和正

第3話 和正の恋

 綺麗な人だ。

 とても綺麗だ。

 何年生の先輩だろうか?

 

 あれは中学校の入学式の日。

 俺は満開の桜の木の幹に寄りかかりながら、本を読んでいるあなたを見たんだ。

 花びらが舞い散るなかに、あなたの姿は幻想的で美しかった。


 一目惚ひとめぼれだった。

 

 生まれて初めて、こんなに胸がぎゅっとつかまれてるみたいに苦しい。


 息ができないほどに。


 俺はあの日から、あなたの姿を追いかけている。


 校舎のどこかで会えるんじゃないかと期待して、毎日過ごしているんだ。


 先輩。

 俺はいつかあなたに告白する。

 俺のことなんて、きっと知らないだろうけど。

 知ってほしいから。

 俺を見てほしいから。


 俺を見て。




◇◇◇◇◇◇◇◇


「和正〜。何してんだよ。体育の授業が始まっぞ」

 幼なじみの健人が下駄箱で俺を呼ぶ。


 俺には親友の健人に秘密にしていることが二つある。

 秘密の一つは俺はサッカー部だが実はもう1こクラブに加入していること。今は幽霊部員だが、いずれ本当はそちらにうつりたいんだ。

 馬鹿な理由かもしれない。

 だけど俺がその部に行きたい切実な理由がある。

 

 健人への秘密のもう一つは俺が三年の先輩に恋してること。

 そしてその部活に行きたい理由は大好きな先輩がそこにいるから。

 先輩に俺は恋しているから。

 あの人と同じ部活で少しでも一緒にいたいから。

 サッカー部で周りに期待されればされるだけ、抜けるのは心苦しくもあるが、先輩のそばにいたいから。

 俺はふと通りかかった廊下から見えた技術室に、あの先輩の姿を見つけて見惚みとれていた。


「和正? 和正がボーッとしてんのは珍しいな。具合いでも悪いのか?」

 健人が俺の顔を覗き込んで心配そうに見る。

 俺の親友の健人は優しい良いやつだ。

「ああいや。眠いだけ」

「なら良いけど……。

 体育は1、2合組が合同だから和正と授業出来んのは嬉しいよ。オレは体育も苦手で好きじゃないけどな」

「俺も健人と授業が一緒なのは楽しいよ。

 そういや健人はポス研(ポスター研究部)なくなって結局はどこにしたんだ?」

「それがまだ決まんないんだよな」

「そっかあ。健人に合うトコがあると良いな」

「サンキュー。まあ気長に馴染めそうなトコ探すよ」

 俺は周りから完璧なやつだと思われているが、本当はそうじゃない。

 俺は健人が俺に対して劣等感を抱いているのを知っていたが、俺だって健人をうらやましく思っていた。


 なぜなら俺の好きな先輩は健人を好きだからだ。

 

 そう。先輩は俺なんかじゃなくてたぶん健人のことを好きなんだ。

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