第33話 ランキング戦


「待て、ベルゴール」


 突き刺さるような言葉と共にベルゴールの肩が掴まれた。

 そこに立っていたのは相変わらず柔らかな笑顔をしているファウスト先輩だった。


「ニュートォ……」

「よっ、ベルゴール」


 片手をあげて軽く挨拶をするファウスト先輩。

 同じ3年でランキング上位とあって顔見知りなのだろう。

 決して仲が良さそうには見えなかったが。


「アンタ事あるごとに現れるけど俺のストーカーか?」


 邪魔された恨みを少しだけ込めて皮肉たっぷりにそう言ってやった。


「アホたれ……魔力を感知したから一応来てみたの。そしたらまーた揉め事起こしてやがる」


 ファウスト先輩の返答は最もだった。だから特に反論することはなく俺は口を開かなかった。


「んで、今度は何よ」


 事の次第を把握しようとファウスト先輩はベルゴールに話しかける。


「この1年生にいきなり殴られたんだよ。全く下劣な奴だ。早く連れていけ」


 ここぞとはかりに俺を非難するベルゴール。


「だそうだが?」


 お前の言い分は?と、いうように顔をこちらへ向ける。


「殴ったのは認めるよ。このクソが人の友達を化け物呼ばわりするからムカついてな」


 俺はそう言ってベルゴールを睨みつける。


「貴様……いい加減に……」

「待てベルゴール!」


 今にも俺に飛びかかろうとするベルゴールをファウスト先輩が止める。


「何故止める!」

「いや、普通は止めるから」


 苛立つベルゴールをうまくコントロールする。


「まぁ、お互いの言い分はわかった。とりあえずリオード、先に手を出したのは認めるんだな?」


 そう言って俺を見る。


「あぁ」


 言い訳することもないので俺はそれだけ言って頷いた。


「そっか……」

「ニュート! 何をぐだぐだと……早くコイツを裁けよ!」


 考え込むファウスト先輩にベルゴールは耳障りな声で怒鳴り付ける。

 どこまでもウザったいやつだわ。

 少しの間考えていたファウスト先輩はまず俺を見て口を開いた。


「とりあえず……頭にきてたとはいえ、手を出したのはいただけないな」

「チッ…」


 ファウスト先輩の言葉に俺は小さく舌打ちをする。

 そして俺が怒られたと知ったベルゴールはしてやったりというような腹立つ表情をしていた。爆発しろ。


「ベルゴール、お前にも非はあるぞ」

「何っ!?」


 それは、俺に放った時よりも厳しめの口調だった。

 まさか自分が言われるとは思っていなかったのか、ベルゴールは面食らっている。


「話を聞く限りでは、お前が差別するような事を言ったそうじゃねえか。同じ3年でありながら、その対応は頂けないな」


 普段温厚なファウスト先輩だが、この時ばかりは氷のように冷めた目つきと口調で思わず身震いしてしまった。


「僕が悪いとでもいうのかっ!!」

「話聞いてたか? どっちにも非があるって言ってんだろ」


 声を張り上げるベルゴールだが、それに言い返すファウスト先輩はあくまで冷静だった。


「ふざけるなよニュート……」


 怒りで赤く染まった顔、それに触発されるようにベルゴールから魔力が発せられる。


「何だやんのか? テメーが俺に勝てんのかよ?」


 そう言い返したファウスト先輩も魔力を放出する。

 ベルゴールに比べ微量ではあったが、濃度や質が奴のそれとは段違いだった。


「ぐっ……」


 自分でも実力の違いがわかったのか、ベルゴールは苦虫を噛み潰したような顔になって自身の発していた魔力を消した。

 それを見たファウスト先輩もフッ…と笑って魔力を消した。


 スゲー、ランキング9位と1位ってここまで差があるのか。


「落ち着いた所で話を戻そうか」


 パンパンッ……と両手を叩く先輩はさっきまでの冷たい雰囲気はどこにも無かった。


「まずはお互いに悪いことろがあったってのはいいよな?」


 優しく言ってるけど拒否権はねぇよっていうような雰囲気だよねこれ。

 まあ認めるけど。


 俺は無言で首を縦に振った。


「ベルゴール、お前もいいな?」

「…………あぁ」


 いやいや、アンタ絶対納得してないよね?

 明らかに不満だらけだよ僕は!みたいな表情しちゃってるくせに何言ってんの?


 そんな俺の心の声を無視しながら先輩は話を進めていく。


「だが、お互いにそれじゃ納得いかないってんだろ? というわけでいい方法がある!」


 そう言ったファウスト先輩の顔は何かを思い付いたって感じだった。

 あー、場所を移して戦えとか言うんだろうな~。


 そして俺のその予感は当たる事となる。


「近々行われるランキング戦で決着をつけるってのはどうだ?」


 ホラホラ、思った通りランキング戦で決着って……


「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」



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