9・はじまりのエピローグ

1・子供が笑う

 太陽がすっかり沈んでしまい、空にはぽっかりと月が浮かんでいる。


 星たちは輝いているが、それを地上の人々が気づくにはあまりにも街の明かりがきらびやかであった。


 仕事帰りらしい大人たちが繁華街に繰り出し思い思いの時間を過ごしている。


 そんな中で、フードをかぶった子供が二人。軽い足取りで歩いていた。


「失敗しちゃったね」


「うん、大失敗だよ」



 言葉の内容とは違い、二人の子供の口調は柔らかだ。



「回収できなかったね」


「うん。回収できなかったね」


 夜も更けたとはいえ、都会の町はネオンの光で明るい。


「しょうがないよ」


「しょうがないね」


 そうとはいえども、小学生っぽい子供だけで歩くのはすでに襲い時間だ。警察がいればすぐに歩道されそうだが、あいにく二人の子供に気を止める通行人はいなかった。


「あれを回収する意味なかったからね」


「うん、あれを回収する意味なかった」


 スキップするかのように歩く二人の少年たちはふいに足をとめる。


「でもね」


「でも……」


 そこには一組の男女が歩いている姿があった。

 ふたりともスーツ姿の男女で仕事帰りといった感じだ。



 どうも恋人同士には見えない。


 上司と部下といった雰囲気だ。


「今度はどう?」


「今度はどうかなあ?」


 二人の子供は仕事仲間らしい男女をじっと見つめたかと思うと、突然走りだして男女の横を通りすぎていく。


「手に入る?」


「手に入るよね?」


 男が子供たちが通りすぎるのを見送り、女はひたすら行き交う人々の姿を眺めていた。


 やがて女の視線がひとりの少女へと注がれた。


 まだ高校生らしき少女が暗い顔をして歩いている。


 少女は女とぶつかった。


「すみません」


 少女はすぐさま女の顔をみながら謝った。


 女は「大丈夫」だと笑顔を浮かべる。



「本当にすみません」


「いいのよ。気にしないで」


 そういって、男女と少女は別れていく。


 その様子を二人の子供たちは見ていた。



「今度はあれかな?」


「うん、あれだね。クスクス」


 少女はうつむきかげんで、さ迷うように歩いている。



「また邪魔しにくるかなあ。クスクス」


「くるよ。ぜったいにくる」


 スーツ姿の男は、上司らしき女性に何かを話している。


「また、遊んでくれる?」


「うん、遊んでくれるよ」


 上司の女性はふらふらとさ迷うように歩く少女の方へと視線を向けながら、男に何かを伝えている。


「楽しみだなあ」


「楽しみだね」


 やがて、男女が別々の道へと歩いていく。


「今度はなにして遊ぶ?」


「今度はどんないたずらをする?」


 男は女の背中をしばらく見つめていたが、来た道を引き返し始めた。



「遊ぼう」


「遊ぼう」


 男は子供の後ろをついてくる。


「また楽しく遊ぼうよ」


「もっと面白いことして遊ぼうよ。朝矢くん」


 そういって、二人の子供たちはクスクスと楽しそうに笑い続けている。



 そして、子供たちとその男の姿はネオンで彩られた繁華街の影に隠れて消え去った。





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