きき、きき聞きましたけどどうしてそんな事に⁉︎」
「…………そ、そ、それが……あ、明日の『女神祭』にマーシャ連れてきてほしいとか言い出したからさすがにドレスを持ってないんじゃないかなって言ったら一式用意してて」
「…………」
そ、その事前準備の良さはもはや計画的犯行なのでは。
「でも今日はローナの誕生日だから忙しいんじゃないでしょうかって言ったら城の使用人を派遣するって言い出して」
「我々がお手伝いに参りました」
「お、おう……」
た、大変助かりますけれども。
「…………最終的にはやっぱり会いたいって言い出して……それで、ルティナ妃と一緒に引き止めたんだけど……もう聞く耳がないというか……」
「そ、そうか……」
「僕ものすごくローナに話しかけづらくなるんだけど〜……」
「そ、そうだなぁ」
気にするなよ、とは言い難い。
城のホールほど広いわけじゃないのに、王がそこにいてうちのお嬢様とのやりとりを見てると思うとそりゃぞっとしねーわ。
しかしそれは招待客も同じ!
俺も同じ!
はあ? マーシャに会いに来る、だと?
お城のメイドさんたちが異常事態に疑念を抱きながらも『前妃マリアベル様によく似たメイドの少女を陛下が見初めた』とぶっ飛んだ方向に勘違いしてうちのお嬢様をすっ飛ばし、マーシャへ媚び媚びしながら『マーシャパーティー仕様』へ仕上げていく。
そのスピードは、まさしく城の一流メイドさんたちである。
マーシャがパーティーへ参加するのはうちのお嬢様が「慣れさせる」目的で決まってはいた事たが、思いもよらぬ展開過ぎて正直まだ頭が追っつかない。
回想終了。
「……陛下が余計な事をしないよう、わたくしがしっかりと見ておきますが……わたくしたちのせいでより貴女には気を遣わせてしまいますね」
「いえ、このような事は恐れ多くはございますが、主催としてしっかりお迎えさせていただきます」
「そう……。……公爵家はサウス区、ハワードご夫妻以外は貴女を認めた。加えてリエラフィース家、オルコット家もまた、貴女側。……ふふふ、さすがはリーナの娘……ものの2ヶ月程度で、学園はおろか国の公爵、侯爵家を味方に付けてしまうなんてね」
「恐縮でございます……と、申し上げたいところですが、まだまだです。……わたくしはもっと多くの方に、きちんと心より認めて頂けるよう今後も励む所存です」
「よろしい。そのくらいでなければ次期王妃は務まらない。政に関してももっと学んでおいでなさい。レオハールは政にも長けているようですが、だから王妃が無知で良いわけではない。むしろ、理解した上で支えて差し上げるようでなければ」
「はい。精進いたします」
「とはいえ、婚約は内定したも同然。……レオハール殿下」
「は、はい」
「いつ、申し込まれる予定なの?」
「え、えーと……」
目を泳がせるレオ。
そ、それはそうだろう。
まだパーティーの時間ではないが、リース家や城のメイドさん、使用人たちは聞き耳を立てている。
陛下の相手であわあわしているマーシャはともかく、お嬢様が隣で目元を赤くして俯いているのだ。
そ、それここで聞く?
今、聞く⁉︎
「……つ、通例に習おうかとは思っておりますが……」
「ああ……『星降りの夜』ですわね……ええ、いいと思いますわ。あの夜に婚姻を申し込まれるのは女に生まれたからには一度は必ず夢見るもの……。楽しみにしておりますわね」
なぜルティナ妃がうっとり、楽しみに?
い、いや、まあ、別にいいんですけど。
「…………」
「…………」
「…………」
俺の斜め前で顔を逸らし、頰を染めるお嬢様とレオ。
なん、な……なんだこの甘酸っぱい空気……。
い、いや、今婚約をいつ結ぶかの話……だもんなぁ……ふむ……。
「…………」
そうか、そうだな。
つまり……お嬢様とレオは晴れて恋人に……。
「…………?」
……なった、のか?
「ふふふ、では……今後は2人で出掛けられたりもなさるといいわ。周囲にきちんと示しておく事も大切ですわよ」
「…………、……は、はい……」
「……っ」
……2人で、出かける……2人で……お嬢様とレオが2人で出掛け……。
……………デートの事か!
ル、ルティナ妃ゴリゴリ押してくるな⁉︎
そ、そうか、婚約者になる以上そういう“付き合ってるアピール”も必要なのか!
な、成る程!
「ええと、では、ローナ、今度どこかに、で、出掛けようか……?」
「……は、は、はい……」
ぎ、ぎこちねー!
でもルティナ妃めちゃくちゃ目が笑ってる!
すごく楽しそうに眺めてる!
扇子で口元を隠してるけど絶対にによによしてるぞ!
俺はなんとなくむず痒くて吐きそうなんだけど、なんだこれなんだこれ!
「こほん」
「! ……あ、あら、ケリー」
おおっとここでシスコンが介入。
あ、ありがとうケリー、俺にはどうする事も出来なかったのでとても助かった!
……いい事、のはずなのたが、なんかこう、胸が焼けるような気分だ。
「こんばんは、ルティナ様。今宵は義姉様の誕生日パーティーにようこそお越しくださいました。心より歓迎致します」
「いえ、いきなり押し掛けてごめんなさい。本当に……ほんっっっっとにバッッッカじゃないのあの男……」
「ル、ルティナ様……」
心の声が駄々漏れてます!
多分この場の全員がそう思ってますけど!
「……陛下にはもう少し自重願いたかったのだけれど……来てしまった以上、周囲には貴方の義姉がレオハール殿下の婚約者として内定したものと映るでしょうね」
「願ったり叶ったりでは、あるのですが、まあ……その、なんというか……」
「…………そうね」
と、ケリーとルティナ妃が表情を全くの無へと変える。
そして俺たちが視線を投げるのはマーシャにメロメロの陛下だ。
………………うわあ……引くわー……。
「……明日の『女神祭』、城で行われるパーティーにもいらっしゃるの? あの子」
あの子……マーシャの事である。
ルティナ妃の眉根がそれはもう先程では考えられないほど深々と皺が……。
……この人はどの程度、マーシャの事を知っているんだろう?
それにもよるなぁ……。
「ええ、僕が招待していますので」
「? 殿下が? まあ、どうしてかしら?」
「……それは、近いうちお話しいたします。ルティナ様にも知っていて頂きたいと思っておりましたので」
「……そう、分かりました……貴方がそこまで言うのなら、わたくしはなにも言わないわ。お話ししてくださるのを待ちましょう」
「ありがとうございます」
「…………」
と、言うことはマーシャが『マリアンヌ』である事をルティナ妃はまだ知らないって事か。
…………え? じゃあ今ものすごく不愉快全開の表情だったのはまさか……城のメイドさんさんたちが『陛下の新しいお后候補!』……ってそっちの噂の心配してたって事、か?
ヒ、ヒエェ……それだけは勘弁ンンン‼︎
つーかそれは絶対に許さん。
「ヴィニー、顔が暗殺者みたいになってる」
「え、嘘。いや、つい」
「なに考えてたかなんとなくわかるけど……いや、いいけどさ」
ケリーに小突かれてハッとする。
いかんいかん、さすがに陛下を暗殺だなんて色んな意味でヤバいヤバいヤバい☆
「…………」
「ケリー?」
「……んー、まあ、いや……。……内定か、と思ってさ」
「ああ……」
複雑だよな、お互い。
いや、いつかこんな日が来るのは分かっていたはずなのになぁ。
お嬢様が、結婚……。
く、くううぅっ!
「俺はその為にリース家に引き取られたんだからと、分かっていたはずなのに……」
「ケリー……」
「……『星降りの夜』に殿下と婚約かぁ」
「………………」
……まさか。
いや、だが……こいつなら……。
「言っておくが妨害はしないぞ。俺だって義姉様には幸せになってもらいたいんだから」
「良かった」
「殿下は義姉様のことをちゃんと分かっていたようだし」
女神なのを重々理解しているからな。うん。
「…………いいよ、あの人なら」
「……そうだな」
ふっ、と微笑む。
その眼差しのなんと優しい事か。
……良い男だなぁ、ケリー……。
「接してきて分かるけどマジで天然で優しいし料理も嗜むし運動も勉強も剣技も乗馬も血筋もなにもかも遥かに上なんだもんなぁ……その上王子とか、はっ、なんだよあのハイスペック完璧超人……クソが! 勝てるところが一つもないっ! そんなん認める以外の選択肢がねーし!」
「……………………」
半泣きのケリーは俺がナデナデしておきました。
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