一章 怪しすぎる招待状 3—2
さて、ついに、野溝さんによる説明だ。
「まず、ここに十二人のゲストがいることから、お話いたします」
だよね。恩人、何人いるんだって感じ。
「岸画伯が若いころ、苦境のさなか、洋行の費用をくださったかたがありました。成功された画伯はこのかたにお礼をしたいと考えたのです。が、このかたは画伯に素性を語りませんでした。
画伯は興信所に依頼して、そのかたをさがしてきました。ですが、あまりにも昔のことなので、詳細がつかめません。ここにいる、あなたがたのなかの誰かのおじいさまである、というところまでは、しぼりこめたのですが……」
それで、一ダースの恩人ですか。
「つまり、ここで、われわれに祖父の思い出話でもさせようというんですか?」
赤城さんの発言に、野溝さんは首をふった。
「それでは財産目当てにウソをつかれても、こちらは真偽がわかりませんから」
そりゃそうだ。
「画伯は、もっと平等に恩返ししたいと、お考えです」
目をかがやかせたのは、柳田座長だ。
「じゃあ、われわれ全員に、均等に財産分与されるんですか?」
もとが三十億だもんね。一人頭でも二億以上だ。
ところが、野溝さんは、これにも首をふった。
「いえ、画伯は恩人の血筋に全財産をついでもらいたいのです。紗羅絵さんの将来もあります」
ありますよね。
全財産、他人にゆずっちゃったら、そのあと、どうするのか。
「そこで、みなさんに、あるゲームをしてもらいます。最後に勝ちぬいた一人のかたを、恩人の孫と決定します。画伯がそう信じることに決められたので、真偽のほどは、このさい関係ありません」
むちゃくちゃな……。
しかし、次に野溝さんの言ったのは、もっとムチャクチャな内容だった。
「勝者には、紗羅絵さんと結婚してもらいます」
キター! 結婚!
(ちょ……ちょっと待ってよ。いくらなんでも、それは急すぎる)
血の気がひいたのは、僕だけではないようだ。
一同のどよめきは、そういうことだ。
結婚……そりゃ、三十億の資産に、この豪邸がついてくるなら、結婚くらいしてもいい、という人も、世の中にはいるだろう。
奥さんになるのは、あんな美人だしね。
でも、いかに美人でも、紗羅絵さんとは会ったばっかりだし、お金持ちのお嬢様なら、たぶんワガママなんだろうし……。
気の弱い僕には婿養子は、さけたい事態だ。
第一、僕、替玉だもんね。
「あの……その結婚は、絶対ですか?」
僕は怖々、聞いてみた。
野溝さんの目が冷たく僕を見る。
ううっ。なんか、嫌われてるのかな?
「もちろん、絶対です。勝者が結婚して財産を継いでくだされば、紗羅絵さんの将来も保証されますし」
三村くんが笑いだした。
「なんや。逆玉の集団見合いかいな。こんなウマイ話、あるわけない思うたわ」
だよね。
「第一、お嬢様に選ばしたら、誰がなるんかは決まっとるやないか」
「九重くんは男装の麗人かと思うほどの美青年だ。九重くんが選ばれるのは明らかだ」と、柳田座長。
柳田さんは舞台関係者だから、手ぶりが大きいなぁ。それにしても、あの手の指輪のあとは?
「みなさま、勘違いなさっておいでですね。配偶者を選ぶのは、紗羅絵さんでも画伯でもありません。あくまでゲームの勝者です」
ああ、ゲームね。
「招待状に書いてあったやつ?」
アキトが髪をかきあげながら言う。よほどナルシストらしく、なんか言うたびに決めポーズとってる。
「ゲームのルールは、これから説明します」
「ちょっと待ってくれ。でも、それじゃ、負けた十一人はどうなるんだ? 僕なんか、仕事の予定を変更して来たのに」
またもや、座長。
もしかしたら、柳田さんはお金に困ってるのかも。
「参加費をみなさまに五百万、用意しております。さらにゲームの過程で、勝者以外にも賞金が手に入る仕組みにしました」
おおっ! 五百万! うちの食費の何年ぶんだ?
それなら、参加だけして、すぐ負けちゃうってのも、手かな。
野溝さんは続ける。
「賞金は最高、一億二千万。それとは別に、勝敗とは無関係に、個別のミッションが下されます。ミッション指令書の条件をみたし、クリアしたかたには、特別報酬二千万をさしあげます」
に、二千万! うちの食費の……ダメだ。想像つかない。
「ミッションは遂行しなくても、ペナルティはありません。遂行するかどうかは自由です」
二千万なんだから、それは、するでしょう。けど、そもそもゲームのルールじたいがわからない。
「もし不都合があって、紗羅絵さんと結婚できないというかたは、本日中におっしゃってください。こちらの手配したタクシーで、お帰りいただきます」
厳しいなぁ。結婚する気のない男には参加資格さえないのか。
参加費……五百万。
やっぱり、負け狙いかな?
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