第52話 ロリコンの末路

 次の日、俺は莉櫻を家へ招いた。今まで、家へ呼んだことは一度もなかったがこの2人は俺の手だけでは持たないと感じ、地図と家の外見を送りつけてやった。……2人の寝顔付きで。

 昨日は何とか正常に戻った俺が、2階から大声で叫び、何事もなかったかのように夕食をとり、風呂に入って寝た。2人のベッドは何故か俺のベッドになっており、俺は仕方がなくソファで一夜を過ごした。


「それで?この子たちのどこが悪魔だって?」


「……平気なのか。そうなのか」


 瑠璃にパンチを食らいながら平然と答える莉櫻。


「お兄さんこの人は?」


 茜は俺と莉櫻との間に座り、取り仕切る保護者のようなポジションであった。

 瑠璃は人見知りが無く、やんちゃであるが、茜は人見知りが激しいようだ。時折、俺を見てくるときの表情が助けを求めているように見える。


「俺は鶴田莉櫻。潤平の友達だ」


「ボクは松平瑠璃!よろしくね。莉櫻兄ちゃん」


 瑠璃は強烈なパンチを莉櫻めがけて放った。


「り、莉櫻兄ちゃん?!しかも“ボクっ娘”?!俺は死ぬのだろうか」


 全く効いていないらしい。


「……めでたいな。お前の頭は」


「え?!どうして?」


 瑠璃が振り返りながら俺に訊ねてくる。その時、ツインテールにしていた髪がべしべしっと莉櫻の顔をビンタした。


「あっ。いい匂いがした」


 最早変態だ。こいつらにどのような感情を持てばそのように欲情できるのか、俺にはさっぱり分からない。

 確かに俺はこいつら血縁者であるから、そんな欲情なんてしないのかもしれない。ひいき目で見なくとも2人の顔はよく整っている方だと思うし、ロリコンである莉櫻は何かしらの琴線が刺激されているのだと思う事にしよう。


「……瑠璃、可愛いと褒められているぞ」


「え?!本当?!」


「私は気持ちが悪いと思ってしまいました」


「……お前は間違ってない。俺もだから安心しろ」


 茜はぷいっと俺とは反対方向に顔を向けてしまった。


「あ、茜はボクだけが褒められてヤキモチ焼いてるんでしょ」


「ち、違います!!本気で心の底から思っていることを言っただけです」


 莉櫻。人格否定されるレベルで嫌われる。


「……言われとるぞ」


「少女って可愛いよね。本当にさ」


「……末期め」


 茜とは反対に瑠璃はすっかり莉櫻に気を許し、胡坐を組んだ彼の中にちょこんと座りこんだ。


「わーお。俺は今日死ぬ運命なのだろうか」


「莉櫻兄ちゃん」


「ごめんね。もう一回言って」


「莉櫻兄ちゃん!」


「もう一回……ぐへっ」


「絶対聞こえてるし」


 瑠璃はみぞおちに一発、お見舞いしてやったらしい。確かに少し、調子に乗りすぎだ。いくら可愛いといっていても、すべての行動が自分の思い通りに動いてくれるわけではない。彼らだって人間なのだ。何度だって言わされれば腹も立つし、手が出る。


「いてて……さっきのは少し効いたな」


「……お前、真鐘は大丈夫なのか?」


 そう。こんなロリコン変態な奴でも彼女持ち。俺は好き勝手に欲望のまま行動しているロリコンにお灸をすえてやろうと仕掛けてみた。


「お兄さん。真鐘というのは誰ですか?」


「……こいつの彼女だ」


 恋愛話は大好物なようですぐに喰い付いてきた。


「彼女?!この変……な人がですか?」


 うん。その間、俺には分かるぞ。『変態』と言おうとしたんだろ?


「……あぁ。何故かOK貰えたんだよな」


「その話はもういいじゃないか」


「もっと聞きたいです」


「ボクも気になるかな。莉櫻兄ちゃん」


 瑠璃は学習した。“このロリコン。自分の任意で動かせる”と。正確には小学5年生の考えることなのでもう少しふわっとしたあやふやなものかもしれないが、大方間違いではないことを名前呼びが語っていた。


「……昼から恋愛話かよ。まぁいいけど」


 俺にこの状況を止める気は全くなかった。それよりも、莉櫻が自分の恋愛をどんなふうに語るのかが気になっていた。


「その方の本名は?」


「真鐘麗律。優しい子だよ」


 なんだその最後の一言。簡潔にまとめ過ぎ。


「その人との出会いは?」


「教室で毎日話してくれてさ―――」


 そして莉櫻は語り始めた。真鐘との出会いや、真鐘がもしかしたら、と思っていたこと。互いに本音を隠して話していたこと。そして月日だけが流れて何も言いだせない自分に嫌気がさしていたことーー。

 俺は自分の恋愛話を話すときに、恰好をつけようと見栄を張ったり、物語として華美に話したりするものだと思っていた。

 しかし、莉櫻は違った。ただ事実を莉櫻から見た感想や思いも織り交ぜながら話していく。


「―――それで、俺と麗律は付き合うことになった」


 かれこれ2時間程経っただろうか。ずっと莉櫻は離し続けた。しかし誰も寝ることは無く、じっくりと耳を傾けて話に入っていた。


「いい話ですね。私、泣いてしまいそうです」


「ボクは1つだけ訊きたいことがあるんだけど…」


「なんだい?瑠璃ちゃん」


「どうして莉櫻兄ちゃんは急に告白しようと思ったのかな?」


「それは俺にも分からないんだ。麗律が言いそうっていう予感がしていたからかもしれないし、遊園地っていう場の雰囲気がそうさせたのかも」


 全ての事を知っている俺からすれば非常にむず痒い気分だ。だが、今まで真鐘からしか知らなかったので新たな発見があったのは少しにやけてしまう。


「あ~あ。ボクも恋がしてみたいよ」


「わ、私も!恋。してみたいです……」


「できるよ。2人なら。可愛いんだし」


 たら~。と冷や汗が。


「……そうだな」


「お兄さんは無いんですか?」


「……え?何が?」


「それは逃げられないぞ。潤平。恋バナだよ」


 ですよね~。俺は莉櫻のように話せない。どちらかというと隠し通りたい。さて、どうするか……。

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