第4話 奥様は武装要塞惑星

「急いでタケヒト!

 武装要塞惑星デス・スターの中心部に到達するまであと5分よ! 私が防衛線を突破する!」


「ミウト! 君はさっき装甲骸鬼【ガシャトグロ】から受けたダメージが残ってるじゃないか。僕が先に行く!」


 私は【ほし ミウト】、外見はごく普通の女子高生だが、その実体は宇宙を消去するという破壊プログラムを持った【武装要塞惑星 デス・スター 】の中枢AIだ。

 新たなターゲットを調査すべく送り込まれた地球で、ひょんなことから高校生の男の子、【姉麹あねこうじ タケヒト】と出会い、一緒に暮らすことに。

 

 やがて恋に落ちた二人は結婚し【姉麹 ミウト】となった私はカプセル型宇宙船を呼び出し、地球を救うべく武装要塞惑星に突入した。


 ─── 船内にタケヒトが紛れていることも知らないまま。


「あなたは絶対に生きて地球に帰す! 私の大好きな人を、私の大好きな星に!」


「ミウト、武装要塞惑星を破壊することは君自身を滅ぼすことになるんだぞ!」


「ううん。 私は大丈夫! 私には思い出がある……」


「ばっ……かやろう!」


 その時、小型の戦闘ドローンが大量に空中に吐き出された。


「えらーぷろぐらむをハッケンしました。 ジュウヨウふぁいるをシンショクするカノウセイあり。 わくちんぷろぐらむをサドウしクチクします」


 戦闘ドローンが見る見るうちに積み重なって巨大な人型戦闘騎【サイクロプス】へと変形する。


「タケヒト! 今はそんな話をしてる時じゃない! フォースを発動して!」


「ちぃぃっ! いくぞミウト!!」


 私とタケヒトの声が重複する。


[[ 配偶者装着固定ル・クプル!!!]]


 私の体は光粒子となり、タケヒトを包み込む。 そして発光するパワード・スーツとなって巨大な翼を広げた。


「うおおおぉぉぉ!!!

鵬翼フェザリングフィッツジェラルド!!】」


 次の瞬間、サイクロプスの胸を閃光が貫き大爆発が起こった。


「よしっ!」


「ホエホエ~♪

 ずいぶん遠いとこきたアルネ。

 ワタシコマテしまたアル!」


 ひょっこり現れたのはポストペット型AI。 頭にはお団子ヘアのような形の羊の角を生やし、カンフースーツを着た幼女の姿をしている。

 跳躍羊リープ・シープ李子りしさん、私達が【ル・クプル・モード】に変身した時にだけ起動する最強の超次元移動装置だ。


「一気に武装要塞惑星デス・スターの中心部に行くネ。チョト時空酔いするかもしれないから覚悟するヨロシ!

 むむむ~っ。

 【次元跳躍ディメンション・リープ】!!」


 李子さんの顔がまるでブロックが組み変わるかのように、羊型のメカニックなデザインにチェンジする。


「メェエエエエエ!!」


<< 続く >>

─────


「なんだよ? 【メェエエエエエ】って」


「え? 今さら? シープだよ。 跳躍羊の李子さんなんだから当然でしょ?」


「じゃあ羊とヤギの鳴き声の区別はどうつける?

 お前は実際に聞いたことがなくて納得いく表現が出来るのか?」


「う~ん。 わかったよ。 資料動画を探すか動物園にでも行ってみるかな……」


「U野動物園の【ふれあいゾーン・ペアチケット】なら手配してある。

 週末は【ヒツジさんデー】。もちろん俺も同行だ」


 今夜もマンションの一室で俺とサキは小説執筆と格闘する。

 長編冒険SFラブ・コメディ、「奥様は武装要塞惑星デス・スター」。

 いわゆるライト・ノベルと呼ばれるジャンルの小説だ。


 メキシコでの2年間のレスラー修行の果てに、サキこと【十黒木 咲】が扮するセクシー悪役レスラー【ダークソウル・サキュバス】は逆輸入という形で鳴り物入りの日本マット・デビューを果たした。

 天性の悪役レスラーの素質を開花させた彼女はメキメキと頭角をあらわし、瞬く間にトップスターへと駆けあがった。


 元々の高い身体能力に加え、妥協を許さないトレーニングに耐える精神力とカリスマ性。 伝説的プロデューサー【ノートルダム鐘八】の見立て通り、サキにとって女子プロレスラーはまさに天職だった。


 そうしたプロレスラーとしての多忙な日々を過ごす最中、彼女は当初からの夢だった小説家として本名の【十黒木 咲】名義でついにデビューを果たす。二足の草鞋の生活だが、代表作であるこの小説はナナメ上をいくストーリー展開で順調にロングセールスを続けている。


 俺はというと、修行時代こそジャパニーズサラリーマン・スタイルの悪役レスラー【ジンジ・カチョー】として【ダークソウル・サキュバス】とコンビを結成し活躍していたものの、帰国直前に右足の靭帯を断裂する大ケガを負って前線を退くアクシデントに見舞われた。

 その後は同名のリングネームのまま、日本国内でサキュバスの敏腕マネージャーとしてサポートにまわった。  さらに、小説家となった彼女を担当するフリー編集者として木戸出版と契約し二人三脚の共同生活を行っているというわけ。 メキシコへの渡航から数えて6年が経過し、サキはあどけなさの残る子供から大人の女性へと成長した。

 彼女に魅了される男性ファンは多く、【エログラップラー】、【サディスティックな大腿部】、【R18ヒール】、【狂気のメスシリンダー】などと呼ばれては常に注目される存在だ。


───

 そんなある日、プロレス団体の総合プロデューサー【ノートルダム鐘八】がビッグイベントをぶちあげた。


 日本女子プロレスのマットに君臨する絶対エースを中心に据えた暗黒淫夢の宴、その名も【サキュバス凄惨祭】の開催だ。


「もちろん話題性が重要だ。

 場所は地方都市、そう簡単には見られねえ希少性を付加する。

 そして中継はネットTVで全世界に配信。放映権は大手メディア間ですでに争奪戦の様相だ」


 やはりプロデューサーとしての鐘八の手腕は本物。 それは俺も認めなければならない。


「そのメインイベントでサキュバスが試合をするってわけだな」

 

 そう言った俺を見て鐘八がニヤリと笑った。


「俺のシナリオはそれだけじゃねえ。

うちのプロレス団体が後発ながら男女混成のミックスド・マッチを売りにこの短期間に動員数を伸ばしてきたのは知ってるよな?

 メインイベントは男 vs 女の一対一、無観客デスマッチだ!」


 そんなものは問題にならない。悪いが中途半端な男ではサキュバスの相手にはならない。 それほどに彼女の強さは本物なのだ。


「昔、文学に魅せられた少年と少女がいた。 その二人が運命の悪戯か、凄惨な一騎討ちに挑む。

 場所は、伝説の文豪、夏目漱石が見守る【坊っちゃんスタジアム】特設リング!」


 俺ははっとした。


「……てめぇ、もしかして!」


「暗黒淫夢【ダークソウル・サキュバス】のメモリアルマッチの相手は、最強経済生物【ジンジ・カチョー】の復帰戦にして国内デビュー戦よ!」


……【ジンジ・カチョー おれ 】と、【ダークソウル・サキュバス サキ 】が、一騎討ちだって?


 その発表はSNSを駆け巡り、【サキュバス凄惨祭】は翌日のホットワードランキングでダントツの一位を獲得した。

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