第188話 武器化
「待ってました……アルラさん」
街の中心、噴水だったと思われる氷塊の上に座り到着したアルラに視線を向けるリカ、一見何の変化も無い、いつものリカだった。
ただ一点を除いては。
「酷く冷たい魔力ですね」
もう魔力は完全にリカの物では無くなっていた。
「無様なものです……復讐しようとしたにも関わらず返り討ちに遭いこのざま……意識を残し身体は操られてしまいました」
悲しげな微笑みを見せて告げるリカ、意識だけが彼女のままなのは非常にやり辛かった。
だが危惧していた意識が無く、強制的に武器化させると言う手荒な真似はしなくて済みそうだった。
「リカ、一つだけ助かる方法があります」
「助かる……方法ですか?」
アルラの言葉に驚き、困惑……様々な感情が混じった表情を見せた。
「いえ、助かる……というのは少し違うかも知れません」
人によっては武器化は死よりも酷な事なのかも知れなかった。
「何でも構わないです、教えて下さいアルラさん」
そう言いながらも身体は刀を抜き、戦いの体制に入っていた。
「方法は一つ、武器化です」
「武器化……?」
当然と言うべきか、リカの表情はピンと来ていなかった。
だがそれも無理はない、アルテナの説明が無ければ私も全く理解出来なかった。
「貴女が戦闘態勢なので手短に説明します、貴女の魔力を武器に変換し、そこに魂を移すと言う禁忌の魔法らしいです、武器になれば死は先延ばしに出来ます」
「先延ばし?」
「はい、武器としての死、壊れるまでなら生きる事が出来るのですよ……私にして見れば生きてると言って良いのか疑問ですけどね」
アルラの言葉にリカは酷く悩んでいる様子だった。
武器として生きるか、このまま魔女の呪いに侵され、アルラに殺されるか……どの道良い死に方は出来なかった。
「早めに決めて下さい、私も手加減出来るか分からないので」
そう言い刀を抜くアルラ、その瞬間辺りの空気が少し重くなったような気がした。
「念の為武器化の術式組むから守ってねー」
アルテナの声が聞こえる、彼女を守りながらリカを決断まで殺さない様に戦う……難しい注文ばかりだった。
「私は……」
どうすれば良いのか、武器として生きる……考えた事も無い選択肢だった。
14歳の頃に家族を、村の皆んなを殺された……あの時の光景は今も忘れない。
次々と氷像に変えられていく人達、友達や私に優しくしてくれたおじさん……皆んな死んで行った。
母は魔道士だった、私を守る為に戦い死んだ……私の目の前で断末魔を響かせながら。
私に呪いをかけたフレアは母の魔導士としての噂を聞き村に来ていた、その娘である私も殺しの対象だったらしい。
だが何故か私は殺さず呪いを掛けた、理由は分からないが死よりも重い呪いだった。
あの時に死ねたらどれ程幸せだっただろうか。
復讐に駆られる事も無く、苦しい鍛錬を積み強くなる必要も無かった。
ずっと死と言う選択肢を抱えながら生きて来た。
だがある日、突然黒い騎士に召喚された。
圧倒的な力で私を従わせ、階層守護者と言う役割を与えられた。
人と接するのは久し振りで少し楽しかった。
最初は従うフリをしてフレアに復讐する為に利用しようとした……だが少しの間その事も忘れる程に忙しく、辛くもあったが楽しい時間だった。
守護者の喧嘩を笑いながら見たり、休日に街へ行ったり……憧れていた普通の生活とは少し違ったが、隼人さんのお陰でそれに近い生活は送れていた。
本当は……普通に恋愛したり、友達と遊んだり……家族に愚痴を話したりしたかった。
だが……それが出来るのも次の人生、そして次の人生に行くには少し早いかも知れなかった。
私には仲間が出来た、守らなければならない人達が……
「ごめんねお母さん、お父さん……皆んな、私はまだそっちに行けないです」
アルラと刀を交えていたリカが漸く目を開けた。
「アルラさん……私は、武器としてでも生きたいです!」
その言葉を聞きアルラはその場から一瞬にして姿を消した。
「アルテナ、後は頼みました」
「任せな」
そう言い真っ黒な刀身の刀を右手に携えたアルテナがゆっくりと歩いて来る、刀からはえも知れぬ恐怖を感じた。
「その刀は?」
自動的に敵を斬るようにインプットされていた命令すらも止めてしまうほどに……本能的な恐怖を感じていた。
「これがあんたの入る器、この刀自体は普通の刀なんだけど特殊な魔法を掛けててね、特殊な魔法をかけた武器で殺した人物の魂を武器に移す禁忌の術……普通は封印とかで使うんだけどまぁ気にしないで」
そう言い笑みを浮かべるアルテナ、生きる為に殺されると言うのは不思議な物だった。
「覚悟は?」
「できて……」
アルテナはリカの言葉を聞く前に斬りかかる、不意をついた一撃、だが無抵抗な意思とは真逆に身体は刀を防ぎ、蹴りを入れ距離を取っていた。
「まぁそう簡単には行かないかー」
口から流れる血を拭き取りめんどくさそうに呟くアルテナ、マリの力によって強化された一撃は容易に鎧すら砕く威力だった。
アルラが軽々と受け流していた故に油断していた。
「あまり見られたくないな……」
そう言いアルテナはアルラの方を見る、彼女が瞬きをした一瞬、リカとアルテナがいた場所は黒い球体のような物に覆われていた。
「視界を遮った……?」
黒い球体から感じる魔力はアルテナの物……何か見られたくない技を使用したのは間違いなかった。
黒い球体は数秒もしないうちに消え去る、そして再び姿を表したアルテナの手には真っ黒な刀身の刀は無く、透き通る様に綺麗な青色の刀身をした刀が握られていた。
「私の仕事は終わりー、感謝してねー」
そう言いアルテナは刀をアルラに手渡すとやり切った表情で凍りつけにされたカフェの椅子に腰掛けた。
「この刀にリカの魂が?」
一見ただの美しい刀だった。
「意思の疎通は握ってる時だけ出来るよ」
アルテナの言葉にアルラは真っ白な刀の柄を握った。
『アルラさん……ありがとうございます』
リカの声だった。
「私は何も、礼ならアルテナに言ってください」
『はい……ですが今はまだ、隼人さんの身に危険が』
その言葉にアルラの表情は変わった。
「隼人さんは何処に?!」
不覚にも……ほんの一瞬、隼人さんの事を忘れていた……これ以上無い失態、だがそれを悔いるよりも隼人さんの元へ駆けつけたかった。
『マリの魔力を感じます……隼人さんの魔力も極僅かに……かなりまずいです』
「かなり不味いって何処に居るんですか!早く行かなければ!!」
焦るアルラ、だが魔力を探知した限りおおよその場所は分かったが正確な位置が分からなかった。
「リカ!!」
『アルラさん、私を投げて下さい』
声を荒げるアルラに冷静な声色で告げるリカ、その言葉にアルラは直ぐ落ち着きを取り戻した。
「私としたことが……リカ、貴女なら助けられるのですね」
『はい、私の中にはまだマリの魔力があります、その魔力を使ってマリの元へ辿り着ける筈です』
その言葉にアルラは頷いた。
「私も大凡の位置は分かっています、1分……あれば必ず駆けつけます」
『任せて下さいください』
リカの言葉にアルラは再び頷くと大きく助走を付け投擲の構えをした。
「位置は合ってる?」
『はい』
その言葉を聞き届けたと共に、アルラはリカに指示された北西の方角にリカを投げた。
刀は氷で覆われていた街の天井を突き破り天高く飛ぶ、そしてある程度行った所で止まると急降下した。
恐らくあの位置に隼人さんがいる……その筈だった。
「リカ、必ず私が着くまで時間を稼いで下さいね……」
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