第191話 急襲

シャリエル達に遺跡の大まかな情報を伝え出発して2日、ようやく半分と行った所だった。



「嘘みたいに平和な時間ね」



草原でキャンプをする光景にシャリエルが呟く、確かに大陸へ来てから彼女も自分達も戦闘続き、こう言った時間は久しぶりだった。



「束の間ですよ、それに気を緩めれば今でも危険です」



ほんわりとして居たシャリエルに釘を刺す様アルラが冷たく言い放つ、その言葉にシャリエルは彼女の事を睨んだ。



「分かってるわよ、て言うかアンタ私に冷たく無い?」



「別に、そんな事は無いです」



そう言いツンとするアルラ、相変わらず仲の悪い2人だった。



「まぁ気にすんな、こいつは基本人には冷たいんだよ」



そう言い何処から調達したのか、酒を片手に少し酔っ払ったオーフェンがシャリエルに絡む、わいわいとした時間……久しぶりだった。



だがこの光景を見るとウルスを思い出す、あの頃は俺では無く、守護者達同士が和気藹々とした雰囲気だった、それを眺めているだけで良かった。



戦争や大陸統一……くだらない事を考えなくてもいい時間だった。



こんな時間が長く続けば……そう思って居たその時、アルラが突然刀を片手に立ち上がった。



「気配がします……」



そう言い辺りを見回すアルラ、日が落ちた草原は火が灯っている隼人達の周り以外闇に包まれて居た。



「敵か?」



「はい、明確な殺意……敵です」



アルラの言葉に辺りは緊張感に包まれた。



焚き火の音だけが辺りに響き渡る、一寸先は闇……何も見えず、ただ殺気だけが頼りだった。



『隼人さん、少しずつ近づいて来てます』



リカの感覚共有のお陰で相手の位置がわかる、だが数秒……隼人は表情を歪めた。



「なんだよこの数……」



殺気の数がどんどんと増えて行く、1人から10人……更にその数は30を超えた。



「ユリーシャ、辺りを照らせますか!」



アルラの言葉にユリーシャは詠唱を始める。



「シャリエル達は彼女を守って下さい!私達は光が灯り次第戦います!!」



そう言いユリーシャをシャリエル達3人が囲み、さらにその周りを隼人達が囲む陣形が出来上がった。



時間にして数秒、ユリーシャの準備が整った。



「辺りを照らします!!」



そう言い完成した魔法陣から光の玉を空へと飛ばし擬似太陽の様な光を広範囲に発生させる、そして殺気を出して居た者達の正体が露わになった。



「人間……?」



ぱっと見普通の人間だった、だが何処か様子がおかしい……何かと聞かれれば答えられない、だが何処かおかしかった。



「コイツらは吸血鬼だ!!力は人間の数倍、血を吸われれば一時的に身動きが取れなくなるぞ!!」



いち早く動き出し、声を発したのはアルラでもオーフェンでも無く、アルテナだった。



「吸血鬼って……まじかよ」



異世界だから居るとは思って居た、だがいざ対峙すると少し恐怖があった。



向こうの世界で見てきた映画の所為だろう……だが今の自分は無力では無い、リカが居るのだから。



「久しぶりの人間だ!!あの方への貢物だ!!!」



そう言い吸血鬼は襲いかかって来る、魔法を使っている気配は無いのにとんでもない素早さ、一瞬で目の前まで距離を詰めて居た。



長い爪の攻撃を刀で受け止める、重い一撃、強化無しで喰らえば簡単に致命傷だった。



「従来の吸血鬼なら……」



リカの強化魔法でアップした筋力によって攻撃を弾くと吸血鬼の腕は上へと弾き飛ばされる、そしてガラ空きの懐では無く首に目掛け刀を振った。



「なっ!?」



吸血鬼は一瞬の出来事に反応出来ず首を斬り落とされる、氷の刀の所為で断面は一瞬にして凍り、吸血鬼は地面に首が落ちてもなお喋っていた。



「俺が……俺達吸血鬼がこんな一瞬で……」



吸血鬼の言葉に後ろを見るとアルラ達は既に吸血鬼を倒し終わり鞘に武器を収めた後だった。



「流石だなお前ら」



30以上は居た吸血鬼を俺が1人倒す間に全滅……まだまだ敵いそうには無かった。



「隼人さんも流石です、吸血鬼とやらは生命力が高い所為で首だけでも中々死ねない、それに加えて直ぐに断面を止血された故、何かを聞き出すには丁度いいです」



そう言いアルラは吸血鬼の頭を持ち上げた。



「くそっ、こんなに強い奴らがまだこの辺りに居たのか……」



「同じ鬼ですが吸血鬼の習性はよく分かりません、取り敢えずあのお方とは?」



「へっ、誰が言うかよ」



そう言い吸血鬼は唾を吐きかけた。



「はぁ……それでは拠点は何処に?」



その言葉にも反応は見せない、それに加えて余裕の表情、首だけなのに逞しい生き物だった。



「リリィでも居れば簡単に吐かせられるのですが……私はそう言う才能は無いですし」



そう言い吸血鬼を地面に置くアルラ、すると突然ユーリが吸血鬼の頭に足を置いた。



「何すんだ!!」



「いい事思いついたっす!コイツをボール代わりに蹴って遊ばないっすか!?」



鬼の発想、サイコパスだった。



「ふむ、良い提案かもしれないですね」



「確かに面白そうだな!」



意外にもアルラが賛同する、そしてそれに同調する様にオーフェンも賛成した。



オーフェンに加え人外組は逞しいものだった。



「まぁ……好きにしてくれ」



そう言い隼人は呆れたため息を吐く、その時アルテナが少し距離を取っている事に気が付いた。



距離にしてみれば5m程度、だが戦闘前の発言もあり少し気になった。



「なぁ、少し良いかアルテナ?」



「んー?どうしたの?」



ほんの一瞬、表情が変わった様に見えた。



「いや、戦いの前に吸血鬼の事を知っている様な発言をしててさ、それが気になったんだ」



その言葉に彼女は苦笑いを浮かべた。



「あー、この辺一度来たことがあってねー、その時に一度遭遇してたんだ、忠告遅くなってごめんね」



そう言い謝るアルテナ、彼女の事は特に気に留めて居なかったがアルラの言う通り、確かによく分からない少女だった。



敵とは思えないが何を目的に着いてきているのか分からない……だが彼女なりに何か理由があるのだろう。



「アルテナ」



「んー?どうしたの?」



「出会って日は浅いが……助けて欲しい時はいつでも言ってくれ、俺達は仲間だからな」



そう言いアルテナに背を向ける、かっこいい風な事を言ったが正直殆どアルラ達に助けてもらう様な物なのだが……情けない。



「俺も強くならないとな」



アルテナから少し離れた場所で隼人はボソッと呟いた。



「……お人好しが、決意が揺らぐだろーが」



去って行く隼人の背中を見つめながらアルテナは寂しげに呟く、その瞳は月明かりに照らされ、微かに煌めいて居た。

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