第5話 詩音さんからの驚きの告白

「あっあっ…あのっ! オレは大野健人です。よろしくお願いします」

 オレは焦りながら自己紹介をして、我ながら情けない男だなあと思っていた。

 女子とまともに喋ったことないのが、もろバレじゃんか。

 なんのことない日常会話だってオレは男子としかしない。仲良く気兼ねなく付き合う女友達なんて皆無だ。


 男子とばかり過ごし、つるむオレにはクラスの女子だって遠い。

 な・の・に!

 突然の憧れの人との会話というハードル!

 高〜い。


 それか、見上げても先が見えないぐらいオレには高い障害壁だ。

 頂上に詩音さんがいる。

 よじ登っても頑張ってよじ登っても、オレはむなしくズリズリと元いた場所に落ちてく。

 そんなイメージだ。


「私は若槻詩音です。よろしくね」

 はい。あなた様のことはもちろん知ってますとも。

 学校一の美女の詩音さんは椅子から立ち上がりニコリとした。

 うっひゃ〜!

 なんて天使のような微笑み。

 可愛い〜。

 オレはすっかり舞い上がっていた。


 男子生徒の憧れ。


 若槻先輩。

 男子学生は「詩音さん」って勝手に呼んでいる。

 下の名前で読んだら親しくなくてもなんだかお近づきになれた気がするじゃないか。

 

「田貫先生が勝手に連れて来たのかな?」

「えー、いやまあ。いや」

 オレはしどろもどろになった。

 美人を前に緊張して続きが言えなくて周りを見渡す。

「本がいっぱいですね」

「ああ。新しい図書室に入りきらない分がここにあるみたい」

 オレは緊張であちこちから汗が吹き出していた。

 ブワっと湧き出る脇汗も手汗も顔汗もひどい。

「ほっ本は良いですね! 読むと楽しいですねっ!」

「フフ」

 クスクスと詩音さんは笑いだした。

 可愛すぎる。

 俺のギクシャクした態度に笑っていたんだろうけどそんなんでもオレは嬉しかった。


「ねえ。君さポス研(ポスター研究部)だったんだよね」

 しっかり目を見ようとしてくれる。

 恥ずかしくて視線を外す。

「ああっ。はい」

「この間の桜の絵は君が描いたんだよね?」

「えっ? そう…です」

 学年が変わるから卒業と進級にエールを送りたくて。

 オレは一生懸命にポスターを描いたけど。

 心をこめたつもりだったけど。

 そして渡り廊下のいつものポスター研究部の張り出しスペースに貼っただけだった。

 誰かが見てくれてるとは思わなかった。

 それもオレが描いた絵だってことを覚えているなんて。


「私、君の描いた絵が好きだな。

 すごく素敵だったよ。

 色使いとか優しい感じで。あのポスターはとっても良かったと思う」

「ええっ?!」

 オレはびっくりして声が裏返る。

 大失態だ。恥ずかしい。

「私、君の一番のファンだよ」

 そっそんなこと言われたことがないからオレは馬鹿みたいに、餌に群がる池の鯉のように口をパクパクしていた。


 詩音さんの口から……まさかそんなお褒めの言葉をいただけるなんて、聞き間違いか〜?! オレ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

冴えないオレに詩音さんは君の一番のファンは私と言ってくれる(改稿版) 桃もちみいか @MOMOMOCHIHARE

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ