139 楽しい採取と発見と




 森の中の採取は順調に進んだ。まずは土糊の採取だ。薄暗いジメッとした場所を歩き回って見付けた。その道中に花火草も見付けたので、翌朝採取しようと目印を付けておく。

 クリスもイザドラの採取を手伝った。とても助かると喜ばれ、ついでに自分の分の採取をしてもいいと言われた。だから貴重な薬草があれば二人でせっせと採っていく。もちろん歩きながらではあるが、楽しい一時だった。


 寄り道しながらでも、昼過ぎにはフラルゴが生えている森の奥まで辿り着けたのだから優秀だ。フラルゴの実は成熟しきってしまうと自然に弾ける。普通の綿花と同じだ。ただし、フラルゴの場合は成熟していなくても、衝撃を与えたら弾け飛ぶ。ギュウギュウに詰まった綿が一気に膨らんで広がるし、種も高速で飛ぶため危険だった。

 イザドラはカロリンとカッシーに近付くなと命じ、クリスだけを助手に選んで採取を始めた。クリスだって採取のベテランではないが、二人よりは採取に慣れている。それに、これも経験の一つだ。ドキドキしながら慎重に採取を手伝った。


 そんな危険な実だから、保管にはイザドラが作った特殊なガラス瓶を使う。不思議なことに、この瓶の中に入れてしまえば爆発は起こらない。幾つもの実を丁寧に詰めては封をしていく。


「クリスの分もあるからね。これ、すごく便利だから採れるだけ採っておこう」

「いいの?」

「その代わりに運んでもらうんだから。この瓶は特殊な分、収納袋に入れられないんだ~。馬車があって本当に助かったよ。予備に置いておいたとしてもまだ余るから、素材屋に売れるもん!」


 収納袋に入らない理由は、瓶が収納袋と似た仕組みで作られているかららしい。収納袋ほど高度ではないそうだが、爆発する実を押さえ込めるのだから強力な魔術が付与されているのだろう。魔法使いではないクリスには分からないが、イザドラの説明に「なるほど?」と相槌を打った。


 イザドラは採取しながらお喋りを続けた。なんでも、収納袋に収納袋を入れるというのは高度な技になるのだそうだ。かなり性能の良い品でなければ入れられない。そう聞いて、エイフの持っている収納袋なら入るのではないだろうか、あるいはクリスのポーチでも可能かもしれないと思った。

 とはいえ、エイフはここにはいないし、クリスのポーチは現状パンパンだ。

 イザドラも一応持っているというが、容量は小さく性能も「普通」らしい。


「そこそこ裕福な商家で育ったんだけど、それでも子供に持たせるには安くない品だったんだよ~」

「だろうね」

「でもほら、あたし可愛がられてたから!」


 冗談めかして言う。イザドラの両親は娘のためと必死だったに違いない。戦場に送らずに済む方法を考え、更にどうすれば彼女を守れるかと頭を悩ませた。

 彼等は考えたはずだ。大荷物を持って旅をするより、小さな収納袋一つで身軽に動ける方が遙かに安全だと。

 ニウスという大きな妖精が一緒にいても不安だったろう。それでも離れてもいいからと彼女の命を優先した両親だ。


「いい親御さんだよね」

「そうなんだー。有り難いことにね。あたしが魔法士なんてスキルをもらったばっかりに、心労掛けちゃったけどさ」

「イザドラ、スキルに善し悪しなんてないんだよ。そうなるように仕向けられたのが問題で」

「……クリス、もしかして慰めてくれてる? やだもう、いい子! あたし、クリス大好き!」

「ちょ、やめ、こんなところで抱き着いてこないでよ」

「ここだと避けられないで済むね~」


 フラルゴの群生地でぎゅうぎゅうに抱き着かれたクリスは、降参ポーズでしばし固まった。



 その後は笑い茸の採取だが、これが夕方になっても一向に見付からない。

 ところでクリスが焦っている間、カロリンたちが何をしていたかと言えば、ニヤニヤと笑って見ていた。抱き着かれて困っていたクリスが面白かったらしい。

 あれから時間が経ったというのに、思い出しては笑っている。カッシーに至っては妙な呟きで反応に困った。


「女の子同士ってやっぱりいいなぁ……」

「カッシー、あなた心の声がダダ漏れでしてよ?」

「特に問題ないよね」

「そうかしら? クリスをご覧なさいな。ドン引きよ」


 そう言って指差すものだから、クリスは半眼で二人を見返した。それから、何も言わないイザドラの代わりに告げた。


「そろそろ馬車まで戻らないとダメだから、ルート確保しておいてね?」

「もちろん、やってるわよ。周辺の警戒がてら、最短ルートをここに叩き込んでいるわ」


 と自分の頭をトントンと指で叩いた。そんなカロリンの後を追うように、カッシーが続ける。


「僕もできるだけ下草を刈ってきてるからね。安心して」

「……ありがとう」

「ふふ。そんな驚いたような顔も可愛らしいわね。食べちゃいたいわ」

「僕より、カロリンの方が問題発言じゃない?」

「あら、比喩よ、比喩。うふふ」


 人差し指を顎に当てて優雅に笑うカロリンだが、どうにも仕草がお嬢様というには何かが違う。クリスは首を傾げながらも、目を凝らして茂みを探し回った。


 しかし、見付からない。元々見付けにくいとは聞いていたが、これでは何日野営しても難しい気がした。イザドラの依頼人もできるだけ早く欲しいと言ってるそうだから、何泊もするわけにはいかない。

 それとこれはクリスの個人的な思いだけれど、数日後にはエイフがヴィヴリオテカに戻ってくる予定だ。彼を待たせたくない。

 もちろん、遅れた場合を想定してプルピかイサに伝言を頼むつもりではいるが。


「見付からないね~。仕方ない、そろそろ馬車に戻ろっか。探しながら帰るよ。悪いけどクリスもお願いね?」

「……イザドラ、笑い茸って確か、昼間の明るさを取り込んだ分だけ少し光るんだよね?」

「そうだよ。だから今日みたいにお天気がいいと夕方頃にほんのり光って見付けやすいの。夜までは保たないから、すぐ抜けちゃうけどね」

「このあたり、他に光る草木ってあったっけ」

「虫食い草なら光るかも。でもあれは丈があるから間違えようがないかな」

「そっか。よし、イザドラ。依頼料を余分に銀貨五枚出す気はない?」


 どういうことかと聞く彼女に、クリスは背負っていた荷物入れから紙挟みポートフォリオを取り出した。


「紋様紙で解決できるかもしれないから」

「えっ」


 クリスが紋様紙を描くことは話していたが、それを使うという発想はなかったらしい。というより、紋様紙に何があるのかを知らない可能性もあった。

 イザドラが魔法士スキル持ちだからだ。彼女は属性魔法なら使える。火を付けたり水を出したりといった、いわゆる基礎の魔法だ。他にも、よく使うような魔法なら覚えているだろう。しかし、上級スキルを持っているからといって、全ての魔法が完璧に使えるわけではなかった。

 車の運転ができても渋滞を回避する術は知らないし、ましてや近道を行けば早く着くということすら気付けない。使いながら覚えていくしかないのだ。それでも、持たない者よりずっと理解は早い。






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「家つくりスキルで異世界を生き延びろ」のコミカライズ版1巻が4月27日に発売決定です!

日向ののか先生の描く可愛いクリス、イケメンのペルちゃん、モフモフのイサにムキムキのエイフといったキャラはもちろん、都市の風景など見所満載です!


更に書籍版3巻が同じく4月に発売決定しました

こちらは4月30日となります

応援してくださる皆様のおかげです

いつも本当に本当にありがとうございます!

書籍版には書き下ろし番外編もございますので、ぜひよろしくお願い申し上げます!!


詳細が分かり次第、近況ノートやTwitterで公開していきますー



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