第17話 諍いと別離
二ツ龍物語 17 諍いと別離
「随分と──増えたもんだな」
ユーリ=ペルーンは急ごしらえの掘立小屋の群れを眺め、呟いた。
突貫工事で仕立て上げたにわか作り、とは言えようやく一段落である。
開墾にも野良仕事もまだ山積みとは言え、第一の心配事は解決した。
草地に胡坐を組んで、どうしたものかとユーリは思案する。
一足飛びの解決など思いつこう筈も無く、脳裡に浮かぶものはチェス盤めいた村の地図だ。
あちらには未開拓の沼地、こちらには手つかずの森、手が回らないと放置された畑跡や、
使われないまま草生した石垣や土塁。その上を駒のように民が動き、働いている。
そんな絵を思い浮かべつつ、しゃがみ込むと土に枝で雑に絵を描き始める。
人をどう配分したものか──ここ数日で話して回り歩き回り、
時に苛立ちを抑えながらも改めて覚えた住民の顔と名前を思い浮かべる。
幸いな事に最低限の道具は持ってきている者も多い。
植え付けの時期は過ぎてしまった以上、開墾や干し草づくり、家畜の世話等々。
うーむ、と首を捻りつつユーリは手を止めて呻き声を上げる。
まるきり百姓のやる事だ。細目に口出しした所でゴザク辺りに勝てるとも思えぬ。
首を振って思考の方向性を変える。ず、と描いていた丸から一本動きの筋を伸ばした。
つまり、慣れた方法で考えればよい。
如何に兵を盤上で用い、上手く仕事を成し遂げるか、という訳だ。
その上で実地の作業は兵共の努力と献身を期待すればよい。
訓練、組織化だ。如何にせせこましいいがみ合いを捨てさせ、協力させるか──
もしも、西国辺りの宗教者がいればよい答えをくれたかもしれぬが、
文化果つる辺境の地では地縁血縁その他諸々を超えた宗派など存在しない。
しかし、統合する理屈が無くては始まらぬ──兎にも角にも共通の経験と時間が問題だ。
「ああ、頭痛い。使い過ぎた」
迷宮入りした思考を今度こそ止めると、立ち上がって今日の作業を思い出そうとする。
丁度、その時だ。少し離れた場所から怒号が聞こえた。
何事か、と駆けだした所に鈍く輝く鎧兜が見える。紛れもなくヴォロフの兵であった。
武器を片手に脅しつけ、居丈高に何事か叫んでいる。
その足元には男が数人、血を流して倒れ伏していた。
歯嚙みすると大股で歩いて間に割って入り、少年は叫んだ。
「何事かッ!!」
「坊ちゃん、こいつ等!!とんでもない話を持って来やがった!!」
「これはユーリ殿。丁度良い所に」
いきり立つ農夫に取り合わず、鎧を着た兵は懐から一巻きの書状を取り出した。
何とか群衆を背に抑え込み、両手を広げているユーリを前に、
面頬も上げず朗々と読み上げ始める。曰く。
「兵権の剥奪、逃散民を返し、賠償金まで払えだと!?兄上は狂ったのか!!」
「失礼ながら、ご命令ですからな。期日までに従うように」
ユーリは助け起こされるも血塗れで身動ぎ一つしない一人の民を見ると、
眉間にしわを寄せ、口の端を笑うかのように吊り上げて兵隊を睨んだ。
「……断る、と言ったら?」
「その時はペルーンへの反逆者としてお相手致しましょう、ただのユーリ殿」
「随分と丁寧じゃぁないか」
「ハ、どうもご自分の立場が御分りになっていないらしい」
貴様とユーリが言いかけた時だ。
悲鳴が聞こえたかと思うと、少年と兵隊共を囲んでいた人垣の一部が二つに割れた。
大の男が何人も吹き飛ばされてもんどりを打って転がる。
そして、それきり群衆が沈黙し──ちりちり、大気が紫電に焦げる音が代わりに聞こえた。
何か大きな生き物がゆっくりと呼吸する、その生臭さすら感じる。
「ゴロツキ共、私を差し置いて楽しそうじゃないか。面白い話なら一つ混ぜてくれよ、なぁ」
「ウー=ヘトマン!!土地の守り龍!!控えよ、ペルーンの盟友だろう!!」
「黙らっしゃい!!」
その叫びは龍を留めない。踏み込み飛び込み、紫電を纏った握り拳が胴鎧を打ち抜いた。
大槌で殴られたように板金が大きくへこみ、まるでボールのように鎧姿が宙を舞う。
すわ逆らう気か小娘が、とでも誤認したか、
それとも龍の取る姿が侮りを招いたか。兵は押っ取り刀に得物を握るが、
拳と踏み込み、それから雷霆は抜き打ちよりも遥かに早い。
身を落とし、腰を捻り、蛇の身を捩るが如く振るう腕に威力を込める。
割れ鐘、鳴り物、かなてこ打つ鉄のハンマーの如く、右に左に二打三打。
その都度事に鎧姿が暴風に会った木っ端のように吹き散らされる。
「は、脆い。鈍い。ちょっと撫でてこの様か」
人型の嵐は拳をぽきぽき鳴らし、周囲に飛び散った兵共を眺め降ろす。
自らの名を呼んだ者に狙いを定めて屈みこむと、その襟首を掴んで引き起こす。
首を傾け蛇のように裂けた笑みを作り、恐怖する兵の面頬を跳ね上げて顔を捉えた。
「そうさ、私はペルーンの友。が──貴様等の事はどうでもいいナァ。おい、ユーリ」
怯える豚面の顔を食い破りそうな面持ちを向けたまま、ウー=ヘトマンは少年の名を呼ぶ。
「こやつら、ペルーンと名乗りおった。しかし、私の目にはどうもそうは思われんぞ。
他人を騙る不埒ものは滅ぼすべきだと思うのだが、どうか」
「殺すな。兄上に糺す事がある」
「解せん。話は聞いておった。それに、土地の主は私だ。裁く権利がある」
「それでもだ。僕に免じて、どうか頼む。今殺せば収拾がつかなくなる」
動かなくなった農夫を地に横たえてやると、少年は立ち上がる。
血が流れ過ぎた。最早助かるまい。少年が駆けつける前の小競り合いの故だった。
ゴロツキ共に向き直ると、口をへの字に固く結ぶ。
「狂気だ、これは狂気だぞ!!使者の口上を無視して、あまつさえ」
「……狂気、狂気か」
「ヴォロフ閣下は仰っていた。要求さえ飲んで降ればこの土地を貴方に与えると。
目の前の機会を捨てて、つまらん情に流されるおつもりか」
使者は語る。曰く、主としてはユーリと和を結びたいと。
おべっかを繰り返し、諾する利を述べ、必死の態で同意を求めようとしていた。
ユーリはウーに目配せする。彼女がゆっくり頷くのを認めると、顔を上げた。
「どうも誤解があるようだが」
言葉を区切る。少年はゆったりとした足取りで鎧兜どもに歩み寄る。
そして、にこやかに笑って彼等の肩を軽く叩きつつ続けた。
「この土地は僕の物ではなく、ましてや君等の物じゃない。
僕の望みはどこまでもペルーンとその民を守る事だ。他人のものなど要らない」
「どういう事だ。領主閣下のご命令だぞ」
「察しの悪い。自分の物でもない土地を売り払う道理なんて誰にもありはしない。
兄上の命じた事であるならば、直接参上して問いただすまでの事だ」
「逆らうつもりか」
「そうなるね」
簡明に答えると、少年の隣に滑るような足取りで龍が控えた。
両腕を組み、ユーリは無表情になると鎧どもの喉笛を睨む。
「君等の方こそこれ以上悪さをしようとは思わない事だ。
後一人でも殺してみろ。全員首だけにして突き返してやる」
ユーリ=ペルーンは使者にそう伝えると、農夫たちに振り返る。
幾つもの両目を集めながら、少年はその内の一人に声をかけた。
「申し訳ないが、こいつらが悪さしないように見張っていてくれ。
馬と武装を取って来るから。それまで少し時間を頂戴したい」
「坊ちゃん、しかし……」
「坊ちゃん、ってのは辞めて呉れ。ユーリでいい。何だ?」
「こいつら、サムを殺したんですぞ」
「解ってる。だが、今は俺に預けてくれ」
ユーリは怒りを堪え、軋むような声を上げる一人の農夫に深々と頭を下げ、懇願した。
振り上げかけた拳を下げ、肩を震わせる男は何か言いたげに、しばし少年を見る。
それから、顔を上げてユーリは言う。
「兄上はこんな事をする人じゃなかった」
「私も連れていけ。堪忍袋の緒が切れた」
「解った。それじゃあ、こいつらに案内願おうじゃないか」
応、とウー=ヘトマンは頷く。嫌も応もなく捕虜共は従う。そういう事になった。
/
完全武装を終え、馬に跨ったユーリ=ペルーンは捕虜達の後ろに悠然と続いていた。
その一団の上空では、鱗を陽光に輝かせた龍──ウー=ヘトマンが地上に影を落としている。
時折、顎を下げ地上を睨み下ろすのは捕虜共を逃さぬ為だ。
遠く、彼方にペルーンの封土らしきものが見えた。
久しぶりに戻ったペルーン領は少年の記憶とは姿を大きく変えていた。
古くからの農地には羊や家畜が無秩序に離され、柵で囲いがされている。
かと思うと、切り出した木材や良く解らない機械を搬入している作りかけの建物がある。
そこで働いているのは農奴や作男だったものばかりではなく、
つい先日までは自らの土地を耕していた自由民たちの姿さえある。
彼等は一団を目にするや、何事かと驚き作業の手を止めるが、
直ぐに忙しなく自分自身の作業に戻っていく。
ユーリは何も問わず、また人々の声には黙して答えない。
川筋の近くには煙を上げる鍛冶場が幾つも連なっているのが見えた。
鉄を叩き、何かを黙々拵えているものの多くは新来のオーク共だ。
そいつらだけではない。今までは見た事の無いような顔ぶれが大勢辻を歩いている。
一方でユーリにも見覚えがある家屋や、居酒屋兼宿場などは
硬く鎧戸まで閉ざし、まるで息をひそめて隠れているようですらある。
正常だった世界が狂って逆立ちを始めたような錯覚をユーリは覚えた。
知らず知らずに眉をしかめつつ、最後に見えてきたのがペルーンの館だ。
いや、ペルーンの館だったもの、とでも呼ぶべきか。
かつて、館が建っていた丘の上には城塞と見紛うような
堅牢たる建物がそびえている。高い塔は以前には存在しなかった物だ。
その周りを高い壁が囲み、鉄で補強した見るからに分厚い門扉の前には
真新しい鋼の甲冑を揃いで纏った番兵が詰めていた。
「ユーリ=ペルーン。そしてウー=ヘトマン。
我等は領主殿に言上の為に参じた。扉を開けられよ」
何者か、と誰何の声が上がるよりも先にユーリは馬上から音声を張り上げた。
続き、龍は天から音も無く地に降りて、荒れ野にとぐろを巻くと兵をじっと見下ろす。
怪物に慄く番兵が邸内に引っ込み、暫くしてやっと館の扉が開き、ユーリは奥へ通された。
「龍を連れた闖入者と聞き、何事かと思えば」
ペルーンの領主は謁見の間に現れた少年を椅子の上から退屈そうに眺めていた。
戸惑う廷臣たちには構いもせず、鎖帷子の上に戦外套まで羽織ったユーリは兄の前に進む。
それを迎えつつ、なんともつまらなそうにヴォロフは天井を見上げて呟く。
「ユーリ、と例の龍か」
ちら、とヴォロフは弟の腰の剣に目を遣ると、ため息を吐く。
或いは、こうなる事を心のどこかで予期していた為だろうか。
うんざりしたような兄の表情に、ユーリは努めて感情を抑えつつ、告げた。
「兄さん。解ってますよね?」
「ああ、勿論。話は聞いた。まぁ、こっちに来い。菓子もある」
微笑みつつ手招きすると傍らの鉢に乗せられた焼き菓子を少年に勧める。
ぎり、とユーリは剣の柄を握りしめた。
「……兄さん」
「怒っているんだろ。しかし、もう決まった事だ。
兵権は返して貰うし、封土は受け取ってもらう。金については相談してもいいが」
「説明も無しに勝手に決めた事じゃないか!!」
「いきり立つなよ、ユーリ。怖いじゃないか。乱暴な物言いじゃ台無しだぜ。
何だ。理由が聞きたいのか?難しくなるから話さなかったんだが」
まるで聞き分けの無い子供を相手にするような態度だ。
やれやれ、と肩をすくめつつヴォロフはユーリに向き直る。
「当たり前だろ!!当主だからって一言も無しに」
「お前が理解して、納得してくれるか不安だったんだよ。
粋がってみた所でお前の部下や農民共にゃ文字が読めないのだって少なくない。
そういう獣みたいな連中に理屈を語った所で何になる」
「それは……聞いてみないと解らないだろ」
「聞いて解れば苦労は無い。どうせ、文字の一つも無い連中だ」
たどたどしく答えたユーリにヴォロフは面白そうに笑うと、続けた。
「話せば解るってのは上等な相手さ。シャロム達と付き合ってみてよく理解できた。
だから、土民は命令して従わせる。お前だって一々言って解らせちゃおるまい。
話が逸れたな。決定の理由が聞きたいんだろ?」
「そうだよ、どんな騒ぎになったか解ってるのか。
大体、領地がどこもかしこも無茶苦茶じゃないか。
何だよアレは。訳の分からない物ばかり勝手に」
「無茶苦茶とは随分だな。俺にはそうは見えん」
非難を受け流すと、ヴォロフはあやすような優しい口振りで語り始める。
「順を追って話そうか。前にも言ったと思うが、ペルーンの家を豊かにする為だ。
農作物だの、中継基地にするだけじゃ領の自立はおぼつかない。
だから、今我が地を鉄と火の力で豊かに育て、教えるんだ。
その為に仕事を作り、民に与え、新しい業と富を取り入れて……」
「嘘ばっかり言って!!」
「嘘じゃない。お前が理解してないだけだ。……いいか、喚く前に大人しく話を聞け。
さもなきゃもう切り上げるぞ。……そうだ、それでいい。辛抱してろ。
俺はな、お前と違って上手くやってるんだぞ。今から証拠を見せる」
それから、不意にヴォロフは傍らにあった書類の一つを引っ掴んで紐解く。
細々とした数字が対称して何行も連なった代物で、頭の部分には日付が付されている。
無味乾燥な紙面の上に、不釣り合いに大きく目標達成、という単語が殴り書きされていた。
帳簿だよ、と男は短く告げるとユーリの前に突き付けた書面を指で示す。
親指に収まる金無垢の指輪が鈍く輝く。
「見ろ。何が書いてあるか解らんだろう。俺には解るぞ。
こっちが入りで、こっちが出。遂に黒字になった月のだから取っておいた。
それがどうしたって顔だな。金の話は俺に任せきりだったから解らんだろ。
ええ、解らんだろ俺の苦労は。だが──」
身を屈め、高所からユーリを覗き込むとヴォロフは一気呵成に続ける。
「無知蒙昧な土民共へ頭を下げ、高慢ちきな隣人共に助けを懇願し、
都の糞ったれな税に怯え、いつ来るかも知れん魔物に怯え、
何時も何時も身を縮めて暮らす、そいつがやっと過去の物になりかけてんだ!
これがどれ程重大かお前にゃ解らんだろう!!ええ、解らんからそんな我儘が言える!!
俺の所領だ。俺の民だ。俺の財産だ。やっと人並みになろうとしてるんだぞ。
お前だって、今よりもずっと贅沢が出来るし、領地だってやる。
それなのに何で解ってくれないんだ!何が不満なんだ!」
一息に激すると、肩を揺らして感情を抑え、再びにこやかに笑う。
そして、ヴォロフは弟を説得すべく諸々の条件や贈り物を並べ立て始めた。
曰く、罰則金は名目だけのものにしてもいい。
領地の経営はユーリに任せる、お前もやっと一人前の騎士だ。
古ぼけた剣よりももっといい奴を買ってやろう、だの。
「兄さん」
「何だよ、新しいペルーンに言いたい事があるなら言ってみたらどうだ」
「兄さんの送って来た使者のせいで、ペルーンの民が死んだよ。
それに、大勢が土地を捨てて逃げ出してきてる。残った連中も暮らし向きが良くない」
「それがどうした。ペルーンは俺の所領だぞ。どう扱うかは──」
「民が、死んだんだよ?どう思ってるんだよ」
ユーリは、まるで哀願するようにゆっくりそう言った。
すると、領主は肩を竦め、冗談めかしてにこやかに笑って見せる。
「だから、それがどうした。ペルーンは俺の物だと言ったろう。
領主は民の生き死にも自由に出来る。家畜を扱うように苦も楽も気持ちと匙加減一つだ。
必要な事をやってるんだぞ。多少の犠牲は出るし、それぐらいの対価が何だってんだ。
ま、全てシャロムや皆のお陰だな。お前だって少しはあいつらに感謝ってものをだな──」
身を乗り出して熱弁するヴォロフを余所に、ユーリは脇に抱えた兜を被り面頬を下げた。
鎖籠手で剣の柄を握りしめると、そのまま領主に背を向ける。
「おい、何のつもりだ。幾ら何でも無礼だろう」
戸惑うような声をヴォロフは上げるがユーリは答えず、
立ち止まると独り言のように語り始める。
「……兄さんの思う世界に僕たちは居ない」
「どういう意味だ」
「言葉通りだよ。兄さんのペルーンには兄さんと、その仲間しかいない。
民も、僕も、これまでのペルーンも何にもない。良く解ったよ」
「おい、どういうつもりだ。何処に行こうというんだ。待てよ、待ってくれ」
「僕はペルーンへ戻ります。さようなら、兄さん」
引き留めようとする声を背中に、ユーリは扉を潜り出ていった。
呆然とその背を見送り、領主は虚脱したように椅子にもたれかかる。
控えていた細面の従僕が傍らに移った。
「ユーリ殿の処遇は我等に一任して頂けませんかな?
ご友人殿は少し休まれた方が宜しいようですから」
その言葉にヴォロフは力なく頷き、受けてフェレストスはにこやかな笑みを作る。
パチリ、と彼は指を鳴らすと両手の白手袋を脱ぎ捨てて歩き始めた。
その後ろに彼と同じシャロムらの召使が数人続く。
彼らもまた、フェレストスと同じく手袋を脱ぎ、或いはネクタイを緩めつつ歩き始めた。
「いやはや。契約、契約ですからな!!ご命令とあれば致し方ありません!!
皆、皆。ご命令ですぞ、領主閣下は我等にご命令なさった。
騎士君の処遇を一任されると。いやはや、一任ですぞ、一任」
魔が差した領主を捨て置き、口々に笑い合いながら行進する。
「こらこら、よだれを垂らしちゃぁいけません。ゆるりゆるり追いかけるとして、
君等も私の様に常日頃から儀礼と言うものを弁えなさいな。
ともあれ、最後が宜しく閣下の御意志に叶えば良い。座ってるのがどんな形でも」
快活に語ると、フェレストスは胴体の上についていた細面の首を自ら手折った。
もげた首の下から現れたのは真っ黒い三本角を持つ、山羊の頭部であった。
見るなり他の従者たちも愉快そうに笑い出し、その頭を変化させる。
蛙に似た頭がある。めんどりのようなものもある。
或いは、トカゲの出来損ないや毛の無い犬の頭のようなものもあった。
「さあ、面白い追いかけっこの始まりだ!諸君、諸君!
久方振りに羽目を外せるぞ!喜びと共に追い付き、あの光る鎧を引き千切ろう!
空には龍のお嬢さんだ。ご主人様もすぐお出ましさ。私らはその露払い。
一つ、ご友人殿の面倒事をきれいさっぱり月まで飛ばして御仕舞に。
魔王閣下の面倒な協約など知りゃしない!!魔族、悪魔、夜の民の力とくとご覧あれ!!」
嘲笑うかのような叫びを尾引くように残し、ドラゴンにかしずく悪魔の群れは
きらきらと輝く鎧の騎士目掛けて走り出していった。
Next.
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