何かを抱えて眠る、恋人ではないふたり。
- ★★★ Excellent!!!
昔、「ボクらの時代」に出演した佐藤健が、
「漫画のクールキャラに憧れて黙っていた」
と話をしていました。
すると「ミステリアス」とか、「見透かされている気がする」などと言われるようになったそうです。
本当に考えている時もあるけれど、何も考えていない時もあって、そこには何かがあるんだろうね、
と佐藤健は続けました。
「紐 解くと さようなら」の主人公の響太を周囲の人間が見る時、
佐藤健の言う何かが、そこには確実にあったのでしょう。
「R」というバンドのヴォーカル&ギターの響太。
明るく、何でも器用にこなし、女の子にモテる同じバンドのメンバーで、幼なじみの洸介は言います。
「響太だって別にヒモ生活がしたい訳じゃなくってさ。なーんか女の子の気持ちに応えすぎちゃうっていうの?」
物語の冒頭はインターホンの音から始まります。
住まわせてもらっていた女の子の部屋から出て行く、と決めた朝に鳴るインターホンに響太は応えません。
彼にとって、既にこの部屋は他人のものになった、と分かるシーンから、この物語は始まります。
何故、彼は部屋を出たのか、それは少し読み進むと分かります。
――僕にはある時から決めている事がひとつだけある。
ヒステリーの1度目では出ていかない。
でも、2度目のヒステリーの時は
僕が彼女の不安を取り除くことは不可能だと分かる様になり、僕はその時が来たら、
さよならをすることに決めたのだ。
響太は実に理性的です。
2度目のヒステリーが起こるまで、
彼は「女の子の気持ちに応えす」ぎるほどに尽くすのでしょう。
そこにある不安を取り除く術を彼は知っているから。
けれど、2度目のヒステリーの不安の根幹にあるのは、
響太自身だと理性的な彼は理解している。
さよならをする、
と決めている彼は残酷なようで、どこまでも優しい。
理性的に、彼は自分のできることをしていく。
それはヴォーカル&ギターという役割をバンドで担っているが故なのかも知れません。
そんな彼が、岸田みちという女性と一緒に生活するのが、
今回の「紐 解くと さようなら」です。
岸田みちという女性は本当に可愛いんです。
登場当初は不思議な、それこそミステリアスな女性なんですが、
ページが進むごとにわたわたと感情を露わにしていきます。
どこか子供っぽくて、いじけたり、嫉妬したりする姿は本当に可愛く、
それでいて何処か包み込む優しさも持っている。
そんなみちさんと接して行って、響太がどう変わって行くのか、続きを楽しみにしたいと思います。
ちなみに、キャッチコピーが
「一緒に眠るけれど恋人ではない。 」
です。
本当に、この一文が全てを表しているような気がします。
ただ、タイトルのは「さようなら」とあるので、それは……。