第201話 姉妹の戦い

死を目前にして走馬灯が走る。



だが普通、こういう時の走馬灯は自身の輝かしい記憶を思い出すもの、だが俺が思い出すのは酒や女と喧嘩ばかりだった。



「はっ……くっだらねぇ記憶だな」



手から離れて宙を舞う剣、手を伸ばそうとも届かない、迫る骨の剣はオーフェンの腹部を貫いた。



『万全の状態で戦いたいものだったな……ん?』



剣をオーフェンから引き抜こうとするが微動だにしなかった。



「抜かせねぇよ……」



剣を力いっぱい握りしめる、死ぬとしても……一矢報いる。



剣に光の属性を付与し、スケルトンキングの顔面向けて突き上げる、だが剣は頬を掠めるだけだった。



『貴様……!!』



剣が腹部から抜かれ、顔面目掛け振り下ろされる……終わった。



悪くない人生だった……これで世帯でも持っていれば言う事無しだが、まぁそれは次の人生を歩む俺に任せるとするか。



「隼人、楽しかったぜ……」



「まだ諦めるには早いんじゃないんですかオーフェン」



骨の剣が宙を舞う、何が起こった。



アルラの声が聞こえた、気が付けばスケルトンキングは光の檻に囚われていた。



『この魔力……リリィか』



「まーだ洗脳されてんの?」



光の檻に攻撃するがオーフェンの攻撃は全て弾かれていた。



『なるほど……随分と前から用意した魔法の様だな』



「そうよ、オーフェンが戦ってくれてる間にね、リリィ治癒をお願い」



アルラの言葉にリリィは頷くとオーフェンの腹部に治癒魔法を掛けた。



「よくこの傷で最後の一撃が出せたね」



「諦めが悪くてね、それよりもお姉さん、後で1杯どう?」



リリィは静かに中指を立てた。



『あぁ……記憶が混濁している』



「貴方、誰なの?」



誰、アルラのその言葉にスケルトンキングはその場に腰を下ろした。



『私が誰なのか……分からない』



ウルスの洗脳は解けている様子だった。



『久しぶりにレクラという少女の体から出れたものだからはしゃぎ過ぎた』



「その姿は私も初めて見ますが……分からないですね」



『ずっと少女の身体に封印されていたからな』



落ち着きを取り戻したからなのか、レクラの姿に戻って行った。



「あー、頭痛い……迷惑掛けたなアルラさん」



そう言い光の檻から抜け出す、スケルトンキングとレクラは別の存在と考えて良さそうだった。



リリィの光の檻は邪なる者を退ける魔法、故にオーガとの混合種である自分も干渉できない、だがレクラが抜け出せたと言う事はスケルトンキングとは別の存在と言う事……ますます訳が分からない。



だがそれよりも確認する事がひとつある。



「レクラ、貴方の主は誰です?」



「アルセリス……今は隼人様だっけ?ただ1人だよ」



そう言い地面に落ちた剣を全て消し、1本だけを召喚して腰に掛けた。



レクラとリリィは正気に戻った……残す守護者はマリスとフェンディル、アウデラスの3人だった。



後はウルス……彼だけは許せない。



守護者に洗脳まで掛けて何故裏切ったのか……信用していたからこそ、許せなかった。



「さっきまで洗脳されていた身で言うのもあれだけど、少しヤバそうじゃね?」



そう言い街の中央に聳え立つ時計塔を指さすレクラ、そこには狼の姿をしたユーリが雄叫びを上げていた。



初めて見る、あれがユーリの獣化。



魔力がユーリの時よりも小さくなっている……だが遠目からでも分かる、強さは守護者クラスだった。



「彼処には誰が?」



「多分シュリルじゃ無いかな?」



シュリル……となるとあの時計塔は地獄の様だった。



「早く行かないと街が崩壊しますね」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「何で隼人さんを裏切ったんすか」



キレて突っ込んでくるシュリルに聞こえるかどうかの声で呟く、本気の殺し合いはこれで2度目だった。



初めての殺し合いは仲間を、家族を失ったあの日だった。



「あの日の決着……今日つけるっすよ」



「あの日も何も、お姉ちゃんは私に勝てないでしょ?」



そう言い踵を鳴らす、途端召喚されるオーガ達、だがその程度のモンスターでは足止めにもならなかった。



召喚した鉄球でオーガの頭部を潰し、次のオーガ目掛けて斧を投げ付ける、直撃した頭部は跡形もなく吹っ飛んだ。



「相変わらずお姉ちゃんは馬鹿力だね」



嘘だ。



力も、魔力も……何もかも全部私は妹……いや、シュリルに劣っている。



ずっと、ずっと……彼女は一族の中でも天才と呼ばれ、私の憧れだった。



獣化も自在に操れる、私とは大違い……だが、だからこそ負けたく無かった。



「シュリル……あんたと付き合いが長いっすね」



「そうだね、おね……ユーリ」



「2人とも家族を殺され……お互い支え合い、いつしか自然と姉妹の様になってたっすよね」



「ユーリが姉なのは少し納得出来ないけどね」



そう言いシュリルは笑う。



「それはじゃんけんで決めた事っすよ」



思い出すとくだらない決め方だ。



「てか、ユーリ私にこれだけの時間与えて大丈夫なの?」



そう言い踵を鳴らす、地面には無数の魔法陣、様々な種類のモンスター達が次々と召喚されて行った。



オーガやゴブリンの低級な魔物からゴーストナイトの中級種が複数体、そしてファントムパラディンが一体……少し時間を上げすぎたかも知れなかった。



「聖騎士の亡霊は流石に厳しいっすね……だけど私もただ時間を上げて居た訳じゃないっす」



そう言い両の掌を地面に合わせる、すると半径100m範囲を結界が包んだ。



「不可侵の箱……ユーリがそんな魔法使うなんて意外、でもそれだとユーリも外に出れないんじゃ?」



シュリルの言う通り、私が発動した魔法『不可侵の箱』は外部から入る事も内部から出る事も出来ない拘束魔法、だがその分、どれだけの力で暴れようとも箱が破壊される事は無かった。



そして箱を解除する方法は解除魔法を掛けるのみ、だがシュリルにこの魔法を短時間で解除する方法は無い、長い付き合いだからこそ知っている事だった。



「しかし解せない、何故自分から閉じ込められたの?」



シュリルは本気で困惑している様子だった。



彼女は知らない、私が獣化出来ることを。



私も最近知った事だ、一度監獄に隼人さんと行った時に命を落としかけて覚醒したと言う話しを最近聞いた、獣化の条件は個体差がある、天才のシュリルは何のきっかけも無く自在に操れるが基本は何かきっかけが居る。



とは言えきっかけも些細な物、自身の血を舐めたり傷をつけるだけなど……死に直面してようやく獣化するなんて私くらいだった。



だがその条件のおかげか、シュリルには知られていない情報だった。



「シュリル……貴女は人間を恨んでいる?」



「何いきなり?当たり前よ」



その表情は憎しみに溢れて居た。



彼女の心はまだあの時のまま……隼人さんと旅をしたからこそ分かった、全ての人間が悪いのでは無いと。



オーフェンの様なだらしない人間も居ればシャリエルやサレシュの様に仲間を思い、国を思う人間も居る……私達が滅ぼされたのはただ一部の人間が恐れて居ただけなのだから。



だが旅をして居ないシュリルには分からない……残念だった。



「シュリル、また元に戻れると良いっすね」



そう言いユーリは自身の胸に剣を突き刺した。



「な!?」



流れ落ちる血、倒れるユーリ……理解が出来なかった。



自殺?いや……微かに生命反応はある、だが何故瀕死になったのか、その答えは直ぐに分かる事となる。



徐々に姿が変わって行く、160も無い小さな体が倍以上に筋肉で膨れ上がり毛が生える、顔も狼の様な顔へと変わって行く……獣化だった。



だが……



「知らない、なに……この獣化」



見た事がない、理性が完全に飛んだ獣化……だがその姿は桁違いだった。



「くそっ……私も獣化するしかない……」



あの姿は醜くてあまり使いたく無いが……そんな我儘は言ってられない、獣化するしか無かった。



ユーリ同様に服が破れ筋肉が盛り上がって行く、だがユーリ程大きくは無く、大きさは2メートル半程だった。



だがこの状態でも私は魔法が使える、幸いにも聖騎士の亡霊も召喚済み……戦える。



「行けファントムパラディン達!!」



多少の目眩しにはなる筈、その間に背後を取り一撃で決める。



シュリルの掛け声に聖騎士の亡霊達がユーリに攻撃を仕掛ける、だが瞬きをした瞬間、召喚した魔物達がバラバラになって居た。



「嘘……でしょ?」



ありえない、ファントムパラディンはダイヤモンドの冒険者ですら勝てない強さを誇っている……勝てるとは思って居なかったが数秒の時間は稼げると思っていた……予想の数倍、ユーリの強さは上を行っていた。



これがあのダメユーリと呼ばれていたユーリ……凄まじい成長だった。



ずっと私の後ろをついて来て、正直彼女の方が妹みたいな存在だった……強く、なって良かった。



ふと、何故強くなって安堵しているのか、疑問を感じた。



普通敵ならば強くなってしまうのは嫌な筈、だが何故こんなにもホッとした……安堵の気持ちが強いのか、そもそも何故ユーリと戦っている?



ウルス様の為……何故、彼は私に何をしてくれたのか、数年前にウルス様から守護者や補佐が呼び出された時から記憶が無かった。



ユーリの何故裏切ったと言う言葉を思い出す……私はアルセリス様を裏切るなんてあり得ない、そして漸く理解した。



「あぁ……洗脳か」



理解してももう遅い、ユーリとの戦いは避けられない……それに、少し楽しくなっている自分も居た。



「正直、殺されても文句言えない裏切りをした訳だし……人生最後の戦い、楽しもっと!!」



理性を失うユーリにシュリルは人生で一番の笑みを浮かべ拳を握りしめた。

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