Extra-7 業火に消された記憶と愛

 ねじ曲がった世界に打ち込まれた魔力はそれほどに、強力なものであると知っているは、古代の神々だけだった。




 ――わたしが、消えるまえに。



 ティティインカにマアトの姿が被る。



「マアト神!」イザークが禁断の名前を呼び、ティティは金色の眼を向けた。


「悪く想うな、汝の愛が届かない理由ではない。――ヴァベラの民が呆れたものだ。この娘は鍵を持っている。おまえは鍵穴を持っている。ただ、二人の鍵が違う。それほどに世界を憎み、消えた怨念はおまえたちを逃しはしない」


 イザークは低く呟いた。


「俺たちを許さない怨念……まさか」


 悪魔の弟の存在を忘れはしない。生まれつき、善悪を忘れ、欲望のまま民衆を扇動し、時代すらを消し去ろうと、赤のオベリスクに呪いを込めた。



「マアト神! あいつは、消えたはずだろう」


 ティティインカの姿で、マアトは首を振った。


「……まさか……生きて、いるのか……」



 ――あたしがもう一度、産んであげる。だから、クフ、おいで――。



「ティティインカの優しさに住み着いて、今一度憎悪は生まれた。クフという魂は神の概念でもある。ヴァベラの血の集大成だ。そうそう、消えはしないのに」


 マアトは下腹を撫でた。


 「この娘は、それでも、愛そうとした。腹の中で、クフたる存在は色々と学んだようだ。どうすれば、ティティインカを手中にし、イザークと憎ませることが出来るのか……。その結論がこの崩壊した世界だ」


 マアトは手を翳し、空を割った。大きな三角形の建物に砂嵐が通り過ぎる。太陽の元、人々はせっせと王の墓を作っていた。


 あるものははだしで、あるものは鎧を纏う。テネヴェとも、アケトアテンとも違う。文化は進み、人々は文字を書き残している。


 聖刻文字とも違う。焼け付く太陽に、生い茂る木々、豊かなるハピだけが、遺されて。


「荒れ果てた、砂の王国……?」



「本来、歴史が始まる王国。名を先エジプトと言う。クフにより消滅した王国だ。クフはティティインカを憎んでいる。……元々愛も信頼も知らない赤子だ。その赤子がティティを手中にしようとしたならば、世界は崩壊させるしかない」


 イザークは言葉にならず、目の前でティティが宿したマアトを睨んだ。



「クフが一番にやったことは、天秤の破壊だ。罪人海を押し流し……ただ、イザーク。クフの魔力は無意識で、蓋が壊れてしまった。ティティが頬を摺り寄せるほど、クフは恐怖を覚えたんだ。

世界を取り戻して欲しい。この世界で正しいは、ラムセスだけだ。ティティインカはネフェルティティとしてクフを産み……おまえはそこにはいないが正しい世界だ。おまえが存命していること自体が、ティティの魔力とクフの魔力が拮抗している証拠だろう――」


声は低く、響くのだった。

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