第75話 奴隷の少女

アルカド王国所属のウルスと言う大魔術師が六魔を倒した……その噂はフェリス帝国まで轟いて居た。



「ウルスが派手にやったみたいだね……まぁアルセリス様の思っていた王国知名度の上げ方と違うけど結果オーライなのかな?」



リリィは川のせせらぎが聞こえる住宅街に掛かる橋を歩きながら呟く、本来ならば自分の戦場をウルスに取られたのは少し癪だが良い奴隷を貰って上機嫌だった。



「シャナはどう思う?」



「わ、私には分かりません……」



ビクビク怯えながらリリィの一歩後ろを付いて歩く銀髪の短い髪をした少女、見た目はまるでリリィの妹と言っても分からない程に風貌が似ていた。



彼女の詳細はよく聞いて居ないがシャナと言う名だけある事をウルスからは知らされて居る……正直此処まで自分と似て居ると拷問する気も起きないと言うものだった。



それに最近一人も飽き、たまには彼女にやらせて見るのも良さそうだった。



「怯えなくても良いんだよ?別に殺す気とか無いし」



そう言いシャナを抱き寄せる、だが彼女は変わらず怯えて居た。



何の恐怖があるのかは分からない……ウルスが何かをしたのかも知れないし自分が恐れられて居るのかも知れない……知るのは彼女のみだった。



「しかし暇だね」



穏やかな街並みに欠伸をする、フェリスの街に居る理由は特になかった。



一週間の休暇以来、大陸の実力が知れたとかで王国守備も軽くなり守護者も自由に外の世界を行き来出来るようになって居た、それを利用してリリィは外出をして居た。



シャナに外の世界を見せると言う目的もあるが何か任務……と言う訳では無かった。



「のどかだね、この街は」



橋から水の流れを眺め呟く、シャナも必死に柵に捕まると身を乗り出し川を覗き込んで居た。



リリィは不敵な笑みを浮かべるとシャナの背中をチョンっと押す、するとシャナは落ちそうになり慌てて居た。



「あははっ、可愛らしいね」



そう言い笑うリリィを少し睨む、だがシャナは直ぐに顔を伏せた。



新たな一面を見れただけでも良しだった。



妹と言うより……娘の様な存在の様な気がした。



ミリスティア……いつかの親子を殺した時、母はどんな気持ちだったのだろうか、怒り?悲しみ?分からない……シャナが殺されそうになれば分かるのだろうか。



リリィはシャナを見つめると微笑み白いズボンのポケットに手を突っ込む、所詮は暇つぶしの道具、自分がそんな感情になるのはあり得なかった。



「お姉さん!果物はいらないか?」



「お姉さん?」



リリィはシャナと自分を指差す、すると声を掛けた青果店の店主は自分の方を指差した。



「お姉さんだよ!妹さんにも要らない?」



そう言いリンゴを二つ持ち上げる、リリィはリンゴを手に取るとシャナに放り投げた。



「お姉さんって歳じゃ無いけど……まぁ買おうかな、お釣りは要らないよ」



そう言いリンゴを手に取ると金貨を一枚置いて行く、銀貨でも良かったのだが持ち合わせが無かった。



目の前に置かれた金貨に店主は嬉しさで震えて居た。



「毎度あり!!」



威勢の良い店主の声を聞きながらフラフラと商店街をシャナと共に歩く、たまにはこうしてのんびりも良かった。



フェリス王国の方には暗黒神の軍勢も来て居ない様子で国全体がのんびりして居る、他の王国メンバーには悪いが休暇を過ごして居る様だった。



「り、リリィ様……ありがとうございます」



リンゴを食べながら歩くリリィの服を引っ張り礼を言うシャナ、彼女から話し掛けて来たのは初めてだった故に少しリリィは驚いて居た。



基本奴隷には何の感情も持たない様にして居るのだがやはり彼女は特別なのだと再認識した。



「別に良いさ、食べたかったら何でも言うんだよ」



そう言い頭を撫でるリリィ、その言葉にシャナは遠慮しながらも頷いた。



街を当てもなくギルド方面へ歩いて行く、すると道中で気になる話を耳にした。



「西の都が天使族に滅ぼされたって聞いたか?」



「あー、オーリエス帝国領土よりの街だろ?物騒だよな、一応ゴールド級とか居たのにな」



「今噂の暗黒神の軍勢って奴なのかねー」



そう言いギルドの方へと歩き去って行く二人の冒険者、その言葉にリリィの表情は変わった。



女神が使役する兵士でもある天使族……もしかすると自分を堕天させた女神が率いる部隊かも知れなかった。



「次の目的が見つかったね」



そう言いリリィはシャナを小脇に抱えると光魔法で天使の様な翼を生やす、そして西の都の方面へと飛び去った。



堕天させた女神……エレスティーナ、彼女なら暗黒神の仲間に居ても不思議では無い、強欲で浅ましく汚い……女神であるのが不思議な人物だった。



天使などカスとしか思って居ない……彼女の所為で仲間がどれだけ死んだ事か……知らぬうちにリリィは血が出るほどに唇を噛み締めて居た。



「怒って……らっしゃるのですか?」



小脇に抱えられたシャナが心配そうに尋ねる、その言葉にリリィは頷いた。



「少し嫌な思い出があってね」



そう言いシャナに風の抵抗を受けない様に魔法結界を張るとリリィはより一層スピードを上げ西の都へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る