第76話 天使の陰
家屋の燃えかすが残る街、鎮火されたのは最近の様でまだ焦げ臭い匂いが辺りに漂って居た。
それに加えて血生臭い匂いもする……そこら辺のモンスターは食料として人間を巣に持ち帰ったり食べるが天使族は殺すだけ……よりタチが悪かった。
「飛ぶ鳥跡を濁さず、せめて死体は片付けて欲しいものだね」
そう言い怯えるシャナの頭を撫でる、辺りに天使の気配は無かった。
だがその代わり……奇妙な気配を感じた。
「ムスコヲ……カエセ」
倒壊した家屋の陰から現れた一人の人間と言うにはあまりにも醜い姿をした化け物、背中には灰色の羽の様なものが生えて居た。
「聞いても無駄だと思うけど……君は誰かな?」
「天使ニ……シヲ!!!」
リリィの問い掛けに耳を貸す素振りすら見せず襲い掛かってくる、鋭利になった爪を突き刺そうとするがリリィは軽く交わすと伸び切った腕の肘を軽く押して逆方向に曲げる、だが男は何の反応も見せず逆手で殴り掛かった。
「痛みはない様子……と言うか何この状態」
男の事を研究してみようかと試みるが特に調べる事も無く首を蹴り落とすと男は膝から崩れ落ちる、流石に頭部を切り離すと生命活動は停止する様だった。
「と言っても……生きてると言って良いか分からないけど」
そう言い男の頭部を持ち上げると少し観察する、真っ黒な目に鋭く尖った歯……人間で無いのは明らかだった。
だが何故この姿になったのか……考えられる可能性を探して居たその時、シャナが服を引っ張っている事に気が付いた。
「どうしたのかなシャナ?」
「あの……光る羽が」
「光る……羽?」
シャナの言葉にリリィは指差す方に視線を移す、男の背中に生えて居た灰色の翼の中に一つだけ白い翼が生えて居た。
リリィは近づきしゃがみ込むと羽を引きちぎる、すると白い羽を失った男の身体は灰となって散って行った。
「これは……どう言う事?」
羽には天使族特有の魔力を感じる……この人間は羽を偶然見つけその力に魅入られたという事なのだろうか。
羽が人に与える力は未知数……だが女神の力を維持する程の力を持っている以上、上手く行けば絶大な力を……下手すれば彼の様に化け物になる可能性もある様子だった。
「取り敢えずウルスの元に転送してっと……」
羽を調べて貰う為にウルスの元へ手紙と共に転移させる、そして辺りを見回すとまだ気配があった。
だが先ほどの化け物とは別の気配だった。
「誰か居るね、危害は加えないから出て来たら?」
リリィの言葉に家屋の陰から一人の鎧を着た青年が姿を現した。
「先程の戦い見させてもらいました、まさか天使族を倒してしまうとは……」
そう言い驚く様な表情をする青年、だがリリィは首を振った。
「残念だけどあれは天使族じゃ無いよ、そうだね……天使のなりそこないとでも言うべきかね」
「う、嘘ですよね……?あの化け物にこの街は滅ぼされたんですよ?!」
そう言い膝をつく青年、その言葉にリリィの表情は変わった。
てっきりこの街は天使族に滅ぼされたとばかり思って居た……だが彼の言葉からするとこの街を滅ぼしたのは天使のなり損ない……天使が落とした羽を使い暴走したとばかり思って居たが青年の話が本当ならば天使が直接羽を男に渡したと言う事になった。
基本天使が人間に干渉するのは禁止されている……下手すれば堕天もある、だがそれをして居ると言うことは何か不吉な事が起きる予感がした。
「休暇は終わりの様だね……」
そう言い白い羽を黒く染めるとリリィは微笑み手を離す、羽は風に乗り何処かへと飛んで行った。
「取り敢えず……助けて頂きありがとうございます、俺の名前はジェルジアス、南の都に駐在して居ましたが一応王国騎士です」
「礼には及ばないよ、私はリリィ、こっちがシャナだ」
「リリィさんにシャナさん……助けて貰ったばかりであれなのですが……正直この件は王国にも関わってくる重大な事件です……協力して頂けませんか?」
「協力……ねぇ」
ジェルジアスの言葉に少し考え込む、正直魔力の残滓だけでは天使達の居場所は掴めない、それにアルセリス様からアルカド王国の名を広めて来いと言う命令も降って居る……彼達に恩を売るのは好都合かも知れなかった。
「そうだね、協力するよ」
「それは有り難いです!それでは国に向かいましょう!」
そう言い歩き出すジェルジアス、魔紙を取り出すそぶりも見せない彼の背中を見てリリィは少し驚いて居た。
普通王国騎士なら転移の魔紙を持って居る物だが持っていない所を見ると入ったばかりの新人なのだろう……それにしては西の都の警備につかされて居るのが気掛かりだが。特に気に留めることでも無かった故にリリィは覚える事も無く歩き出した。
「それにしてもリリィさんは凄い強さですね、冒険者とかですか?」
「いや、私はアルカド王国所属の階層守護者、差し詰め騎士団長とでも言うべきかな」
「騎士団長様でしたか!これは失礼しました!」
他愛も無い話をしながら草原を歩く、ふとシャナの方を見るとまた怯えた表情をして居た。
彼女の表情の訳が分からない、先程話し掛けてきた事を考えると自分に向けられた感情では無いのは分かる……ならば何に怯えて居るのだろうか。
「シャナ、どうかしたの?」
リリィの問い掛けに何かを言おうとするが黙り込むシャナ、やはり何かを隠して居る様子だった。
「大丈夫、何も怖い事何て無いよ」
立ち止まりシャナの肩に優しく手を置くと微笑みながらリリィは言う、するとシャナは震えながらも口を開いた。
「り、リリィ様が……死んじゃう……」
「私が……死ぬ?」
彼女の言葉の意味が正直分からなかった、何故死ぬと思ったのか……この世界に自分と戦える人物など王国メンバーを除けば早々居ない、そんな自分を殺す程の者……居る者ならあって見たい物だった。
だがシャナに限って根拠のない事は言わない筈……リリィは頭を撫でると頭の片隅に置いておいた。
「大丈夫……私は強いから」
「リリィ様……」
シャナに背を向けるリリィに手を伸ばす、その表情は何故かとても悲しげだった。
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