第33話 誕生日プレゼント

 風紀委員には俺名義で莉櫻がすることになった。大丈夫か?と思ったが校則違反にはなっていないらしい。そうなると俺には「よろしく莉櫻!」としか言えない。

 東野先輩と莉櫻は会長と風紀委員のところに行った。どうやら挨拶するらしい。会長がその時にふーっと深く呼吸していたことを考えると風紀委員は人員が無くて大変なのだろう。

 そして俺は自教室へと戻っていた。特に意味は無い。ただまだ何となく帰りたくなかった……というのは建前で、誕生日プレゼントにわくわくしていたのだ。


「あ、潤平君。お疲れ様」


 誰もいないと半ば諦めていたのだが、そこには女神が降臨していた。


「……何でここに?」


 俺と美玖のクラスは違う。ここは俺の教室の方だから美玖の教室ではないはずなのだが……。


「なんでって。誕生日プレゼント?」


 う~ん、と頭を悩ませている美玖はそれはもう可愛かった。


「……待って貰ってごめんな」


「いいよ。前までは待って貰ってたんだし」


 前、正確には再起部に入部させられる以前の事だ。生徒会で遅い美玖を待っていた。だが最近は主に俺の忙しさが激しいため、一緒に帰れていない。


「はい。お誕生日、おめでとう」


「……あ、ありがとう」


 プレゼントは綺麗に包まれているため、中身を見ることが出来ない。が、俺はそれよりも学校でもらったことにびっくりした。

 てっきり、今日は一緒に下校して家の前で渡してくると思っていたのに。予想が外れた。

 手に持って帰ろうとしたが美玖に止められた。


「は、恥ずかしいから。家で見て、家で」


 らしい。俺は開けようと思って持って帰ろうとしたわけではなく、乱雑なカバンに入れるよりも大事に持ち帰りたかっただけなのだが。


「……今日は何かあるのか?」


 十中八九無いだろうと思いながらも尋ねずにはいられない。美玖は少し考えた後、笑顔で首を横に振った。


「ん~ん。無いよ」


「……なら帰るか」


「うん。あ、ちょっと待って。麗律との話が少しだけあるんだけど」


 先客がいるらしい。それも真鐘とは驚いた。俺がダメなどという訳もなく、美玖の頼み事は叶う。


「……どこで会う?」


「ここに来るはずなんだけど……あ、来た」


 美玖の視線の先には真鐘がいた。真鐘はずかずか教室に入り、俺と美玖の前に立った。


「麗律は委員会に入る気は無い?」


 美玖が早々に真鐘へと話しかけた。俺と真鐘はコミュ障なので助かった。


「なんでそんな面倒くさいもんに入らないといけないんだよ」


「え~嫌?」


 美玖がどこか嬉しそうだ。断られているが最後には絶対やるというはず、見たいなことを思っているような気がする。


「嫌。自分はそんなリア充イベントには出られないから」


「莉櫻君が出てるって言っても?」


 真鐘の動きがピタッと止まった。おぉ…反応したらしいな。莉櫻、愛されている。良かったな。


「それってホント?」


 恐る恐ると言った感じで真鐘が美玖へと問う。この反応を楽しみにしていたらしく笑顔が二マニマ顔に変わっている。……俺もだが。


「ホントホント。潤平君の手伝い人として"体育祭実行委員会”に来てたよ」


「……今は風紀委員だろうけど」


 知らないようなので教えておく。俺の変わりだという事も伝えようか……いや、そんなことをすれば無言で拳が飛んでくるに違いない。


「そうか。風紀委員か」


 誰から見ても落ち込んでいると思われるようにどんよりした表情と脱力した肩。重症である。


「……最近はどうだ?」


 少し気になったので訊いてみる。50%ぐらいは話の転換目的だが。


「特に変わりは無い。いつも通りの自分と莉櫻だ」


 ちらっと美玖を見ると眼が合った。あはは…と苦笑いをしている。どうやら俺達の時と重ねているらしい。


「……真鐘がシールド作っているのでは?」


「うっさい。……もぐぞ」


 声のトーンが二段階下がる真鐘の「もぐぞ」。俺と同性の者ならば効果は抜群である。


「潤平君も麗律も話を逸らさないで。もう」


 美玖のご立腹に俺だけだは無く真鐘まで可愛いと思ってしまったに違いない。


「ご、ごめん」


「……ごめんな」


 しかし、反省は、しっかりしておく。


「それで?麗律は訊いてもまだ嫌って言える?」


 美玖は俺では無く真鐘を見た。そもそも話というのは彼女ら2人のことなので俺に参加権は無いけどな。


「莉櫻が最近、友達間でしか話してこなくてさ。少し不安だった」


「私もそんな時あったよ。ね?潤平君」


「……あー。そんな時もあったかな」


 俺としてはほとんどそんな時だったのだが……。それは俺の心にしまって墓まで持っていこう。


「時間が解決してくれることもあるけど、麗律のやりたいようにすればいいと思うな」


「……莉櫻も真鐘がいたほうが嬉しいんじゃないか?」


「2人共……。美玖、自分に入って欲しい委員って何?」


 やる気というよりも莉櫻と一緒に居たいという気持ちに火がついたようだ。


「……美玖の手伝い人として体育祭実行委員に入る」


「か、もしくは風紀委員に入るか、だね」


 俺の言葉を繋いで美玖がまとめた。少しだけ心が嬉しくなった。

 真鐘は莉櫻が…とぶつぶつ言っていたが、やがて決めたらしく、


「どっちも入る」


 最も厳しい道を選んだようだ。俺は絶対にごめんだが恋の力とはすごいようだ。


「分かった。会長に伝えとくね」


 俺はカップルで風紀委員って大丈夫か?と思ったが俺と美玖以外は知らないだろうし、真鐘も人前でイチャイチャできる人間ではないと思っているので、特に何も言わなかった。


「……しんどいぞ」


 覚悟を問いかける俺の言葉に真鐘は男顔負けの男らしい笑みで返してきた。


「自分だけじゃなくて莉櫻もいるから」

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