第35話
「しかも気に入った女子はみんな自分のものにしようとすんだよな〜」
「ええ、私もリューネも1回言われましたね」
「確か『貴女のような麗しいお人は初めて見た。僕と一緒に来ないか?』だっけ? ちょーキモかったよな!」
「そんなこと言ってましたね。誰が貴方のようなナルシストと……」
ガールズトークは止まることを知らない。というか中々に面白い話が飛び交ってるんだけど。
「おふたりもナンパされたのですか?」
そーそーそれよ。フィルちゃんナイスな質問。
「そうなんだよな~。全然タイプじゃないし、相手はいるからすぐに断ったけどな!」
「私も私より強くない男には興味ないので」
へー……おふたりともスゴいッスね。
「な、何だよ?」
「別に」
ファウストとミラ先輩……あーもうコイツもリア充だからミラでいいな。
とりあえず憎しみを込めた目で睨んでやった。
ミラは反応すらしてくれなかったけど。
「お前ついに俺にもそんな態度か」
呆れ顔でため息をつくミラ。
っつーか勝手に人の心を読むんじゃねえ。
「風紀委員長ならこれくらいできる」
んなわけねーだろ。
風紀委員長がみんな読心術使えたら学校のプライバシーが無くなっちまうわ。
「フフッ……兄さんったら相変わらず正直なんですね」
当たり前だ。
目の前で間接的にとはいえイチャイチャされたら誰だってイラつくわ。
まー、リューネ先輩とエレノア先輩が怖いから言わないけど。
あえてね。
「ゴホンッ! とにかくだ!」
ファウストはわざとらしい咳払いで話を元に戻そうとする。
「ランキング戦は丁度2週間後、その日は1日使うから体力を削る心配はない」
俺を安心させようとしてるのか、優しいトーンで声をかけてくれる。
「それまでにコンディションを整えて当日はフルボッコにしてやれ」
お前なら出来るだろ……と余計な言葉を付け加えてファウストはそう言った。
あーやだやだ。他の3人も同じような感じで見てるし。
やっぱこの人達強いわ。
まー俺も心底ベルゴールの野郎にはムカついているので実力とか細かいことは全く考えていないし。
俺はファウストの言葉に無言で首を縦に振った。
◇
生徒会室で闘魂注入?話し相手?になった俺達はめんどくなってきたので、気づかれないうちにその場を後にした。
「あの人達といたら疲れるわ」
肩を揉み、首を回しながら歩く俺は正におっさんだ。
「それでも兄さんはあの雰囲気をお楽しみになられているのではありませんか?」
フィルには気づかれていたようだ。
確かに俺はあの雰囲気が何となく好きだ。クラスメートと過ごすのとは少し違った良さ。
まあ、俺が余り年上を敬わないからかもしれんが。
「それはそれで問題かも知れませんが」
そう言って苦笑いを浮かべるフィル。
窓から吹いた風により綺麗な黒髪が更に美しく見えるようになびいている。
それを見ると我が妹ながら綺麗だ……と思ってしまう。
「兄さん? 何をされているのですか?」
ハッ!
ついつい見とれていたのがバレたようだ。
どうやら度重なるストレス(笑)により俺の精神は意外と不安定になりつつあるみたいだ。
癒されたからいいけど。
「兄さん…… 」
ふと、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でフィルが俺を呼んだ。
立ち止まり、ゆっくりと顔を向けると怪訝な表情を浮かべて立っているフィルがいた。
「どうした?」
「あれを」
そう言って前方を見つめる。
その視線を追っていると……。
「お?」
そこには先に帰ったはずのリリーが立っていた。
何やってんだ?
俺が首を傾げている間にフィルはリリーの元へと小走りで向かう。
「リリー、どうしたんですか?」
俺達がいることに気づいていなかったのか、少し驚いたような表情をしていた。
「……」
無言のままフィルを見つめたかと思うと俺をチラッと見る。
何なんだ一体?
リリーの謎の行動の意味を考えていると……。
「あ、ちょっ……」
リリーはフィルの腕を掴んで俺のところまでやってきた。
「よっ、帰ったんじゃなかったのか?」
「引き返してきた」
小さな声でそう返事をする。
まともな会話をしたのはこれが初めてだったので、俺は少し面食らってしまった。
「それで、何か用か?」
そう聞くと、言いにくそうではあったもののリリーは口を開いた。
「アイツとは戦うな」
「え?」
それは俺が予想してなかった言葉だった。
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