四章 殺人ゲーム 三幕 2—3

 *



 地下倉庫へ向かう途中、速水は考えた。


(変なメンバーと、いっしょになっちゃったな)


 九重蘭は、たしかにウルトラスーパーが百個もつきそうな美青年だ。でも、平気で他人にスタンガンをふるう危険人物だ。


 三村はとにかく外見が怖い。和柄のアロハシャツにスポーツ刈りは、やっぱり、どう見てもチンピラだ。


 一番まともに見える大塚でも、さっきから、ずっとスマホを天にかざして、UFOを呼ぼうとしてる宇宙人みたいだ。


「大塚さん。何してるんですか?」


 蘭がたずねると、美少年は照れ笑いした。


「もしかしたら、どっかに電波の通じる場所があるんじゃないかと思って、昨日からずっと探してるんです。うちに電話かけたくて。親が心配してるだろうし」

「ここに来ることは告げてきたんでしょう?」


 大塚は、ため息をついた。


「それが……友達と旅行するって、ウソついてきちゃって。ほんとのこと言ったら、絶対、ゆるしてもらえなかったです」

「君がキレイな男の子だから、心配なんじゃないの?」


 大塚は真っ赤になった。


「九重さんに言われても恥ずかしいだけですよ。そんな、絶世の美女みたいな顔して……」


 それを聞いて、三村が口をはさむ。


「グ………スやな」と、なにやら横文字の名前を言ったあと、なぜか速水の顔を見る。


 速水がだまっていると、三村は残念そうな顔をした。


「あんたは萌え系しか知れへんのか」


 しまった。どうやら、マンガのネタだったらしい。

 あわてて、速水はうなずいた。

 あやうく、オタクの化けの皮が、はがれるところだ。オタクどころか、ほんとはマンガなんて、ろくに読んだこともない。


 この怪しすぎる招待状を受けとったとき、異常者の集まりかもしれないと考えた。

 だから、自己防衛の手段として変装してきたのだ。

 このカッコなら、万人に敬遠されるだろうという考えは思惑どおりだ。


 しかし、時間がなかったとはいえ、マンガ喫茶かネットカフェでも言って、もう少し勉強しておくべきだった。

 いつバレるかと、ひやひやだ。

 役作りは、しっかりしなければ。


 幸い、手先が器用なので、カンタンなイラストくらいは描ける。


 まあ、オタクでないと知れたところで、詐欺っぽい話だったから用心したと、ほんとのことを言えばすむだけのことだが。


 そんなことを考えているうちに、一同はエレベーターに乗りこみ、地下へおりた。


 蘭と大塚の会話は続いている。


「でも、いいことばかりじゃないですよ。むしろ、イヤなことのほうが多い。君や、かーくんなら、少しは僕の気持ち、わかってくれるんじゃないかな」


「たぶん。昔はよく女の子みたいだって、イジメられました。まあ、モテないやつの、やっかみなんですけどね」


「わかる。わかる。親友から、いきなり『ずっと好きだったんだ』とか言われると、ひくよね。どうして受け入れられると思うんだか、理解の識閾しきいきをこえている」


「ああ、僕は親友じゃないけど、男から告白されたことはある。電車に乗ると、チカンにあうし」


「痴女もいるよね」


「います。います。この人、痴女ですとか言っても、混んでるから当たったんじゃないかとか言って泣かれると、こっちが悪者に……」


「女は生きてるだけで罪だよね」


「ですよね。あんだけ、さわりまくっといて、当たっただけもないだろうって思いますよ。嬉しいなあ。理解者がいるとは思わなかった。あの……同志、ですよね。おれたち」


「同志だね。大塚くん。下の名前は?」

「ひろみです。大きな海って書いて、大海」


「君も女名かあ。僕より字面は男っぽいけど。じゃあ、ヒロくんだね」

「蘭さんって呼んでもいいですか?」

「もちろんだよ。同志だからね」


 がっちり握手をかわしている。

 それを見て、三村がバカウケした。


「屈折しとる! おまえら、いびつや」

「残念ながら、三村さんは同志とは言えません」

「ええわ。そないケッタイなモテかた、しとうない」


 言ってから、三村は急に、蘭をふりかえった。


「……すまん。言いすぎた」

「なんで謝るんです? 正論ですよ」

「うん、まあ、元気だしぃや。自分」


 ぽんと蘭の肩をたたいて、三村はさきに物置に入っていった。

 何が元気だせなのか、わからないが、蘭の表情は不愉快げだ。


「あのぉ……入らないんですか?」


 速水が聞くと、蘭は手で示しながら言った。


「どうぞ。おさきに」


 言われるままに、速水は蘭の前に立った。


 背を向けた瞬間だ。

 速水の全身に電流が流れた。

 薄れゆく意識のなか、身をよじると、蘭が笑っていた。

 その手に、スタンガンを持って……。

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