第69話 死者の軍勢

「さて、どうしたものか」



人目の付かない遥か上空から広い草原を見下ろすアルセリス、よく目を凝らすと人の様な形をした黒い点が東側は列を作り並び、西側は疎らに並んで居た。



東はセルナルド王国陣営、そして西側が暗黒神直属の部下である六魔の一人が率いて居る暗黒神陣営だった。



主なラインナップはアンデット系統やスカル系統など、基本的にスカルナイトやアンデットなどの雑兵は命令を聞かないのだが攻めずに止まっていると言う事は上級モンスターも控えている様子だった。



雑兵はシルバーやブロンズ程度でも問題ないがスカルキャスターなど中位のモンスターになるとゴールドやそこそこ強い騎士が対応しないと行け無くなる、そこへ更にアンデットマスターやスカルキングなどの最上位種が来れば……間違い無く王国陣営は不利だった。



強い冒険者と言えばグレーウルフのメンバーやソロのプラチナ冒険者がちらほら、騎士で言えばライノルド位……対して向こうには大将である六魔も控えている、戦況を見てメンバーを投入する必要がありそうだった。



「シェリル、ユーリ、いつでも行けるか?」



『いつでも行けるっすよ!』



『姉に同じくです』



アルセリスの声に姉妹が反応する、二人の準備は万端……後は戦局を見極めるだけだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「不気味ね」



眼前に広がる骸や屍者の軍勢、ザッと30万は超えて居た。



対する王国軍は10万が良い所、冒険者も掻き集めてこれなのだからこれが精一杯だった。



「グレーウルフを数年やってますけどこれ程のモンスターは見た事ないですね」



圧巻の光景にサレシュは苦笑いする、グレーウルフとしての依頼で死に掛けた事は多々あったが結局全員の力を合わせれば大した事無い依頼ばかりだった故に表情が引きつるのも無理は無かった。



「差し詰め……死者の軍勢と行った所か」



最前線でスカルナイト達を眺めて居るシャリエルの隣にふらっとライノルドが現れる、彼もまた圧巻の光景に驚いて居る様子だった。



「一晩でこの量、しかも攻撃の気配は無く偵察部隊は音沙汰無し……幾ら昔戦場になってたとは言え自然発生の線は無いわね」



「だな、裏で操る者が居る……差し詰め暗黒神の部下と行った所か」



暗黒神の部下……その言葉に難しい表情をシャリエルは浮かべる、正直な話暗黒神は想像の産物とばかり思って居た、物語の中でのみ存在する者として、勿論物語は読んだ事がある、世界を闇に、暗黒に染め光の無い絶望の世を作ろうとする災厄そのものだと……その部下もまた極悪非道でかなりの実力を持って居ると記されて居た、その中でも六魔は格別……異次元の強さだと書かれて居たのだった。



国一つを滅ぼす魔力を持ち、拳を一振りすれば山も砕けると……流石に過剰表現過ぎるが万が一この軍勢の中に六魔が居たとするなら……王国軍の中で一番強いダイヤモンドの自分でも勝てる自信が無かった。



「すげー数のスケルトンだな、どんだけ報酬出るんだろうな」



「一生遊べるらしいぜ?」



緊張感の無い会話をする冒険者達に歯ぎしりを立てる、金など関係無い……この戦いは生きるか死ぬか、下手すれば国が滅びる事になる戦いだった。



「シャーリ、エル!」



後ろから名を呼びアーネストが抱きついてくる、視線を背後に向けると彼女の握って居る剣は魔剣では無く、ただの少し質の良い剣だった。



「どうしたの?もしかしてこれ?魔剣奪われちゃったからねー、闇魔法の精度も質も下がっちゃうし散々だよー」



シャリエルが剣に視線を向けて居た事に気が付き笑いながら話すアーネスト、強がりだと言う事は分かって居た。



魔剣には意思がありアーネストにとっては友と言っても過言では無い……それが復活の鍵、生贄にされたのだ……悲しい訳が無かった。



だがこうして笑って居る……本当にアーネストは強い、流石グレーウルフのリーダーだった。



「アーネストなら大丈夫、努力してるのは知ってるから」



その言葉にアーネストは恥ずかしそうな表情をして居た。



「み、見てたんだ……はは、恥ずかしいな」



はにかみながら言うアーネスト、夜な夜な草原で訓練して居た事は知っていた。



「大丈夫、自信持ちなさい」



「そ、そうだね!それじゃあ作戦会議行ってくるね!」



シャリエルに背中を押され走って行くアーネスト、人混みの中に彼女が消えるのを確認すると再び死者の軍勢に視線を向ける、アーネストとは相性が悪そうだった。



死者の軍勢は属性的には闇、光魔法なら効きやすいが闇魔法はあまり効果が無い……となれば彼女は後衛の守備陣営に回ってもらうのが正解だった。



だがチーム内の士気を上げるのはいつも彼女の役目……どうにかして前線に置けないか、シャリエルは腕を組み考え込んで居た。



「シャリエル、魔紙のストック大丈夫?」



「あぁ、アイリス……心配ありがとう」



トコトコと歩いて来るアイリスの存在に声を出されるまで気が付かず少し驚く、自身の背丈よりも大きなハルバードを担ぐ彼女は少し周りから見て目立って居た。



「今回生きて帰れると思う?」



「ま、まぁ……現実的に見るなら難しいわね」



珍しく弱気なアイリスに少し驚く、見た目は小柄で眠そうな表情をして居るがやる気はチーム内でも随一……そんなアイリスが珍しく死を感じて居る、それ程までにこの状況は絶望だった。



人間の様に死者の軍勢には戦略は無い……だからと言って倒すのは容易では無かった。



頭蓋骨の破壊をするまでスカル系統は復活する、アンデット系統も人間では生きて居るのがおかしいレベルにダメージを与えないと死なない……そんな化け物が30万体も居る、戦いは長期戦必須、だが向こうは疲れず休む必要も無い……一方人間は疲れや限界がいずれ来る、圧倒的に人間は不利だった。



「はぁ……戦う前から鬱になりそう」



勝機が考えれば考えるほど遠退いていく事実に溜息が出る、戦局が大きく揺れ動くとなれば……やはりセリスの存在が必須だった。



「ほんと、何処で何をやってるのやら」



肝心な時に居ないセリスにため息を再び吐くとシャリエルは青い空を仰いだ。

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