第70話 半兵衛の面接にて候
はぁ、酷い目に遭った。
半兵衛の早とちりの為に俺は長姫に散々詰られた。
「わたくしを求めなかったのは、貴方が衆道だからですのね? 貴方がそのような趣向をお持ちとは知らず。ああ、今のわたくしでは貴方を満足させる事は出来ないのね?」
とんだホモ疑惑を持たれてしまった。
「あの、藤吉様。寧々ではいけないのでしょうか? あの方よりも、その、寧々の方が可愛いと思いますよ?」
寧々…… 自分で可愛いとか言わないで。
「お兄ちゃん何してたの?」
朝日はなんの事か分かってなかったのでセーフ!
「すみません、すみません、すみません」
半兵衛は俺に平謝りだった。
もちろん土下座だ。
とりあえず、長姫を加えて話を続ける。
もちろん半兵衛には服を着て貰ってだ。
「ごほん、まず貴方は藤吉の下で雇いますけれど、はっきりと言っておきますわ! わたくしが藤吉の正室です。奥向きの事は……」
だあー! 何を話してるんだ!
「ストーップ! 待て、待て、待て!」
「え、すと、なんですの?」
長姫の暴走を抑えて話を戻した。
さらっと妻に成ってんじゃないよ!
しかも、正室とか!!
竹中一族を服部党に預けて半兵衛は俺の直臣として取り立てる事にした。
織田家や家中の者の所に取られたくはないからな。
とりあえず仕度金二十貫を与える事にする。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
二十貫ばかりの銭で頭を下げる半兵衛を見て、少し哀れに思ってしまった。
竹中家は約三千貫から五千貫ほどの領地を持っていた。
それが今や二十貫ほどの銭を有り難がっている。
俺ももしかしたら半兵衛ように成っていた可能性が…… いや、無いな。
俺の場合は討ち死にだな。
ともかく俺の家臣が増えたのだ。
しかも、戦闘経験者で策を考えられる人物だ。
非常に有難い!
長姫は預りという身である以上、常に俺と行動を共にする事が出来ない。
しかし、半兵衛は俺の直接の家臣だ。
彼は俺と一緒に行動出来る。
常に相談出来る人間が居るのは助かる。
小六は諜報等でいつも一緒とは限らないし、長康は護衛や副将として頼りになるが、戦術等の助言はしてくれないし考えてくれない。
今の俺にとって半兵衛の存在は正に得って付けと言える。
そして、今は長姫と面談中だ。
最初は書物の話から入って、天文、地勢、情勢等々、だんだんと付いていけない話になってしまった。
俺も興味が有ったので話を聞いていたのだが、途中からさっぱり分からなくなった。
史記とか、六韜三略の故事なんて覚えてないよ。
その後、話が一段落したら二人は今碁を打ち始めた。
俺は囲碁は詳しくないのだが、長姫が長考しているのを初めて見た。
長姫は小六や又左、それに松と打つ事があるが負けた事は一度もない。
それに長考等したこともない。
相手が打つとノータイムで打つのだ。
俺が将棋で龍千代にやられた事だ。
これをやられるとイライラしてミスする事が多いのだ。
しかし、今はじっくりと考えて打っている。
どうやら半兵衛の実力は高いようだ。
ちなみに俺は寧々と朝日を相手に将棋を指している。
寧々と朝日は弱いので二人同時に相手しても勝てるのだ。
いつか龍千代と再戦する時の為に時間を作って腕を磨いている。
「ふぅ、ありませんわ。負けました」
おお、長姫が初めて負けた!
「ありがとうございました。とてもお強いです」
「それは貴方もですわ。三子を与えましたが必要無かったですわね」
「いえ、三子の置き石がなければとても」
ふむ、謙遜するあたり性格も良さそうだ。
「あ、王手!」
「へ? あ、しまった」
くそ、長姫達に気を取られて朝日に負けてしまった。
「はい、王手です」
「あ! それは……」「待ったは無しですよ。藤吉様」
はぁ、俺も負けてしまった。
今日は日も傾いてしまったので、半兵衛はここに泊まって明日には長島に一旦帰る事になった。
夕げの後に昼間の話で聞けなかった事を聞くことした。
部屋には俺と長姫、半兵衛の三人しかいない。
まずは明智十兵衛の行方だ。
十兵衛は俺を憎んでいた。
生きていたら俺の居る織田家に仕官はしないだろう。
敵に回る可能性が高い。
なるべく行き先を知っておきたい。
そうすれば先々対処がしやすくなるだろう。
出来れば敵にしたくないのだが、あの時会った様子だとそうも行かないだろうな?
そして、俺が知っている事は十兵衛は加納城が落城した後は行方知れずだと言う事だ。
半兵衛は加納城に居たので知っているかもしれないと思って聞いてみた。
「私も知りません」
使えん。
いや、知らない事は知らないよな。
正直で良いじゃないか?
そうか、十兵衛は生きてるのか死んでいるのかは分からないか?
「でも、多分生きてます」
「何故?」
「道三様を城から連れ出した後に行方を眩ましたからです」
うん? 道三を城から……
「生きてんのか!?あの蝮は!!」
あ、思わず大きな声が出てしまった。
「ひゃ!?」
おっと半兵衛を驚かしてしまった。
しかし、『ひゃ』はないだろう『ひゃ』は?
見た目は女の子に見えるが中身は男なんだ。
もっとしっかりしてくれよ。
「蝮が生きてますの。何処に居るのかご存知?」
「はい、知ってます。そもそもここを訪ねるようにと教えてくれたのが道三様です」
は?
まさか俺が衆道だと半兵衛に吹き込んだのは道三か!
「そう、蝮は貴方を使者に出した訳ね」
う、う~ん?
「道三様は、その、あの……」
「なんですの? はっきりお言いなさい!」
弱々しいな半兵衛は。
「は、はい。道三様は藤吉様と知遇を得たら『自分を訪ねるように』と仰いました」
また、あの人に会うのかよ?
いやな予感しかしないぞ。
厄介ごとの匂いしかしない。
「道三は重いのね?」
「は、はい」
重い?
「藤吉。道三に会いましょう。末期の水を取ってあげないと」
末期の水?
「道三の死期が近いのか?」
「……道三様はもはや起き上がれません」
あのじいさんが…… 祖父に似た人が死ぬのか?
半兵衛は長島に流れ着いた時に道三と再会した。
美濃の者が固まっているコミュニティに居たので再会出来たそうだ。
しかし、道三が生きているのは秘密にしている。
下手に行方が分かると武田家か織田家が動くかもしれないからだ。
そうなると一時避難している美濃の者が行き場を無くしてしまう。
それに長島の者達は織田家や武田家と争う理由が無いので、美濃の者達を俺達や武田家に差し出してしまう可能性が高い。
しかし、そのリスクを犯してでも道三は俺に半兵衛を寄越した。
道三は俺と会ってどうしようと言うのだろうか?
はぁ、考えても答えは出ないな?
なら、うだうだ考えるよりも行動有るのみだ!
俺は道三と会う決意を固めた。
「明日、道三に会いに行こう。案内してくれ半兵衛」
「は、はい!」
「わたくしも付いて行きますわ」
「ああ、一緒に行こう」
これが道三と会う最後の機会だ。
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