12・望み
鳴りやまない
鳴りやまない
「いなくなれよ」
「キモイ」
「みないでよ。気持ち悪い」
「消えろ」
消えろ
消えろ
いなくなれ
ウザい
死ね
死ね
死ネ
死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ
死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ
耳をふさいでも聞こえる声
悪意に満ちた声
たまらない
もう嫌
もう嫌
最低
裏切られた
裏切者
裏切者
裏切者
裏切者
裏切者
裏切者
ウラギリモノ
ウラギリモノ
許さない
許さない
許さない
許さない
許さない
許さない
許さない
許さない
お願い
お願いだから助けて
助けて
私を助けに来て
………………
…………
……
…
・
・
・
・・・
・・・・・・・
「いつまでそうしているつもりなんだ?」
誰かが話しかけられて、葉山麗はハッとする。
顔をあげるとそこは見慣れた学校の塀の外側。電信柱のそばで仰向けに倒れている自分に気づいた。
そんな葉山麗を覗きこんでくるのは少年。少女かもしれない。声が幼く小学生ぐらいに思える。
「だれ?」
黒いフードを被っているから顔ははっきりとわからないが、なんとなく見える姿にはまったく見覚えがない。
それなのに子供たちは麗を知っているかのように笑っている。
「はじめましてかな? ねえ、ハダ」
「はじめましてだよ。シロ」
二人はお互いに顔を見合わせて笑っている。それは明らかにいたずらを思い付いた子供そのものだった。
「だれ? 私はなぜここにいるの?」
「忘れたの?」
「君は待っていたんだよ」
「待っていた?」
「そう。久しぶりに会えてうれしかったんだね。だから、また会えるってずっと待ってたんだよ」
待っていた?
だれを待っていたのだろうか。
麗は記憶を探る。
「でも、もうここには来ない。逢うことはないんだ」
どういうことなのか麗には、まったく理解できなかった。
会えた?
もう会えない?
誰に?
麗は記憶を探る。
会えた。
確かにこの場所で彼に会えたのだ。会話は交わさなかったけれども彼も麗を認識してくれたのだ。
「あの人のおかげで確かに会えたわ」
「あの人? あの人ってだれ?」
「知らない」
「ふーん。どうでもいいかあ。ねえ、ハダ」
「そうだね。シロ」
そして、二人の子供は麗を見る。
「じゃあ、本題に入ろうか」
「入ろうか」
そして、子供たちは麗にあることをつげた。
麗は驚いた。
ただ信じられずに子供達を見る。
「本当だよ。許せないよね」
「許せないだろう」
子供達がいう。何度も何度も麗に囁き続けるのだ。
許せないだろう
許せないだろう
会いたいよね
会いたいよね
手にいれたいよね
手にいれたいよね
繰り返し、繰り返し囁いてくる。
麗のなかの望みも闇もすべてを吐き出させるようにうながしているのだ。
「どうすればいい?」
麗は尋ねる。
「どうすればいいの? 私はなにをすればよかったの? 私はなにがしたいの?」
「君が歩み寄るしかないよ」
子供の一人が言った。
「歩み寄る?」
わからないという顔をすると、子供達がクスクスと楽しそうに笑う。
「こんなになってしまった私になにができるというの?」
こんなこと?
自分の発した言葉でようやく麗がこんなところに倒れている理由に気づいた。
死んだんだ。
麗はそのときようやく、肉体のない魂の状態であることに気づいた。
「大丈夫。ぼくが手をかしてあげる。その代わり……」
麗は子供たちの言葉の意味が最初理解できずに唖然とした。
けれど、この子たちならば、麗のなかにある願望と無念をどうにかしてくれるような気がした。
「なんでもするわ。だから、私に機会を頂戴」
麗は子供に手を伸ばした。
「いいとも」
すると、麗の手をにぎると手を引っ張り、体を起こした。
「だれが許せない?」
麗を起こした子供達がまた尋ねる。
「君のすべてのモノを奪ったものへの復讐?それともこの世? ここに生を受けたこと?」
「違うね。許せないじゃない。ただ願っているだけだね」
「願っている?」
「君は願っているもの」
「そんなもの……」
「あるだろう。僕たちにはわかる。君が願うもの。僕たちは叶えられる」
どうやって?
「くればわかる」
「いけばわかる?」
「ああ。くれば叶う。その代り、対価がいる」
「対価?」
「そう対価。簡単なことだよ。君が君でなくなることだよ」
「私が私でなくなる? ああ、でも私はもう死んでいる。私である必要ないじゃない」
「そうだったかな。まあ、どちらでもいい。君には力を与える」
「力?」
「君の願いをかなえる力さ。さあ、我の手を取ってごらん。そしたら、君は人の概念を超えた存在になれる」
麗は差し出された手を見た。
皺だらけの青ざめた手。
この人たちも人間ではないかもしれないと思った。
「我は人間……。とはいえないね。人間を超越した存在」
どうでもいい。
彼らがどんな存在だろうとかまわない。
ただ求めるものは一つ。
この激しい衝動を爆発させたいだけ……
麗は、しわくちゃだらけの手を取った。
冷え切った手
まったくぬくもりのない手
けれど、どこか満たされていく。
解けていく
支配されていく
それがなにかなんて知らない。
わかることはただ一つ
願いはかなう
やがて自分の意識が遠のいていくのを感じた。
次に目を覚ましたときには、彼の隣にあの女がいた……。
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