4・あの子が追いかけてくる(1)
園田は震えていた。
身体を震わせながらもうじき闇に包まれようとしている河川を歩いている。河川では、のんびりとくつろいでいる人の姿も見える。
子供の声。
大人の声。
犬や鳥の声。
さまざまな音が通り過ぎていく。
何気ない音に反応することもなく、その音さえも遮るように顔を下にむけて歩いている。
「なに? なんなのよ」
園田は喉になにで挟まれたような声でつぶやく。その声に尋常ではないことに気づいた通行人が声をかけるが、彼女は通行人を跳ねのけて走り出す。
「おい。君」
彼女を呼び止める声が聞こえる。けれど、立ち止まらない。
立ち止まれないのだ。
感じる。
背後な気配を感じてならない。
けれど、振り向くと気配は消える。
歩き出すと異様なほど感じてしまう。
逃げないといけない。
逃げないとあの子が来る。
あの子が私を殺しに来る。
脳裏に浮かぶのは人とはよべないモノへと変貌を遂げようとした後輩の姿。
その姿にあの子が重なる。
違う。
私じゃない。
私は関係ないはずよ。
彼女は必死に言い聞かせた。
「それはどうかしら?」
だれかの声が聞こえた。
聞き覚えのない声だ。
彼女が正面を見ると、いつのまにか女の子がいた。
気づけば、穏やかな時間が流れていた河川ではない。
人の行きかう雑踏の中にいることに気づく。いつのまにここへ来たのだろうか。
いつの間にか日がずいぶんと傾いている。
雑踏の中
子供が一人。
小学生ぐらいだろうか。
まるでフランス人形のようなフリルの服を纏い、長い髪をカールさせた少女。その手には少女に似た人形が抱きかかえられている。
「ごめんね。怖い思いさせちゃったね。でも、大丈夫だよ」
少女は園田よりもずいぶん年下に見えるというのに、えらく大人びた口調で話す。けれど、こんな少女は知らない。
「だれ?」
少女は微笑む。その笑顔は子供らしからぬもので余計に園田を不安にさせる。
「大丈夫だよ。あなたは殺されない。まあ、また襲われるかもしれないけど、ちゃんと守ってくれるよ」
「え?」
「だって一度守ってくれたじゃない。口は悪いけど、あの子は中途半端なことしないから大丈夫だよ」
どういうことなのだろうか。
守ってくれた?
だれに……?
そこでようやく思い出した。
たしかにいた。
守ってくれた人がいたではないか。
もしかしたら、彼ならばなんとかしてくれるかもしれない。
そんな希望が過る。けれど、あの青年が園田を助けてくれるという保証はどこにもない。
それに園田を守ってくれた青年もまた認識のある人物ではない。偶然にそこにいたというだけの話だ。
「どこにいけばいい?」
そこにいるのは正体不明の少女であろうとも、助かることができるなら藁にもすがりたい気分だった。
「どこでも……。でも、逃げるのは無理かもね。だって、だって、お姉さんのそばにまで来ているもの。お姉さんが怖がっているものが……」
そう言われて彼女が振り返る。
すると、雑踏の中。見覚えのある顔があった。
「江川さん?」
後輩の江川樹里だ。
髪を下ろしたままでパジャマを纏った江川樹里がいる。
「違う?」
けれど、その姿は別の人の姿へと移り変わっていくように見えた。
「……レイ……」
園田がなにげに呟いた言葉に彼女は、肯定するかのように口元に笑みを浮かべる。
その笑顔に絶望を覚えた園田は、彼女に背を向けて走り出した。
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