第19話 恋愛相談(パート5)
「え?……鶴田?お前ここで何してんの?」
この声色は間違いなく真鐘さんのものだった。しかし、こんな口調だっけ?もっと大人しくて敬語で話していた記憶があるのですが……。
一方であ、自分から話しかけた、とも思っていた。
「真鐘?どうしてここに?」
本人前だと呼び方が変わるのか。真鐘さんの男口調への変化のせいで莉櫻の変化にはさして驚きは無かった。
俺の一番の驚きはここに美玖がいることだ。早急に何とかしなければならない。
「……邪魔になった」
「いや、言い方酷過ぎ。私、何をすればいいんだろ」
「……沖田が来るかもしれない。見張りを頼む」
「うん、わかった」
吉田さんはすくっと立ち上がり、部室を出て行った。小声で隣同士で話していたので他の3人に聞かれた様子は無い。
「ごめんなさい松平君。お邪魔だった?」
うぅ…。人目があるから苗字呼び。胸が痛い。
「……いや、どうぞ好きなところに座ってくれ」
俺が言うと美玖は少し迷った後、吉田さんが座っていた椅子ーー俺の隣ーーに座った。
それが俺を意識しての事なのかそれとも真鐘さんと莉櫻のことを考えてのことかはわからない。が、嬉しいことは確かである。
「随分と仲がよろしいようで」
美玖の顔が若干拗ねているように見える。小声だったはずなのに俺の頭では大音量を大ホールで流しているような大きさに聞こえた。
「……そんなことは無いと思うけど」
そう返すと俺の横腹に若干の痛みが感じられた。恐らく美玖が指で刺したようだ。
「麗律も座ったら?」
刺したまま真鐘さんに問う美玖。止める気は無いらしい。そこまで痛くないのと美玖だから許す。
「真鐘、ここ空いてるよ」
莉櫻は隣の椅子ーー美玖の向かい側ーーを引き、促す。
「わかった。……あ、ありがと」
乙女出てますよ真鐘さん。部屋に居る人が全員着席した。再起部部員が俺だけというのは少しおかしな気もするが吉田さんを追い出したのは俺であるために何も言えない。
「……それでどうしましたか?」
「ふふっ」
仕事モードの口調を笑ったのは隣に座る美玖だった。
「普通に話せばいいのに。この感じなら麗律も同じ感じでしょ」
図星です。お互いに敬語で話してました。美玖は俺と2人きりの時とは異なり、よく話していた。これが友達と話しているときの美玖だと思うと少し嬉しくなった。横腹にはまだ刺されたままだが。
「そうだよ。普通に話せばいいんじゃない?」
「鶴田。口出ししてくるな」
「まぁまぁ。それで麗律、どうするの?」
「それなら美玖もいつも通りの呼び方で呼ばないとな」
え……?何で知ってるの?横腹が。……無意識なのか強くなっている。
「なら、私が呼んだらそうするの?」
「まぁ……名呼びぐらいなら頑張る」
真鐘さんはコミュ障なのかそうではないのかわからない。
美玖はふーっと深呼吸をした。俺まで緊張してきたぞ。
「…潤平君」
人前で、美玖が、下の名前を呼んでいる。夢か?俺はパンクして行動不能になった。
「どういう事?」
「知らないのか?こいつら付き合ってんの」
「本当かい?潤平?」
「……うん?あーうん」
正直何を言っているのかわからないけど……何か2人が話しているからいいや。
「あー松平?嬉しそうにしているところ悪いんだが……自分も普通の口調で喋らせてもらうぞ」
しまった。俺は嬉しそうな顔をしていたのか。だが緩む、緩んでしまうのだ。
「……分かった。真鐘さ……真鐘」
このような会話は随分と久しぶりな気がする。こうして俺は2人と一日で仲良くなった(?)。
「……早速だが何をしに来たんだ?」
普通の口調ならば俺はストレートに言うため少し口調がきつく聞こえてしまう。しかし真鐘にその心配は不要だった。
「相談しに来た……けどまさか鶴田がいるとは」
「俺がいたら不味かった?今からでも抜けるけど」
「あーっ!そんなのはしなくていいから。居ていいから」
「なら、いいんだけど」
この慌てようで気付かないとは……。莉櫻鈍感説浮上。
「ほらほら麗律」
「う。……この状況から分かるとおり、進展はした。けどそこまでだ。だからまた来た」
「……それは分かったがどうしてみ、……美玖まで?」
人前とか変に意識してしまう。だが、美玖が名前で呼んでくれたのだ。俺も呼ばなければ。
「私は付添い。あと潤平君とは別の視点からの相談役ってところかな」
「いろいろ訊けてありがたいよ。最近のだと水族………」
「あーっ!言っちゃダメってばっ!もうっ」
あら~。話してらっしゃる。俺の知らないところで情報が広がっている。コミュ障を脱出した美玖とSNSは恐ろしい。
「まぁ、そういう訳だから自分のコミュ障が松平には出ないんだよ」
「俺、全くついていけてない」
安心しろ莉櫻。俺もだ。何言っているのかわかんねぇ。だが、俺には美玖がいる。莉櫻には居ない。もう少しでいるようになるのかもしれないがそれは置いておく。
「……莉櫻。これは試練だ」
自分がどれほど真鐘に気に入られているのかを自力で分かれば合格だ。
「潤平君の案を貰いに来たんだけど」
いつの間にか刺していた手は膝の上に置かれていた。そして美玖の顔はじっと俺を見据えていた。座高的な問題での無意識な上目遣い。膝の上の手はどちらもぎゅっと握られていて必死さがこれでもかと伝わってくる。……反則。俺の負けです。すっかりやられてしまった俺は案というよりも本音が口から出た。
「……デートしたい」
「うん?」「え?」「は?」
「おい松平?何を言ってるんだ?」
口調は嫌そう。けど顔が赤くて少し嬉しそう。
「潤平、大丈夫かい?」
隣を見ろ。隣を。俺より大丈夫じゃないぞ。
「もうっ。……バカ」
照れてた。ありがとう神様。そして無意識の俺。
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