第187話 唯一の方法
「隼人さん!!」
魔法陣から突き飛ばされると同時に光に包まれる隼人の手を必死に掴もうと手を伸ばす、だが彼は笑顔を浮かべ親指を立てた。
「大丈夫だ」
その言葉だけを残し隼人は消えた。
消えた瞬間アルラは目を閉じると神経を集中させる、隼人の魔力を探知して何処に居るか探ろうとするが全く気配が無かった。
あるのは強大な冷たい魔力のみ……隼人は居なかった。
「隼人さんは何処へ……」
魔法陣は痕跡を残さない為か既に消えている、魔法にそれほど詳しく無いアルラには全く分からなかった。
早くあの人を助けなければならないと言う焦り、それと同時に私を庇って罠に引っかかってしまったと言う後悔……様々な感情が混ざり合って正常な判断が出来なかった。
その時、ユリーシャが地面に残った微かな魔力の残滓を見ていた。
「何か分かったの?」
アルラの言葉に頷く。
「恐らく簡易的な転移魔法、範囲はこの街の何処かだと思います」
「この街なら隼人さんは何処に?」
「特殊な結界で魔力を悟られない様にしてるのだと思います……恐らく手練れの魔導師、早く探さないと危ないです」
ユリーシャの表情は険しかった、魔力残滓からある程度術者の技量が分かる彼女だからこその表情だった。
術者は相当強い……そう表情が物語っていた。
「探すって言ってもどうやって……」
「その為の私です、少し時間を下さい」
そう言いその場で正座をして目を閉じるユリーシャ、魔力探知の為に集中する様子だった。
自分を庇って罠に掛かった隼人さんを自分では探せない擬かしさ……だが今はユリーシャを信じるしか無かった。
「それじゃあ……俺たちはあっちの相手か?」
面倒くさそうにオーフェンが告げる、すると辺りの気温が一気に低くなった。
感じた冷たい魔力……ふと視線を向けるとそこにはリカが立っていた。
瞳に光は無い、完全に理性は無さそうだった。
「一応聞きますけど……リカですよね?」
アルラの問い掛けに応える事は無い、何があったかは知らないが殺意剥き出しだった。
「誰が行く?」
そう言い、行く気満々に剣を構えるオーフェン、その提案に存在感の薄かったアルテナが口を開いた。
「皆んなでやらないんですかー?」
リカ1人に対して此方は探知中のユリーシャを抜いても4人居る、だが数が多いからと有利な訳ではなかった。
「私の足手纏いになりかねないです……此処は私に任せてユリーシャを守っていて下さい」
オーフェン達と共に1人を相手に戦った事は無い、連携が取れるか分からない上に実力差があり過ぎる故足手纏いだった。
その言葉にオーフェンは苦笑いをしながら剣を戻す、ふとユーリを見るが気温が低いせいで冬眠しかけていた。
そんなユーリを横目に刀を抜く、リカを殺したくは無い……だが殺意剥き出しの彼女を殺さずに捕獲するのは至難の技だった。
「死んでも文句は言わないで下さいね」
そう言葉を吐きリカに殺気を向ける、すると彼女はその殺気に反応する様に刀を抜いた。
感情も無く、言葉も発さない……まるで人形の様だった。
「今思えば新参者の貴女を私は少し嫌っていたかも知れないですね」
走りながら距離を詰めて来るリカを見ながら呟く、いきなりアルセリスもとい、隼人さんから仲間になると言われた時は異論を唱えようとも思っていた。
何処の馬の骨か分からない少女がいきなり幹部に……意味が分からなかった。
いつか裏切るのでは無いか、そう思い警戒し、距離を取って接して来た。
だがウルスが裏切った時、彼女は隼人さんから離れなかった。
何の理由があって離れなかったのかは知らない、だがその時に少し彼女の見方が変わった。
理由はどうであれ、隼人さんへの忠誠心は同じ……ようやく仲間として接する事が出来た。
そう思った矢先……死ぬ日が近いと告げられた。
今まで距離を取って来たお陰か、それ程悲しくは無かった……それよりも隼人さんがボロボロになってまで彼女を止めようとした事が羨ましかった。
あの人は誰にでも優しい……仲間思いの人、それは分かっている、だがそれでも嫉妬してしまった。
そんな自分が嫌だった。
今思えばリカが嫌いなのでは無く、隼人さんが取られるかも知れない……自分の物でも無いのにそう思っている自分が嫌いなだけだったのかも知れない。
そうだとすればリカには悪い事をした……ただの八つ当たりだ。
とは言え謝る事は出来ない、もう彼女の意思は此処に無いのだから。
でも……やれる事はあった。
「貴女の呪いを此処で終わらせます」
振り下ろされたリカの刀を受け止め瞳を見て言う、勿論答えは返って来ない。
少し疎遠にしていたせめてもの罪滅ぼし……仲間として彼女を終わらせる、それが私に出来る唯一の事だった。
受け止めた刀を力で上に弾くと出来た隙を突き右手を切り落とす、すると本能的なのかリカは距離を取る為後ろに下がった。
「意味は……無いみたいですね」
切り落とした腕は既に復活していた。
強さは正直それ程、だが倒し方が分からない今、無闇に攻撃するのは得策では無かった。
氷に覆われた街はリカに取って最高のフィールド、凍える様な冷気は彼女に取って最高の回復アイテム……だが攻略法は何処かに必ずあった。
ふと隼人さんが罠に引っかかった時の事を思い出した。
感じた強大な冷たい魔力……それと目の前に居るリカから感じる魔力量に少し疑問を感じた。
「本体は……別の場所?」
目の前のリカは本当にただの人形でリカは別の場所に居る……その可能性もあった。
実力差があるとは言え弱すぎる……刀を交えた時から感じた違和感もそれなら納得が行った。
そうと決まれば本体を……そう思ったその時、奥からリカの複製が歩いて来るのが見えた。
数はどんどん増えて行く、その数は優に100は超えていた。
「流石に参加するなとは言わないよな」
「はい……寧ろ此処を任せても良いですか?」
「任せとけ……と自信満々には言えねーがお前の事だ、どうにかしてくれるんだろ?」
苦笑いを浮かべながらも了承をするオーフェン、何故こんなにも信頼されているのか少しアルラには疑問だった。
だがこの現状を変える策はある……アルラはオーフェンの言葉に頷いた。
「んじゃ任せとけ、ついでに事が終わったらご褒美期待してるぜ」
そう言い剣を構えるオーフェンを横目にアルラは無言で屋根に飛び移り魔力を探知しながら街を走り始める、街の中央に大きな魔力が一つ……動く気配はない。
恐らくこれがリカの本体、だが気になる事が一つあった。
「何で貴女はついて来てるのですか?」
「あ、バレちゃったー?」
少し離れた位置で透過の魔法を解きアルテナが姿を現す、わざわざ隠れて何をしているのか、怪しかった。
「答えによっては此処で殺しますよ」
そう言い刀をアルテナに向ける、すると彼女は間の抜けた笑みを見せながら両手を上げた。
「リカを殺したくないだろ?」
口調が変わった……アルテナの本性だった。
「出来る事なら……です、別に私は殺すのを躊躇しませんよ」
隼人さんの為に出来れば生かしたい、私としては隼人さん以外どうでも良かった。
「残酷だねぇ、一つリカを殺さない方法があるんだよね」
リカを殺さない方法……少し興味があった。
「参考までに聞かせてもらっても?」
「勿論」
そう言いアルテナは懐から一冊の魔導書を取り出した。
「それは?」
少し歪なオーラを感じた。
「これは禁忌の術を記した魔導書、その1ページにとある魔法が載ってるんだよねぇ」
「とある魔法とは?」
「魂を武器に変える魔法」
その言葉にアルラの表情は少し険しくなった。
「と言っても条件がかなり厳しい魔法でね、まず対象の魔力が高い事、それに加えて対象の了承も必要……無理やり武器に変えようとすると魂ごと消滅するから注意なんだよねぇ」
アルテナの口振りはした事のある人の口ぶりだった……だが今はそんな事はどうでも良い、初めて聞く魔法だった。
「しかしそれは助かると言って良いのですか?」
魂を武器に変える……私にしてみれば助かるとは言えなかった。
「さぁね、それはリカ次第……ただこの呪いは解呪不可能、アルラのご主人様の要望に沿うならそれしか方法はない……それだけ頭に入れておいてねー」
それだけを残し先に本体の元へと向かうアルテナ、彼女が何者かはさて置き……本当にそれが正しいのか、自分には判断ができなかった。
「こればっかりはリカ……貴女に聞かないと分からないですね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます