第43話 見事な墓穴
俺はただ静かに驚いていた。美玖が………その………間接キス、ラッキーと思っていたのもあるが、もう1つ。
「もうっ!言わないでよ!!」
「やり返しだぜ」
「潤平は愛され過ぎじゃない?」
顔を極限まで真っ赤にしている美玖をはじめ、俺が気付いたことには誰も気付かないようだ。いや、正確に言えば俺と美玖は知ってい弄られている。
「……2人で1本だろ?」
「そうだよ!麗律達もだから」
美玖の一言で真鐘の血の気がすぅーっと引いていくのが分かった。莉櫻は笑顔のまま、ピクリとも動かない。……たぶん固まってますね。
「ま、待て待て待て。え?」
「……だから、俺達がやるという事はお前達もやるという事だ」
「無理、ムリ無理ムリ無理!!莉櫻と?!2人で?!一本?!ふぁー」
壊れてしまった。あとで電源を切ってこっそり山に捨ててしまおうか…。
美玖は途端に優位になる。
「俺達は日が浅いから。いいかな今回は」
硬直が解けた莉櫻が何とか回避しようと弁明する。……あれ?2対1というやつかな?それは不公平だよ新カップル組。
「……莉櫻、俺と勝負してたんじゃなかったのか?」
ピクリと反応する莉櫻。勝負とは水泳の事ではなく、遊園地で交わした時のものである。
「どうしてもかい?」
「……無理強いをするつもりはないよな?」
「うん。別に買って来てもいいよ」
「……だが、そんなに嫌なの?と見える」
「莉櫻君!!漢の見せ所だよ」
真鐘は壊れているため2人がかりで莉櫻を攻略する。え?不公平?そんなものは知らない。
「分かった」
「莉櫻?!」
莉櫻は美玖が待っているジュースとポテトを交換した。真鐘は変な声を上げ、パニック状態になっている。
……と、ここまで他人の事ばかりを見ていたが俺自身の事でもあるんだよな、これ。
「……ラッキーなのか」
「そうだけど違うの!そこだけを抜粋しちゃダメ」
「……何か平気そうだな」
俺はバクバクなっている心臓を必死に押さえつけながら訊く。
美玖は恥ずかしそうにえへっと笑うと真鐘に眼を向けた。
「麗律見てると大丈夫になったよ」
自分よりパニックになっている人を見ると逆に冷静になる、というやつだ。……まぁ分からなくもない。
「……先飲むか?」
最初は間接ではない。そのことを想った俺は美玖に飲むように勧めてみた。
「いいよ。先飲んで。私はトウモロコシがあるし」
美玖の手にはトウモロコシとポテトが握られている。そんな中でジュースとは無理な話だった。
「……じゃぁ、遠慮なく」
一口飲む。ジュースは炭酸飲料で甘かった。コーヒーのような苦い飲料を好む俺には甘すぎる感じもしないでもなかったが、美玖が買って来てくれたので美味しく頂く。俺は既にトウモロコシは食べ終えていたので持参したごみ袋に残りかすを入れておいた。
「それ、使ってもいいかい?」
「……捨てる物が一緒だからな。自由に使ってくれ」
莉櫻の食べていたトウモロコシも無残な形でごみ袋に盛大なダイブを決めた。
「早いな、お前ら」
「来る前から食べていたからね」
「……それと男だから」
性別を理由にすると異性の場合は大体、「なるほど」と思わせることが出来る。
現に真鐘は納得したらしく、トウモロコシと格闘中であった。
「潤平君、ポテトいる?」
「……おう、あと、はい。ジュース」
ポテトを食べさせてくれるのかと一瞬だけ期待した俺だったが、現実は甘くは無かった。あと想像で考えてしまったことに恥ずかしさが込み上げてきた。
「もしかして期待してた?」
「……何を?」
「え?……あ~ん、とか?」
少しの間の後美玖はバッチリ俺の思考を読んだ。エスパーかな?俺がまだ美玖の感情や考えていることを読もうとしてもわからないのに。
「……そ、そんなことは考えてない」
逆パターン!俺がツンデレキャラやってどうする!!
ニヤッと笑っていた美玖がふとジュースに眼を落した。そして、瞬間的に真っ赤に染まる。
「あ、ジュース。……か、か、かか間接」
「美玖ちゃん顔真っ赤だけど大丈夫?」
莉櫻がたまらず声を掛けた。俺は何もしていませんよ。
「ほらっ!あとは全部飲め!いいな莉櫻」
「うん?うん。分かった。それより美玖ちゃんが」
「美玖?松平ぁぁぁ!!」
「……俺じゃない。美玖がジュースに顔を……」
「細かく言わなくていいの!」
怒涛の会話で美玖の羞恥は限界にきている。しかしこれで終わるほど、俺達は優しくは無かった。
「……飲んだのか?莉櫻」
「これからだよ。どうしてだい?」
「…美玖と犠牲になれ」
「言い方。お前、時々容赦ないよな」
莉櫻は俺と真鐘が話していると一気にジュースを煽った。やりやがったぜ。
「さて美玖?女を見せる時だぞ?」
真鐘の笑顔が怖い。こいつ女じゃない説あるな。
「何だ松平?」
ひぃぃぃっ!!何でもないですよ。乙女な真鐘さん。
「なんでみんな見てるのっ?!そんなにじろじろ見ないでよ」
真鐘はともかくとして俺と莉櫻は水着姿でそんなことを言われては非常に困る。犯罪者扱いされちゃうからっ!
「んじゃ、自分と莉櫻は後ろ向いてるから」
「できたら潤平君が一番見て欲しくない」
ええっ……結構ショックなのですが……。しかし、幸いにも美玖の要望に真鐘が答えることは無く俺だけが美玖を見ていた。
「い、いただきます」
美玖の唇と、ジュースのコップがだんだんと近づいていく。そして予想等着地点はあろうことか俺が口をつけたところだった。
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