11・狂気の瞳(2)
「離れろ」
樹里から声が漏れる声は、彼女のそれとはまったく異なるもののように思えた。
声自体は聞きなれた樹里のものなのに、別人が樹里の仮面を被っているようだ。
仮面の向こう側で激しい憎悪と嫉妬、悲哀といったあらゆる負の感情が溢れ出してくる。
「近づくな」
「江川?」
弦音が茫然とした顔で彼女の名を呼んでいる。
「離れろ。女」
直後、秋月のそばにいた園田の体が吹き飛ばされ、一瞬宙を舞ったかと思うとビルの上から落ちたかのような激しい音とちもに地面に叩きつけられる。
痛みに園田が立ち上がられずにいる間に樹里が覆い被さってきた。
園田がハッとするとそこには見知った後輩の姿ではなく、般若の顔が自分を睨み付けている。
樹里のの見開かれた眼球にある瞳孔がまるで猫の目のようにとがっており、薄っすらと緑色のモノが皮膚に現れ、彼女の五本の指からは緑の爪が飛び出してくる。
異形のもの。
化け物。
そんな言葉が園田の脳裏に浮かぶ。
殺される。
「きゃあああ」
切り裂かんばかりにその長く延びた爪を振り上げた樹里の姿を目前にして、園田は目を閉じて視線をそらすことしかできなかった。
「江川」
弦音が一歩踏み出そうとした瞬間、すぐそばにあった影が動く。
「消えろ」
「いやあああ」
しかし、園田が切り裂かれるには至らなかった。
その間に割り込んだものがいたからだ。
目を伏せたまま横たわっている園田を庇うように朝矢が立ち尽くし、その腕から血が滴り落ちていた。
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