第146話 雷神と暗黒神
魔力の感じる方へと稲妻の様に走るアクトール、大地を踏みしめるたびに電撃が辺りに走る……憑依した少女が酷く泣いていた。
対価を貰い憑依するだけの器とは言え感情も共有してしまうのは厄介……大切な者を無くした様だった。
何かを失くす……分からない感情では無かった。
私もまた……
「そんなに急いで何処へ行く」
突如として聞こえて来た声……振り向かずとも禍々しい魔力で誰か分かった。
『暗黒神か……』
「これこれは、お初ですね……雷神様」
まるで挑発する様に深々と頭を下げるカルザナルド、暗黒神の悪名は神界にも轟いている。
人間の世界を征服するなんぞ物好きな神も居たものだった。
いや……神と呼ぶにはあまりにも愚か、そして弱く卑しい……本来の身体ならば指一つでも倒せるレベルの相手を神と呼ぶのは他の神に失礼だった。
「どうかされましたかな?」
『いいや……今から死ぬ者を前に憐れんで居ただけさ』
「今から死ぬ者……ですか」
可笑しそうに言うカルザナルド、機械音の様な耳障りな声だった。
『一瞬で終わらせる』
四肢に雷を纏わせるとシャリエルの身体能力を無理矢理向上させる、彼女の話によればこの体は多くて残り一年ちょいしか生きられない、残り少ないのならば死んでも良いから暗黒神を倒してくれとの事……つまりこの体を壊しても良いと言う事だった。
『それじゃあ……お言葉に甘えて』
両手を天高く掲げると頭上をドス黒い雷雲が覆い、辺りには雷鳴が轟く……雷雲はアクトールを中心に渦巻いていた。
「これは……何が?」
『見てりゃ分かる……』
徐々に大きくなる渦に驚きを見せる暗黒神、恐らく彼?彼女?も初めて見るだろう。
神器を。
渦巻いていた雷雲はやがて割れる、そして一筋の雷が真っ直ぐにラクトールの元へと伸びて行った。
『これが知りたがっていた答えだ』
雷を帯びた戦鎚が隕石の如くクレーターを作り地面に落下する、この体では少々不釣り合いな武器だった。
「戦鎚アクトール、これが神の武器……」
『ボサッとしてると死ぬぞ?』
戦鎚を軽々と持ち上げアクトールは一瞬にして背後を取る、カルザナルドは剣にすら手を掛けて居なかった。
「まずいな……」
戦鎚はカルザナルドの顔面を捉える、だが渾身の一撃もカルザナルドはその場から数センチしか動かなかった……ガードをしてないにも関わらず。
「その程度……か?」
雰囲気が変わった。
何かがおかしい……力がどんどん増幅して行く、あり得ないほど強大なまでに。
『このままじゃ不味いな……』
使用者の身体能力を数十倍にも飛躍させる戦鎚で殴ったのにあの程度のダメージ……時間経過で強くなって行くのならば此処で倒さなければ勝ち目は無かった。
暗黒神だからと甘く身過ぎた。
『一気にケリをつける』
「そう言う事なら大歓迎です」
そう言い余裕で両手を広げてみせるカルザナルド、屈辱的なまでに舐めている。
『筋肉がボロボロになるが……許してくれよ』
髪が逆立つほどの雷を纏わせると戦鎚を構える、筋繊維が悲鳴をあげている……二度目は無さそうだった。
グッと地面を強く踏みしめ準備をするアクトールにカルザナルドは剣を構える、相変わらずの余裕……それが少し怖かった。
怖い……この俺がそんな感情を抱くのは数百年ぶりだった。
『つくづく……ムカつくな』
足に溜めた力を一気に解放する、カルザナルドに到達するまで0.03秒、戦鎚を振り下ろすのに0.7秒……此奴は俺の力を見誤った。
剣でガードしようとするが到底間に合わない、戦鎚を今度こそカルザナルドの頭部を捉え地面に叩きつけた。
手応えはあった……だが俺に出来るのは此処までの様だった。
『誰か……頼んだぞ』
その言葉だけを残しアクトールはシャリエルの体から姿を消した。
「派手に……やってくれたな」
カルザナルドの声が聞こえる、だが体が全く……ピクリとも動かなかった。
辛うじて首だけは動く……声のする方向へと首を向けた。
「兜が木っ端微塵……まぁ雷神の一撃を守っただけ良しとするか」
足元しか見えないが黒い鎧はアルセリスか暗黒神のどちらか……この場合は暗黒神だろう。
だが声が違った。
明らかに女性の声だった。
「お前は生きてるのか?」
シャリエルの体をツンツンと剣の切っ先で触るカルザナルド、何がどうなっているのか分からなかった。
「貴女は……暗黒神なの?」
「兜で声を変えていたから意外か?」
暗黒神はシャリエルを覗き込む様に顔を合わせる、見た目は短い銀髪の少女だった。
髪の長さは……ちょうどアーネストと同じくらいの。
「なんで……アーネストを殺したの」
「私の配下になるのを断った、ただそれだけだ」
くだらない理由……行き場の無い怒り、だが私にはもう戦える力は残っていない。
剣の切っ先をシャリエルに向ける、転移の魔紙は残っている……だが破る力すらない。
「数年前の借りを返すよ」
カルザナルドはそう言い捨てるとシャリエル目掛け剣を振り下ろした。
目の前に迫る死……シャリエルはそっと目を閉じる。
だが次の瞬間聞こえたのは剣が何者かに止められる金属音だった。
「なんてザマですか、ボロボロで瀕死状態じゃないですか」
聞き覚えのある声、目を開くとシャリエルに情け無い表情を向けるアルラがそこに居た。
「アルセリス様の仲間で無ければ見殺しにしてましたよ」
「ありがとう……」
「礼なら後にしてください、今は……」
そう言いアルラはカルザナルドに視線を向ける、真っ黒な鎧に身を包んだ奴と聞いていたがまさか女性とは予想外だった。
だが溢れ出る殺気や一瞬たりとも油断を許さない空気感は間違いなく暗黒神……これは骨が折れそうな相手だった。
「アルセリス様の為に」
そう言うとアルラは腰の刀をゆっくりと抜いた。
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