六章 密室 1—3


「じゃあ、あと、ないのは、蘭と大塚、三村もか」


「速水さんの部屋は死体があったわけじゃないから、寝室として使えますよね?」


 さすが、蘭さん。度胸がある。

 となりに変死体……僕なら、寝られない。


「それでいくと、寝室は七つ。惜しいな。あと一つあれば、おれと、かーくんは同室でいいのに」


 蘭さんは言った。


「僕、ヒロくんとなら、同じ部屋で寝てもいい」


 この劇的な心境の変化!


 あれほど深刻なストーカー被害に悩まされ、一度は絶海の孤島で一生、孤独に暮らしたいとまで言ったのに。コペルニクス的転回だ。


 これを言わせたヒロくんは、この快挙を生涯、ほこりに思っていい。


「ねえ、ヒロくん。いいでしょ?」


「僕は……かまいません」


 赤くなって、うつむくヒロくんは、なんか勘違いしてる気もしないでもないが。まあ、蘭さんが、いいと言ってるんだから。


 それで一階におりていった。


 ジャッジルームでサンルームの監視カメラの映像とか見せてもらったが、成果なし。


 そのあと、みんなで食堂へ移る。時刻は午前四時。


 今日は朝からゲームに殺人、館内大捜索。さすがに限界。


 セルフの飲み物を口にしながら、僕は、ぼやいた。


「小腹へっちゃったねえ。夕食たべてから、八時間たってるよ」


「かーくん、さきイカ持ってたろ」


 あ、持ってました。


「おれのとこにも、つまみ、残ってたな」


「僕、チョコレート持ってますよ」


 馬淵さんや湯水くんも言うので、それらを持ちより、エネルギー補給する。


 食べながら、淀川くんが、つぶやいた。


「これで、終わったんだよな? 速水が柳田、殺して、アキト殺して、自殺したんなら……」


 ドラゴンメイクのせいで表情はわからない。けど、赤い髪も元気を失って、しおたれちゃってる。


「柳田さんも、速水くんなんだろうか?」


 赤城さんの問いに、明確に答えられる者はいない。


 猛が考えに沈みながら、話しだす。


「そもそも、おかしくないか? おれたちは主催者のじいさんの都合で集められたメンバーだ。速水がやったにしろ、そうでないにしろだ。たまたま集められた十二人のなかに、そう何人も殺してやりたいほど憎い人間がいるだろうか?」


 ん? たしかに、変かもね。


「ええと……じつは殺人が趣味で、誰でもいいから殺したかった、とか?」


 僕の言葉は、猛に一笑に付された。


「いや、それより、もっと合理的な考えがある。ここにいるメンバーが、まんざら、まったくの赤の他人じゃないとしたら?」


 猛はポケットから、赤いカードをとりだす。


「おれに届いた指令書だよ」


 そこには、こう書かれている。


『あなたは探偵です。更科優衣を殺した犯人を見つけてください』


 何人かは、はっきりと驚がくの声をあげた。


「さっちんや!」

「更科さんじゃないですか……」

「まあ、聞いてくれ」


 彼らを猛が静める。


 それにしても、兄ちゃん。弟の僕にまで、だまってるなんて、ずるい。


「蘭と話して確信を持った。ここはアントリオン型舞台なんだ。メンバーは全員、更科の知人で、そのなかに更科を殺した犯人がいる。じいさんは復讐のために、おれたちを集めた。恩人の孫とかいうのは作り話だ。ただし、おれだけは役目が違ってるらしい」


 兄ちゃんは、かっこよく名乗りをあげる。


「あらためて自己紹介するよ。東堂猛。職業は私立探偵。そして、こっちのが弟の薫だ」


 えッ? 兄ちゃん?


 ああ……みんなの視線が痛い。


「すまん。薫。参加費はあきらめよう。これから、みんなの話を聞こうってときに、こっちも、それくらいの誠意は見せないとな」


「あああ……」


「川西は、ほんとに、おれの高校のクラスメートで、変な手紙をもらったんで、相談に来た。


 それで弟を代役に立てて、やってきたってわけだ」


 なんか、みんなは、おどろくことが多すぎて、すでに無反応になってる。


「……すみません。東堂薫です。もう、なんにもウソついてることないです。ほんと」


 頭をさげると、三村くんが言った。


「まあ、なんとなく気づいとったけどな。ただの友だちにしちゃ、仲よすぎやろ。兄弟でもキモイぐらいや」


「まあ、できてるのかな、とは思ってましたよね」


 ヒロくんまで……。


「できてません! ただのわけありの兄弟です」


「ただのわけありって。なんや、それ」


 猛はマジメな顔で、話を本筋に戻した。


「おれをのぞく全員が、更科の知り合いだとしたら、まるきり話は違ってくるんだ。

 ここにいるメンバーのなかには、更科と特別に親しくしてた男がいるかもしれない。もしそうなら、更科を殺された復讐をしてまわってるーー

 それなら、なんの不思議もないだろ?」


 な、なるほど……。


「僕は川西さんの代理だから、川西さんが、更科さんって人の知り合いなのか」


「そうなるな」と、猛が、うなずく。


「……でも、僕は、更科さんとはバイトで一ヶ月、いっしょだっただけですよ」


 大塚くんが、まっさきに告げた。


「大塚は、おれたちより一人だけ年齢が少し若い。更科との接触も、そのぶん薄かったはずだ」


 猛は大塚くんを肯定して、続ける。


「それでだ。みんなに、話してもらいたい。更科のこと。みんなの話をつなぎあわせれば、更科が生前、どんな人間で、どんな生きかたをしてたか、見えてくる。どんな死にかたをしたかも。今度の事件をとくカギは、そこに隠されてると思う」

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