第2話おむかえ
私が小学一年生ぐらいの頃からだったかな?お父ちゃんは出張だとか、単身赴任の意味がわからないまま家にいないことが多かった。物心ついたときから、父親が家にいない、2〜3週間に一度週末に帰ってくるものだと思っていたし、寂しいとは思わなかった。家にいる間は、父親がベッタリ一緒にいたし、末っ子の私は、とりわけ甘やかされたものだった。
夕方に一度黒電話が鳴る。母親が電話に出るのを走って行って一緒に聞く。
「わかった。6時半に西明石ね」
その後は、3つ年上の姉とソワソワ。タクシーで帰ってくるの?それともバス?その確認をしてから、迎えに行く準備が始まる。
西明石は新幹線が停まる駅。いつもはケンカばかりしている姉とも、この時ばかりは仲良く時計とにらめっこ。だいたいタクシーなら10分くらいで帰ってくるはず。
タクシーで父がいつも降りる場所まで、待ちきれず駆け足で行く。時間までじっとして待っていられない。
夕食の準備をしてる近所のニオイ。
魚が焼けるニオイ、カレーのニオイ…。国道から曲がってくる車一台一台確認する。
タクシーが曲がってきて停車する。ドアが開くとルームランプに照らされる父の横顔を確認すると、姉とタクシーに向かって走り出す。
大きなカバンとケーキの箱。父が帰ってくるのも楽しみだが、幼かった私はおみやげのお菓子やケーキの方が楽しみだったかもしれない。包装紙でどこのケーキなのか、何が入っているのかだいたいわかった。
「お父ちゃん、おかえり!」
右手にケーキの箱を持ち、左手は父の手をつないで、今日の晩ごはんが何だとか、学校で何をしてるとか、話しながら帰ったものです。
あれから40年くらいたったあのお迎えに行った場所はずいぶん変わってしまったけれど、そこを通るたびに、ケーキをつぶさないようにまっすぐ気をつけて持っていたこと。タバコくさい父の温かい手を思い出します。
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