番外編【マーシャ】2



「はい、お誕生日おめでとうマーシャ」

「わあ! ありがとうございますー!」


お城へ上がる少し前、お嬢様はわたしに誕生日プレゼントをくださった。

ピンクの包装紙に巻かれた細長い箱。

わ、わあ…開けたい! 開けたい!


「それと、これはヴィニーから。こちらはお父様とお母様とケリーからね…ああ、ローエンスからも送られてきているわよ」

「わ、わぁぁ!」


はい、はい、と更にそこへ綺麗な包装をされた箱が重なる。

義兄さんからのは大きい!

わあ! わあ! あ、開けたーい! 開けたーいっ!


「ちゃんとお留守番が出来たらこれもあげるわ」

「⁉︎」


お嬢様がほい、と手渡してきたのは…お嬢様が去年誕生日に着たドレス!

え、ええええ⁉︎


「おお、お嬢様これは!」

「新しいのを買ったからかさばるのよ。売ってお金にすればそれなりにまとまった額になるはずよ。…それで好きなものを買いなさい」

「で、でも!」

「…………。着てみる?」

「ほあ?」


思いもよらない言葉に変な声出たさ。

首を傾げたお嬢様。

お嬢様は、もう髪もドレスもきちんと整えられていて、あとはお出かけするだけ。

新しいドレスはこの間、お休みの日にお出かけした時に作られたもの。

薔薇があしらわれた淡い紫色のドレス。

や、やっぱりお姫様みたいでお綺麗だぁ〜…と見惚れていたら、わたしがドレスを着てみたいと受け取ったらしく「手伝ってあげるわ」とメイド服はあれよあれよと脱がされた。

コルセット…めっちゃきつぅぅぅ!

お嬢様こんなの毎日してるべさーー⁉︎

お嬢様のヒール…ひええええ⁉︎ た、高いぃ!

目線が違うべさーーー!

髪もあっという間にアップにされて…お化粧までも!


「お、お嬢様っ」

「出来たわよ。鏡を見てごらんなさい」

「!」



え……。



いつもと違う…たまにお嬢様がパーティーの時にする髪型。

体のラインがはっきりとわかる紫紺のドレス。

別人みたいに…これ、わたし?


「…綺麗よマーシャ。…こんなに綺麗では、お城へ連れて行ったら主役の座を奪ってしまうわね…」

「あ、あう…」


そ、そんな事ない。

お嬢様の方がずっとずっとお綺麗だ。

わ、わたしなんか鏡もまともに見れねーよっ。


「そのドレスはあげるわ。でも宿舎へ戻る時は着替えなければダメよ。そんな格好で使用人宿舎に行っても入れてもらえないわ」

「…あ、は、はい…」

「せっかくだからこの部屋で少しその姿を楽しんで、プレゼントも開けてみなさい。わたくしはそろそろ出ないと。…それじゃあね」

「は、はい! 行ってらっしゃいませ!」


パタン。

閉まる扉。

静まり返るお嬢様のお部屋。

この部屋には…なんでか着飾ったわたしだけ。


「…………でも…」


鏡をもう一度見る。

ま、まるでお嬢様みたいな…う、ううん!

なんて図々しい!

お嬢様の方が圧倒的にお綺麗だ!

…で、でも…この格好は、純粋に嬉しいべさ。

本当はずっと着てみたいって思ってた。

なってみたいって思ってた…。

くるりと回る。

ドレスはふんわりと浮き上がり、高いヒールの靴でわたしはコケかける。


「ぐっ!」


…あ、危ない!

お嬢様、こんな危ないもん履いてあんなに優雅に歩いてらっしゃるんか⁉︎

す、すげーべさ!


「お?」


…倒れかけた拍子にプレゼントの山を発見したべさ。

そうだ、お嬢様にこの部屋で開けてオーケーもらったんだ。

お嬢様からのプレゼント。

義兄さんからのプレゼント。

義父さんからのプレゼント。

旦那様と奥様とケリー様からのプレゼント。

むくむくワクワクが育ってきたべさー!


「開けてみよ!」


ワクワク!

なにがはいってるのかなっ!

えーと、まずは旦那様達からの…。


「わあ! ノートと万年筆〜!」


メッセージカードには「これでたくさん勉強しなさい」というお言葉が!

ありがたいべさ〜っ!

…次はどれにしようかっ。

や、やっぱり一番大きい義兄さんからのプレゼントが気になるべさ…!


「!」


包装紙を破いて、箱を開ける。

あ、こ、これ…。


「メリー・ジェーン…」


この間、皆さんとお出かけした時に見かけたやつ。

ウインドウに飾られててすごく可愛くて…そしてすんごく高かったやつ!

に……義兄さん……あの時、なんか元気なかったのに…。

メッセージカードには「滑り止めが付いているから多少コケなくなるだろう。働け」と…!

に、義兄さんんん!


「働く!」


お嬢様のためにわたしもがんばるよ!

ありがとうヴィンセント義兄さん!

じゃあ義父さんは…なにをくれたのかなっ。


「! わあ、髪留め…」


すごくシンプルだけど、コーム状の髪留めだ。

貝殻の裏側をふんだんに使ったすごくキラキラしたやつ!

メッセージカードには「健康に気を付けて、お嬢様をしっかりお支えするんだよ。パパより」とある!

えへへ、ありがとう義父さん!


…………。


とうさん。

にいさん…。

えへへへ…。


物心ついた頃にはばっちゃと2人だけだった。

家族は他にいなくて、ばっちゃの親戚だという人に頼み、貴族様のお屋敷を転々としながら働いて生きてきた。

でも、ばっちゃが具合さ悪くなって、わたしが働いてばっちゃを支えねーとなんねくなった。

それはいい。

ばっちゃはずっとわたしのことを育ててくれたんだ。

わたしが恩返しすんのは当たり前だ。

でも、わたしはドジだから…。

お嬢様や、リース家の皆さんはわたしみたいなドジも受け入れてくだすった。

それだけでねぇ。

ローエンスさんはわたしのことば籍さ入れてくだすって、ばっちゃのことも助けてくれた。

仕事も義兄さんがいつもフォローしてくれた。

おかげでわたし、少しは成長したよね。

ごく当たり前みてぇにわたしなんかと家族さなってくれたローエンス義父さんとヴィンセント義兄さん…。

ばっちゃ、わたし今とんでもなく幸せだ。

早くばっちゃも体良くなって、リース家さ来れるといいな。

ばっちゃの身体治ったら迎えさ行くからがんばってな!

わたしもめっちゃがんばるさ!


「…………あ」


最後はお嬢様からのプレゼント!

でも、もう素晴らしいもんいただいちまったし…。

その上、もう一つもらってええんだろか…。

ううん、ちゃんと留守番してたらって言われたさ!

包装を開けて、箱を開ける。

これは…!


「わ、わあぁ…懐中時計!」


義兄さんは12歳の時にお嬢様に貰ったって言ってた懐中時計。

メッセージカードには「最近お茶の淹れ方を覚えてきたマーシャへ。お誕生日おめでとう。よければ、使ってちょうだい」と美しい字で書いてあった。

義兄さんもお茶の蒸し時間を懐中時計で測ってたから…羨ましかったんだ。

わたしの懐中時計には薔薇の花が彫られてる。

か、可愛い…絶対オーダーメイドださ!


「…………お嬢様…」


嬉しい。

嬉しい…!

わたし、がんばるべさ…!

今よりもっともっとお仕事覚えて、お嬢様に自慢のメイドって言っていただけるように!

よーし!


「あいだ!」


グキッ。

…………うん、まずは着替えるさ…。

高いヒールの靴はやっぱりわたしには似合わねーさ…。がくりー。




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