第44話 埋め立て工事
「んっ!はい飲んだ。あとは潤平君に上げる」
はい?まさかの俺にもやれと、そういっているのですか?美玖さん。
「今度は潤平か」
「ほらほら、グイッと行けって」
くそ野次馬共メッ!こっちを向くな。何故、美玖の時は後ろを向き、俺の時はヤジが飛んでくるのだろうか。男だからだろうか。そうか。そうなのか。ひとまず納得しておく。
今、俺の手元にあるジュースは「元」を正せば俺が飲んだものだ。なのであいだに美玖が入っても問題は………あるよ!普通に間接キスではないか。
しかも三隈で俺をじっと見つめている。これは飲む位置をずらすことは出来ないな。
「潤平君、頑張って」
いつも以上に説得力がありますね。
俺はあまりそういう事は考えないようにしてジュースを飲もうと決めた。
しかし、他の観光客や遊園地でのぜっ曲までもが俺に対するヤジに聞こえてしまう。
「……そんなにか」
独り呟く。俺に対するものだったかもしれないし、周りに対するものだったかもしれない。
「軽く行けって。気にし過ぎだぞ」
「……うるせぇ」
恥ずかしそうな素振り1つ見せなかった莉櫻が言うな。俺は切り替えてやろうとしていたのに。
俺が睨むと真鐘が察してらしく莉櫻に小声で何かを言った。その時の莉櫻の顔は真っ青になっていたため、きっと生命の危機に直面させられているのだろう。
「……頂きます」
一度飲んだものだが、新品と仮定するために言った。……もしかすると美玖も同じことを考えたのかもしれない。
俺は残りのジュースを一気に飲み込んだ。顔が熱くなっているのが分かった。
「私ゴミを捨ててくるね」
美玖は俺の手からジュースをとると足早に去って行ってしまった。その時、耳が赤かったのは気のせいだろうか。
「あれは、嬉しいけど恥ずかしいってやつだな」
「……そうなのか?」
美玖が俺の事を意識してくれているというのを知ると少し嬉しくなった。
「麗律は?」
「……美玖程じゃないが……それなりに恥ずかしい」
「……乙女麗律が出たな」
「本当だ!乙女麗律だ!」
「うるさい莉櫻!お前今からあれやるぞ!いいのか?」
莉櫻が「アレ」と訊いて冷や汗を流し始めた。その間は誰も話さなかったため、波が打ちあがる音がより鮮明に聞こえてくる。
「助けて潤平!」
開口早々俺に助けを求めてきた。しかし俺は無条件で助ける人のいい人間ではないし。、そもそも何をされるかさえ知らない。
男のシンボルを捥がれるならばそれなりに助けてやってもいいが、それ位牌なら死ぬことは無いし、彼氏、彼女の間柄だ。じゃれ合いの線引きぐらいしているだろう。
「……アレってなんだ?」
「莉櫻を砂浜に首から下、全てを産めてしまう事だ」
何だ。普通ではないか。莉櫻がビビッている意味が解らない。
「……大人しく裁きを受けろ」
「ま、待て!このままだと俺のメンタルがやられてしまう!」
「……メンタル?」
「たかが砂の胸につけるだけで何がメンタルだよ」
砂の胸?メンタル?何のことだ?
俺の頭はパンク寸前で今にも爆発してしまいそうだった。
「俺は男だよ?」
「なら、立派なものにしてやろ~か?」
余程、ご立腹らしい。俺が最初に言ったような気がしたが、気がしただけのようだ。……助かるならそちらの方を選ぶ。
「……莉櫻の身体を砂で表現しようと?」
「そ。自分って美術が今まで「5」だったしな」
いや、知らん。
「とっておきの絵を描いてやる」
真鐘は先程の怒りも忘れてやる気で満ち溢れていた。真鐘は手で砂をかき分けて、莉櫻が埋まるスペースを作っている。
「……手伝うか?」
「自分の首を絞めているみたいなんだけど……諦めるしかないかな」
こういうところが莉櫻の優しさなのだ。自らに負があることが分かっていてもそれが俺なら、友達なら、真鐘なら迷わずに来てくれる。
「……Mなのか?」
「言われたこと無いけど……俺的には普通だと思っているよ」
「口より手を動かせろよな」
話しながらだとしても1人で行う予定のものを3人で行ったため、手早く終わらせることが出来た。
「さぁ!楽しいゲームの始まりだ」
「……キャラ変わってるぞ」
俺の言葉に反応することは無く、真鐘は莉櫻に近付いていく。
我がテントからはだいぶ離れている遠い場所なので連れだと思われることは無いはずだ、と思った俺はテントへと戻った。
最後にちらっと見えた時に莉櫻の胸部を仕上げているように見えた。……少し楽しみだ。
暫くポテトを食べていると駆け足で美玖が戻ってきた。息が上がっており、綺麗な団子が少し乱れてしまっていた。
「……そんなに急いで大丈夫か?」
「少し走っただけだから大丈夫だよ」
美玖は俺を安心させようと軽く笑った。
「麗律と莉櫻君は?」
「……えっと。お仕置き中」
これでは意味が解らないよな…。
「あぁ、成程」
分かったの?!
これがコミュ力が高いという事なのかもしれない。
「じゃあ、今は2人だね」
美玖が今度は心から嬉しそうに笑う。この言葉と笑顔に対して、俺は寝起きに冷水をかけられたように頭がぎゅっと固まり、何も考えられなくなった。
「……あぁ」
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