第16話 模擬戦
第6修練室
広い敷地を誇るミストレア学園の中で、主に実技などの訓練に使う部屋で大小はあるものの1から12まである。
その6番目の修練室にリオードたち6人は集まった。
第6修練室は全校生徒が集まっても余裕があるほどで、6人で使うには余りにも大き過ぎる。
その広大な敷地の真ん中で動きやすい服に着替えた6人は各自でストレッチなどして体をほぐしている。
ミストレア学園は制服こそ指定はあるものの、こういった実技の授業になると各自好きな服を着ることが出来る。
魔術はその人の技術もさることながら精神状態にも大きく左右される。
そのため服装などは個人の自由になっている。
シンは上下供に赤の半袖半ズボン、テトラはTシャツにショートパンツ、グランは上下黒のジャージでリリネットが白の長袖シャツと黒のパンツを履いていた。
4人とも動きやすい格好であるのに対し、リオードは黒を貴重とした桜の鮮やかな刺繍の入った和服を着ていた。
首からは金色のネックレスを下げ、右手の人差し指に銀色の指輪、髪は茶色の漆塗りの簪で纏めていた。
和の中に洋を織りまぜたような……そんな不思議な服装だった。
「アンタレスくんそれでやるの?」
リオードの格好を不思議に思ったテトラが怪訝そうな顔で尋ねる。
「ん~俺はこれでいつもやってたからな~。あとリオードでいいよテトラ!」
「て、テトラ……」
リオードの屈託のない笑みと思いがけない呼び捨てにテトラは思わず頬を赤く染める。
「あ、名前呼びはまだ早かったか?」
「う、ううん! テトラでいいよ!」
「じゃあ決定! んじゃ俺はアップしてくるね~」
ほぼ勢いでテトラを押しきったリオードは首や肩を回しながら離れていった。
(変な人……)
歩いていくリオードをテトラはポカンとした顔で見ていた。
「…………」
「ん? ツィーさん?」
ふと人の気配を感じ振り返ると、テトラの少し後ろでリリネットが静かにリオードを見つめていたのに気がついた。
「アン……あ、いやリオードくんがどうかしたの?」
先程言われたことを思いだし、訂正しながらリリネットに質問する。
「……何でもない」
チラッとテトラに視線を送り短くそう言ったかと思うと、リリネットもまたテトラの元から離れていった。
「何なのかな?」
テトラはその行動を疑問に思いながらもこれけらに備え自身もストレッチを始めた。
「よっしゃお前ら集合〜」
何とも気の抜けた声を出して5人を呼ぶベルド。しかし、5人はしっかりベルドの元へと集まった。
「授業を始める……と言ってもお前らがどの程度の実力があるのかわかんねーからとりあえず戦ってもらう」
戦う……という響きに反応したのか、5人の雰囲気が少しだけ変わった。
「模擬戦って事ッスか……楽しそ〜!」
シンは戦うことが好きなようで目を少年のように輝かせていた。
「戦うのは構いませんが、誰と誰が試合するかは決めてるんですか?」
「もちろん……俺対お前ら5人だ」
グランの問いに得意気に笑いながら親指を立てるベルド。
しかしそれとら裏腹に周りの空気が鋭くなった。
「先生、それは流石に舐めすぎッスよ」
無理矢理作ったような笑みを浮かべながらシンは言った。
「流石に5人は厳しくないですか?」
こちらは心配そうな顔をして言うテトラ。
「まあ教師なので僕達より強いのは確実でしょうが、ちょっと納得出来かねますね」
シンと同じような気持ちなのだろう、顔は笑顔だが声にトゲがあるグラン。
リリネットは相変わらずの無言。
「ッハー! ベルさんカッケー!!」
1人だけテンションの高いリオード。
「リオード、テメーは悔しくねぇのかよ?」
「え、だって俺一応カスよ? 魔術らしい魔術はほぼ使えねえもん」
「「「は?」」」
リオードの返答にシン、テトラ、グランの声が重なる。リリネットも目を見開いているのでかなり驚いているのだろう。
「リオードくんそれどういうこと?」
「どーもこーもそのまんまの意味。補助魔術程度なら使えるけど、それも微々たるもんだし。まあまあそれは後々説明するから今は戦おうぜ?」
話を無理矢理終わらせるようにそう言うと、リオードはベルドの方へと向かって歩く。
納得のいかない顔をしていた4人だが、渋々リオードに着いていった。
「ん? 相談は終わったのか?」
何時の間にやらタバコの煙を吐き出しているベルド。その姿は教師の欠片もなくただのダメな大人にしか見えなかった。
「うぃっす、んじゃいいッスか?」
不敵に笑い首をゆっくり回すリオード。
「あぁ、かかってこい…」
タバコを捨てたベルドもまた不敵に笑ってそう言った。
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