二章 殺人ゲーム 一幕 2—4
*
柳田はベッドにすわりこむと安堵のため息をついた。
ばれなかった。よかった。
どうにか、このゲームにもぐりこむことができた。
ゲームの趣旨が花むこ選びだとわかったときには狼狽したが。
こんなこともあろうかと、屋敷に入る前に、結婚指輪をはずしておいて正解だった。離婚調停が成立するには、まだしばらくかかる。
こんなことを他人に知られてはいけない。
せっかく大金をかせぐチャンスなのに。
(まあ、今さら金をかせいだところで、後の祭りってやつだけどな)
二十歳のときに学生結婚した。相手も同じ演劇サークルの会員だった美津穂。
あのころは、おたがい夢に燃えていた。いつか同じ舞台で主役とヒロインを演じようと、語りあった。
結婚後数年のうちには、美津穂のほうは別の夢を思うようになっていたのだが。舞台とか夢とか、自分の劇団とか、そんなものは、女は子どもができると、どうだってよくなるのだ。
(そりゃ、おれだって、
これまで自分は夢ばかり追いかけて、決して、いい夫でも、いい父親でもなかった。せめて、母子二人で旅立つとき、父として最後にまとまった金を渡してやりたい。
本音を言えば、借金だらけの現状を、このゲームの賞金で清算したい。
そうすれば、美津穂も離婚を思いなおしてくれるんじゃないかと期待しないではない。
でも、そうなれば、きっとまた自分は、これまでと同じあやまちをくりかえすだろう。劇団が、公演が、売り込みが、けいこがと夢に明け暮れ、家庭をかえりみなくなる。やっぱり、別れるのが一番いいのだ。
「あなたは、夢とわたしたち、どっちをとるの?」
そう言われて、夢をとる道をえらんだ自分なのだから……。
(だってな。美津穂。やっと、ここまで来たんだよ。けっこう最近は雑誌の取材なんかも来て、コアなファンもついて……あと一歩なんだ)
学生のころはよかったな。二人が同じ夢を見て、同じ未来を語ることができた。
あの夢をおまえと語ったからこそ、今さら捨てられないんだと、理解はしてもらえなかったが……。
学生時代を回想していた柳田は、ふと思いだした。
あのころの自分たちを
(あのときの、あいつだよな? 変なカッコしてるが……)
一時期、柳田の劇団にいた彼ら。芸能プロと契約して、テレビドラマの出演も決まったという話を聞いた。なぜ、今ごろ、こんなところにいるのだろう。
いや、そんなこと言ってる場合じゃない。あれが彼なら、柳田が既婚者であることを知っている。事情を話して、だまっておいてもらわなければ。
柳田は枕もとの電話に手を伸ばした。どうやら内線電話のようだ。
(ええと、彼の部屋は何番だったかな?)
柳田は見取り図を見て、番号を押した……。
*
Aのモノローグ
やはり、思ったとおりだ。
こんなウマイ話が舞い込んできたとき、裏で意図する暗い影を感じた。
彼女が、あんなみじめな死にざまをさらしたときから、これで終わるわけがない気がしていた。むしろ、終わらないことを自分が願ったのかもしれない。彼女を殺した、自分だからこそ。
そして、今、自分の思ったとおりになっている。
集まったゲストたち。
紗羅絵。
野溝名緒子。
おぼえのある連中ばかりだ。
(紗羅絵は、おれの顔を知ってる。マズイぞ。正体がバレただろうか?)
まあいい。
とにかく、この状況は使える。
あの二人はおれを見つけだして、復讐をとげるつもりなのかもしれない。
だが、それなら、こっちは、それを利用してやるまでさ……。
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