第65話 ニコは胸を張って、三人に対峙した
「場所がどこかは分かりませんけど」
一言前置きを入れて、エミは語りだした。
「いつかは忘れましたが、遺跡に地殻変動が起こったことがあったんです」
「地殻変動?」
「この地下遺跡は、定期的に自ら動くんだ。地下全体がブルブルと微弱に震えたらそれが地殻変動の合図でね。それから間もなく遺跡全体が大きく動き出すんだ」
「それって、遺跡が生きているってこと?」
ニコの尽きぬ疑問をムヌーグが口をおさえて遮ると、エミに手のひらを向けて話の続きを促す。
「地殻変動の起こるちょうどその時に、私は遺跡に連れられていました」
「本当はいけないことなんですがね。一体どなたがそれを許可したのでしょう」
メリヤスも興味津々に問うものの、それも本筋には関係ないとムヌーグが視線で釘を刺す。
羊の亜人は視線におどけて両手を上げ、それ以上口を挟まなかった。
「そちらの方の言う通り、本来なら入ってはいけないはずなのですが、抜け道を使って入ったようです。その時の持ち主は、すぐに入って出れば大丈夫と思っていたようでしたが、結局地殻変動に巻き込まれました」
「死んだの?」
ムヌーグのおさえる手を払ってニコが問う。
「いいえ。でも、罰はあったようです」
「自業自得だ。それで、エミはその時にニコの言う不思議な部屋とやらを見つけたのか?」
地殻変動中の遺跡内の様子は、町の誰も分からない。
本来ならば、地殻変動前の微震を受けて遺跡は立入禁止になるはずで、立入禁止の内部に入った者が戻ってくることなどありえないはずだった。
エミの話した違反に関して町の支配者たるオーインクが知れば、まず間違いなく処罰されるだろうし、実際にエミのその時の持ち主も何らかの形で罰を受けているらしい。しかし、それが表面化されていないこと、エミが未だにこうして普通に生きていられることが、どこかムヌーグにはアンバランスに感じられた。
「大きな丸い部屋でした。丸い部屋の上空に、ふわふわと丸いものが浮かんでいて、木でも石でもないそれが、呼吸をするように上がったり下がったりしていたのを覚えています」
「ニコ、この情報はお前の知りたかった情報か?」
「分からないけれど、多分全く関りがないとは言い切れないと思う」
二人の人間の語る言葉は、どちらもふわふわと歯切れが悪い。生き残ることを第一に考えるのならば、こんな不確定要素の塊に身を委ねるわけにはいかない。
ムヌーグの逡巡を察したのか、メリヤスが一つ咳払いをした。
「しかし随分と話がちんぷんかんぷんと言うか、どうにも的を得ていないようですね。ニコくん、この話に何の意味があるのですか?」
三人の視線を受けるニコは、しかし一歩もたじろがずに、それを受け止めた。
わずかに目を閉じて大きく息を吸うと、ニコは胸を張った。
「不思議な部屋から、力を奪う。この町を、破壊する」
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