第175話 意外な教え

「魔力を溜めて……一気に放つ!」



掛け声と共に剣を振るが魔力は分散されて行く、進歩はまるで無し……無駄に1週間が過ぎてしまった。



暗黒神以降ミリィとシャリールは姿を消し行方不明、ユーリも獣化の影響が今頃来たのか、休眠期間で今はただひたすらに特訓あるのみだった。



だがいくら剣を振り続けても感覚が全く掴めない、そろそろ腕も限界だった。



「どうでしょう隼人さん」



リカがふらっと顔を出す、どうもこうも、進歩は一目瞭然だった。



「その顔は上手く行って無い様子ですね……それより、彼女はどうしますか?」



そう言い背後から銀髪の少女が姿を現す、ユリーシャ……暗黒神と名乗っていたバーリエスに身体を乗っ取られていた少女、完全に存在を忘れていた。



「あの……私は一体……」



見慣れない地下闘技場に困惑を見せるユリーシャ、50年近く身体を乗っ取られ、やっと意識が戻ったと思えば見知らぬ地下……困惑するのも無理は無かった。



とは言え、一から説明するのも面倒だった。



「リカ、説明頼めるか?」



隼人の言葉に頷く、そして2人は闘技場の端に移動した。



闘技場の端で説明を聞くユリーシャを眺めながら剣を地面に刺す、彼女も不憫な物だった。



不老不死、老いることも無ければ死ぬ事も無い呪いの様な契約を自身の父の命と引き換えに受け、1人で見知らぬ時代に取り残されている……見知らぬ場所に取り残された、そして帰る祖国も無いと言う点では同じ境遇故に同情した。



「隼人さん、説明終わりましたよ」



「ありがとう、そう言えば自己紹介まだだった、俺は隼人それでこっちが聞いたと思うけどリカ」



リカは会釈する。



「私はユリーシャです……ナハブは滅んでしまったんですね」



「まぁ……そうだな」



ユリーシャの表情は酷く悲しげだった。



「リカ様から聞きました……父が、人骨になりながらも私を守り続けて居たと……本来ならあの時死んでいた筈なのに……」



ユリーシャの目からは涙が零れていた。



確かにラクサールは敵だったが彼はただユリーシャを傷つけられたくない1人の父親だった。



自身の命に変えても娘を守り抜いた……彼の思いを無駄には出来なかった。



「ユリーシャは……どうする?静かに暮らしたいのならオワスの村って言う良い場所があるが」



出来る限り……彼女のサポートをしてあげたかった。



ラクサールは何れ死ぬ運命だったとは言え、人生の幕を下ろしたのは俺自身……責めてもの償いだった。



「いえ、正直あなた方の事は良く分からないですがリカさんから旅の事を聞きました、私の魂を取り戻して頂いたお礼をさせていただきます」



「お礼って……俺はただシャリエルのついでに……」



「ついででも命の恩人です、私は借りは作りたくない主義なので」



そう言い断固とした意志を見せるユリーシャ、お淑やかな顔をして頑固な奴だった。



だが……天才魔道士と言われた彼女なら戦力的にも申し分ない、シャリールの居ない今、着いてきてくれるのは寧ろ有難かった。



だが……



「出発はまだまだ先になりそうなんだ、だから今はオワスの村で過ごしてくれないか?」



今は自身のトレーニングに集中したかった。



ウルスがいつまで動かずに向こうの大陸で待ってくれているのかも分からない……1日も早く、自分の身を守れる程度にはならなくては行けなかった。



「あの、さっき見たのですが魔力を剣に宿し放つ……それに苦戦して居ませんか?」



ユリーシャの言葉に隼人は背を向けかけていた身体を彼女に戻した。



「成功しない人の殆どは剣の刀身、刃先に付着するようなイメージをしてると思うんです」



彼女の言う通りだった。



刃先に薄い魔力を宿し、それを飛ばす……完全にそうイメージしていた。



「けど実際はそうですね……剣を腕の延長線上と考えて下さい」



「腕の延長線上?」



「はい、魔力は血液見たいな物で全身を巡ってます、剣を腕と見立て……魔力を込める、そして刃先から溢れ出させて、放つ……そんなイメージです」



剣を腕と見立てる……試しに剣を握り柄の部分から魔力を込めていく、そして剣全体に魔力を浸透させ……刃先から溢れださせる。



「そして……放つ!」



隼人の叫びと共に放たれた斬撃は闘技場の壁をリカ程の威力とまでは行かずとも、大きく破壊した。



「後は反復ですね」



そう言い微笑む、天才魔道士とは聞いていたが教える方まで一流とは……凄まじい戦力強化だった。



「私は……要らない様ですね」



少し悲しげな声色で隼人が声を掛けるタイミングも無くリカはその場から姿を消す、彼女がいじける所を初めて見たような気がした。



だが……今はそれよりもこの感覚を逃したく無かった。



「もう少し教えて貰ってもいいかユリーシャ!」



「はい、私にできることなら」



隼人は剣を握るとやる気に満ちた表情でユリーシャと訓練を続けた。



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「時間が……無い見たいですね」



闘技場から少し離れた廊下の壁にもたれ掛かる、身体から溢れ出る冷気は辺りを凍らせていた。



「やはり時間が無いですか?」



少し離れた場所からアルラの声がする……彼女なら見られても問題は無かった。



「はい、あと1年と数ヶ月……と言った所ですね」



「六魔との戦いが大きかった見たいね……」



そう言いアルラは隣で壁にもたれ掛かる、六魔との戦いで使った大量の魔力……その代償は大きかった。



「恐らくウルス様との戦いでは私は居ません……アルラさん、頼みますよ」



「ええ……」



頷くアルラの表情は悲しげだった。



仕方の無い事だ……召喚された時から……いや、ずっと前から決まっていた避けられない運命、覚悟はしている。



「私がただの氷になる前に……隼人さんには強くなって貰わないと行けませんね」



そう言いリカは無理やり絞り出したような笑顔で闘技場へと戻って行った。

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