第80話 右腕
全てが終わった……女神エレスティーナは頭部を射抜かれ生き絶えた、長かったが……ようやく復讐が終わった。
だが何故か煮え切らない……あんなに呆気なくて良かったのか、リリィは予想以上に弱かったエレスティーナに疑問を抱いていた。
彼女は天使達の力を羽だけで無く血の結晶まで取り入れていた……だが彼女と戦っていてその気配は感じられない、少し妙だった。
「前より腕をあげましたねリリィ」
背後から聞こえる声……やはり一筋縄では行かない様子だった。
「あの頃とは違うからね……」
ゆっくりと背後に目線を向ける、其処には先程までのエレスティーナでは無く、黒い翼に赤い……まるで血に染まった様な羽衣を見に纏っていた。
「もう……許さないデスから、貴女にはシすら生温い地獄ヲ見せてあげマス」
所々声がおかしくなるエレスティーナ、ふと彼女の右手を見るとシャナが居た。
「シャナを……どうする気だ」
「さア?」
そう言い手を握る強さを強める、その瞬間リリィはエレスティーナ目掛け走り出した、拳を握り腹部に叩き込む、だがエレスティーナはなんとも無い表情をして居た。
「痛くモ痒くもナイですね」
そう言いそっとリリィの背中を触れる、すると一瞬にしてリリィは地面に叩きつけられた。
すぐ様立ち上がり距離を取る、力が桁違いに上がっている……純粋なパワーだけだとフェンディルのレベルに達しているかも知れなかった。
『光槍 アンデラネル』
巨大な槍を二つ出現させ片腕で持つと足をグッと踏み込みエレスティーナはリリィに向けて放り投げる、大きかった槍は急に大きさを変えるとリリィの肩を貫き砦の城壁に突き刺さった。
そして音が遅れてきこて来る……第一位階を詠唱無しに発動、しかも音を超える速さでの投擲とは驚き以外の何でも無かった。
肩から光の矢を抜くと地面に着地する、両腕が千切れそうでぶらぶらして居た。
「まぁこの程度なら……どうにかなるね」
そう言い治癒の魔法を掛けると見る見るうちに傷口がくっついて行く、そして完全に傷の面影が無くなると肩を回し手を握った。
違和感は無い、リリィはグッと光の槍を構えるとエレスティーナに向けて投げると一瞬にして目の前に到達する、だがエレスティーナはいとも簡単に光の槍を消し飛ばした。
「牽制ニモなって無いデスね」
そう言い微笑む、だが先程まで壁際に居たリリィがいつの間にか居なくなって居た。
「後ろだよ」
「いつノ間ニ!?」
全く気配の無かった背後に現れたリリィにシャナの手を握って居ない方の手で攻撃をする、だがリリィはそれを受け止めるとエレスティーナの左腕を手刀で斬り落とそうとする、だが手刀は腕に当たるも骨で止まった。
「今ノ私の皮膚強度はダイヤモンド並ミ!貴女ノ手刀じゃ落とせナイ!!」
不気味な笑いを上げリリィの腹部を殴り顔面を回し蹴りする、その際もシャナから手を離す事なく攻撃して居た。
「ふぅ……厄介だね」
唇から流れる血を拭き取ると一息吐く、ダイヤモンド並みの強度とはこれまた大きく出た物だがそれに近しい強度ではある……今の自分にそれを破壊する術は無い……全く厄介な敵だった。
「なす術……ナシですカ?」
「まぁ、そうだね」
血を吐き出し骨を鳴らす、まだエレスティーナの動きを視認できるだけマシだった。
「これガ天使ノ……チカラ!!」
女神エレスティーナの面影は無く、醜い化け物はそう言い叫ぶと拳を握り締め殴り掛かってくる、ガードするが重い一撃に骨が折れる……だが折れた側から回復させて行くゾンビ作戦でリリィは耐え抜いた。
「全ク……回復の才能ダケは昔からズバ抜けて居マシタよネ」
「そうだね……正直戦闘は苦手、どうやったら勝てるのかな……」
回復させたとは言え蓄積したダメージにより吐血する……ここで負けるのはアルカド王国やアルセリス様の顔に泥を塗る事になる、それに……シャナを助ける事も出来なかった。
「とは言え、大層な変身なんて物は持ってないし……気合いでどうにかするよ!!」
そう言いリリィは身体付与の魔法を発動させエレスティーナの顔面を殴る、あまりの強度に甲の皮がめくれる……元より前線に出るのは得意では無い……だが色々と背負うものがある立場、負ける訳には行かなかった。
「天才リリィの見ル影モありませんネ」
殴り掛かってくるリリィの攻撃をノーガードで受け続ける、リリィの手は殴り続けて行くに連れて骨にヒビが入り、ボロボロになって行った。
「興醒めです……サヨウナラ、リリィ・アクターズ」
そう言いリリィの腹部を貫く、だがその瞬間、エレスティーナの視界が真っ暗になり、目に激痛が走った。
「目ガ……見エナイ!?」
閃光魔法による失明?違う……単なる目潰しをされたのだった。
「流石に目は硬くしよう無いからね……」
目を潰されたエレスティーナは目を押さえリリィの姿を探す、だが彼女は見当違いの場所を攻撃して居た。
「シャナ……もうすぐ終わるからね」
そう言いシャナの頭を撫でるとリリィは立ち上がり魔法の詠唱を始める、詠唱して放つ第一位階の光魔法なら流石に倒せるはずだった。
『光の前に散りと化せ……光第一位階魔法 アデラグルス』
何十層もの魔法陣がエレスティーナの頭上に出現し魔力を貯めて行く、そして大きな光がエレスティーナへ向けて放たれた。
「コンナモノ……喰らうモノか!!!!」
魔力の気配を感じ咄嗟にエレスティーナは頭上へ無数の光の矢を放つ、だが光は一瞬にして取り込まれ力をより強大にしてしまった。
咄嗟に魔法障壁を張るも、数秒もすればエレスティーナの姿は光へと包まれて行った。
「終わったよシャナ」
エレスティーナが倒れ込んだのを確認するとしゃがみ込んでシャナの頭を撫でる、酷く怯えているようだった。
「リリィ様……」
そう言い抱きつくシャナ、ようやく……慣れてくれた様子だった。
「苦戦したけど……君の行っていた死は訪れなかったね」
「そうですね……」
シャナの言葉が気になって居たが……起こらなかった事にリリィは微笑み言葉を掛ける、シャナも少し安心した様な表情をして居た。
だが次の瞬間、シャナの表情が変わった。
「リリィ様!!」
その言葉と共にリリィは突き飛ばされる、そして次の瞬間、光の矢がシャナの心臓を貫いて行った。
「シャナ!!!」
リリィは咄嗟に駆け寄る、そして後ろを振り向くと其処にはボロボロだが最後の力を振り絞って魔法を放ち、生き絶えたエレスティーナの亡骸があった。
ちゃんとトドメを刺すべきだった……だが今は後悔して居られ無かった。
「今、止血する!!」
そう言い治癒の魔法をかけ続ける、だが溢れる血は止まらなかった。
「シャナ!意識を保て……助かる!!」
高度な回復魔法をかけ続けているにも関わらず何故か癒えない傷……ふと光の矢が消えずに地面に刺さっている事に気が付いた。
「これは……」
リリィは矢を拾い上げる、特別な呪術が書き記されて居た。
傷が癒えないのはその所為……傷は心臓を貫いている、死ぬのは時間の問題だった。
「シャナ……」
「リリィ様を……守れて良かったです、夢で見たんです……リリィ様が油断してあの魔法にやられる所を」
「いつ私が守れと命令した……勝手に死ぬなんて許さない」
血を吐くシャナの血を塞ぎながら言うリリィ、だが誰が見ても助からないのは一目瞭然だった。
「私は……リリィ様に殺されると思って居ました、拷問され、苦しんで……ですがリリィ様は私に優しく接して下さりました……昔の姿に似ていると言い」
「そうだね……まぁシャナは元より拷問する気は無かったよ、育てるのも悪く無いと思ったからね……だから、死ぬんじゃ……」
「嬉しかったです……親を失い孤児だった私をウルス様が引き取り……リリィ様が育てようとしてくれた、ですがもう大丈夫です……ありがとうございました」
そう言い笑顔で涙を流し謝るシャナ、もう虫の息だった。
「絶対に死なせない……命に変えても」
そう言い何かをしようとするリリィを見てシャナは突然叫んだ。
「リリィ様が死ぬ原因は私を蘇生しようとして……そんな事したら、私は絶対に許しませんよ」
そう言い睨みつけるシャナ、だがリリィは微笑んだ。
「その夢は……当てにならないね」
そう言い自身の右腕を切り落とすと魔法陣の上に置き詠唱を始める、すると次の瞬間天から天使が現れ腕を持って行った。
『我が右腕を代償としてこの者に生を……』
光はシャナの身体を包んで行く、塞がらなかった筈の傷は見る見るうちに塞がって行った。
「リリィ様……右腕が」
右腕から血を流すリリィにシャナは震えた声で呟く、その言葉にリリィは笑顔を見せた。
「こんな物どうって事無いさ、右腕なら……シャナが居るだろ?」
「リリィ様……」
涙を流すシャナを左腕で抱き締める、右腕を失うのは痛い……だがそれよりも今はシャナの存在の方が大切だった。
「さぁ、国へ帰ろうか」
そう言い回復したシャナの手を引き女神の血の結晶を回収するとリリィは羽を生やし、空高く飛び上がって行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます