Extra-12 業火に消された記憶と愛

***

 恐怖がやってきた。ティティは蠢く何かに恐怖を憶え、震えあがったところだった。相手は、大嫌いな、イザーク・シュラウド。なのに、四肢は喜んでいる。


 体と心はバラバラになった。ティティインカはどうしてこうされているのか、理解が出来ず、ぼうっとなった。



 ――わたしは、この人を愛していたのだろうか……疑問が擡げる。ぽっかりと空いた綻びには、罪人の海の欠片が詰まってしまった。


 ――ちがう。

 ――わたしは、かつて、魂になって、逢いに行った人がいる――……



『では、急降下だ。マアトの世界へ飛び込む――』

 そう云ったのは、誰?


『どろどろになっちゃえば? すっきりするわよ』

 これは、誰?


 絶叫を上げたティティインカは、蠢く灼熱に気が付く。それは小さく震え、ティティの中を愛し尽くそうとする焔だった。



 いつだって、灼熱に焼かれて来た。



『構わない! ここで、して』焔の中でも、愛された。時と世界の迷路に迷い込んで、わたしは未亡人になり――




『だから! その婚約ってのを説明しなさいって言っているのよ――っ!!!』




 ティティは目を開けた。


 空は不思議な現象化に包まれていた。月が輪郭だけになっているのだ。そうして、世界は剥がれ落ちる。目を見開いたティティの前に、大きな天秤が映り、それは僅かに傾いて消えた。


 ティティインカ……名前に気が付くと、イザークがティティを抱きしめ、突き上げるところだった。ぎくっとしたもつかの間、ティティは遠くの世界の夢に、想いを爆ぜる。爆ぜる、というのがぴったりだ。


 世界は変わらず、ここに在り、神たちは俯瞰を止めないだろう。


「あ、たし……ねえ、あの空、なに……」


 イザークは涙を振り落とし、「月と太陽が、同じようなこと、やってんだろ」とぶっきらぼうに答える。その時、スカラベが手から落ちた。


「もう、変な色。やり直しよ、捨てるわ」


 その手をイザークが止めた。互いの素肌をすり合わせて、キスをする。


「いや、きっと、黄金になるんだ。あなたと、俺の愛はゆっくりと」

「ゆっくりと? 焦らなくて、いい?」


 心底安心する言葉。ティティはようやく笑顔を見せ、空の月はまた姿を現し始めた。抱き合ったまま、二人で窓から夜空を見上げる。


「太陽が、月を覆い隠したのね。不思議な世界だわ」



「ああ」イザークはティティを抱きしめ、ティティインカは枝がしなるように、上半身を逸らせ。逸らせた先端を吸い上げられて、また灼熱に堕とされる。


 ――ずっと、疑っていた。この人と、未来を信じて良いのかと。罪人王子に、身を任せることが正しいのかと。



 でも、このぬくもりがある。何度も押し開く、腕と愛があるから。


 いくつもいくつも、世界は生まれる。人の数だけ、これから生きていく数の分だけ。



(わたしと、イザークの世界は、やっとひとつに重なった・もう、怯えることもない――)



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