122 カフェ満喫と冒険者ギルドの様子
店の中もオシャレだった。木の温もりが感じられ、小さな置物がところどころに飾られている。丸いテーブルに、可愛らしい装飾が施された椅子。壁にはタペストリーが掛けられていた。
「わぁ、素敵なカフェ」
「ピッ」
店員さんに念のため「小鳥も一緒に入っていい?」と確認したが、問題なかった。魔法使いの多い都市だからか、使い魔として動物を使役する者がいるのだそうだ。躾がされていれば一緒に入っていいらしい。
席は、お昼過ぎだったため幾つか空いている。自由にどうぞと言われ、クリスは真っ先に窓際の席を選んだ。レースカーテン越しから通りを眺めるのが楽しみだった。
前世でもこれほどゆっくりしたことはない気がする。というより、前世はとにかく忙しすぎた。学生時代は勉強に明け暮れ、社会人になってからは残業と休日出勤の日々。たまに取れる休みは家事で終わった。
そんな状況で婚約できたのは自分でも不思議だが、よく考えたら家デートばかりだった。
別れてからは近場のカフェにも行ってみたが、その頃には家を買いたいと思い始めたため、すぐに節約生活が始まったのだった。
「もしかして、今の方がホワイトなんじゃない?」
「ピ?」
「あ、なんでもない。ちょっと思い出してたの」
「ピピピ」
イサはメニュー表の上をトトトと歩いて、どれにするのかと突いている。
食事はクリスのを分けるため、何にするか気になるらしい。
悩んだ末、ヴヴァリの煮込みランチに決めた。飲み物はオレンジジュースだ。「トニー果樹園のオレンジで作りました」と小さく書かれている。
注文を告げる際に聞いてみると、果樹園は外壁内にあるそうだ。外壁の外にある果樹は手入れが良くないらしく、内側にあるトニー果樹園は人気なのだとか。自慢げに教えてくれた。
肝心のランチは見た目も可愛らしく、美味しかった。ただ、量が少ない。クリスでも少し足りないと思うから、エイフなら全く足りないだろう。彼がいたら誘えないが、今はクリス一人だ。またオシャレをした時に来てみようと思った。なにしろ、クリスには可愛いワンピースがまだあるのだ。
なんだか嬉しくて、クリスは始終ニコニコと笑っていた。
午後もブラブラと見て回り、クリスたちは早めに宿へ戻った。
部屋に行く前にペルの様子を確認したが問題なさそうだ。プロケッラがいないため寂しがっているかと思ったのにそうでもない。雑穀入りの美味しそうな飼い葉をモグモグと食べていた。
部屋に入ると窓を少し開け、ベッドに座った。衝立の向こうには綺麗なままのベッドが見える。
ずっと一緒だったので、エイフがいないのが不思議な気分だ。
この数ヶ月、随分頼ってしまった。特に最近は甘えている気がして、クリスはここで心機一転また一人でも大丈夫なように頑張ろうと思った。
一週間は帰ってこない。エイフがいない間に、クリスもレベル上げをしよう。
そう考えると、むくむくとやる気が出てきた。
まずは、いつものように紋様紙描きの内職をして、それから【魔力排出】を使っての昏倒寝だ。
イサが見守る中、クリスはルーティンをこなした。
朝市は中地区の大通り沿いにある公園の通路で開かれていた。大通りには商家や他ギルドの建物が並んでいる。そのため、公園を通って朝市で買い物してから勤務先へ行くという流れができていた。冒険者の姿もチラホラ見える。
クリスたちは中地区の朝市で食事を済ませるとヴィヴリオテカのギルド本部に向かった。ギルド本部も中地区にあって、宿から近い。
早めに行動しようと、混雑を覚悟して入ったギルド本部だったが何故か人が少なかった。
何かあったのだろうかと少しの不安を抱いて依頼書が張り出されている壁を見る。
「うーん。やっぱり薬草採取はないなー」
イサもクリスの肩の上から一緒に覗き込んでいるが吟味しているのかどうかは不明だ。 ところで、プルピとククリは朝方に帰ってきて食事を摂った後にまた出掛けている。彼等は彼等でヴィヴリオテカの観察に忙しい。主に「挨拶回り」だというが、プルピの場合は「面白い素材がないか」の確認だろう。ククリは助手(?)のような弟子のような扱いだ。
プルピに連れ回されなくなったイサは自由を満喫している。クリスの肩も頭も乗り放題だった。
クリスは低級ランクでも受けられる依頼を眺めたが、どれもパッとしない。土木関係の仕事が多いからだ。しかも女性はダメだという印が付いている。子供のクリスだと更に断られるだろう。
ダメ元で、外壁補修の依頼書を手に取って受付に行ってみた。
「ああ、これね……。うーん、どうかしら。無理だと思うわぁ」
「そうですか。あの、ちょっと質問なんですけど」
「情報提供は銀貨三枚からよ?」
分かってるのか、といった表情でクリスを見る。
クリスは背伸びするために浮かしていた踵を落とした。力が抜けたからだ。
受付の女性からは、クリスの鼻から上が見えている状態だろう。つい、顎を乗せてしまいたくなるが我慢だ。
「……情報が欲しいんじゃなくて質問なんですけど。あの、何故依頼がこんなに少ないんですか? 低級ランク向けの依頼内容も土木関係の、それも力仕事ばかりです」
口にはしなかったが、他にも中級以上の依頼内容が護衛ぐらいしかなかった。しかも金額が低級ランクに近い。
受付女性はつまらなさそうな表情を隠しもせず、溜息を吐いた。
「それだって情報提供よぉ。でもま、誰でも知っている内容だからいいわ。オマケしてあげる。この都市には魔法使いが多いの。魔法系のスキル持ちが多いってことね。だからかしら、技能系スキル持ちも多いわ。依頼者だったら専門家に頼んだ方がいいって考えるわよね? だから専用スキルを持たない冒険者ギルドへの依頼が少ないのよ。土木関係の力仕事は技能系が嫌がったから回ってきたに過ぎないわ」
「……周辺の魔物狩りはどうしてるんでしょう」
「はぁ。あのね、だから言ったでしょう? 魔法使いが多いって」
「魔法ギルドが率先して依頼を受けてるってことですか」
「そうよ」
「でもじゃあ、冒険者ギルドの運営が大変じゃないですか」
クリスはつい余計なことを言ってしまった。しかし、受付の女性は嫌な顔などせず、ただ肩を竦めた。
「冒険者ギルドの存在意義を思い出してみて。どんな村にでもあるでしょう? 魔法ギルドがない村でも冒険者ギルドはある。仕事をしたい人にとってはなくてはならない場所よ。儲けは関係ないの。うちが儲かってなくても、他で利益を出せればそれでいいのよ」
確かにそうかもしれないが。
都会ほど冒険者ギルドの仕事は偏っていると聞いていたけれど、依頼自体が少ないとは思わなかった。クリスは女性にお礼を言い、ほんの少し嫌な予感を抱いてギルドを後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます