Extra-3 業火に消された記憶と愛

『久しいな、ティティインカ。神の名で希望を持つ雌よ』


 すらりとした大きな人型になり、手にはたくさんの名が刻まれた硝子の剣。それに黄金の鞘がある。


「どなたでしょうか」ティティは足元を震わせながら聞いた。


『どなたでも良かろう。俺が消える前に、伝えに来た。明日、ネフティスとサアラが一つの呪術を掛けている。また再び均衡が取れない混沌がやってくる。驚いたぞ、この世界はなんなんだ』


「なんだと言われましても」


『理由は分かっている。まるで俺が認めた世界とは違っている。おまえはよくも悪魔の子を産んだ。しかし、それには俺に原因があるようだ』


 鳥のような男は、手を開いた。そこには小さな欠片があった。


『これはイザークの心臓に刺さっていた「破片」だ。この分だけ、心臓は俺の羽より重かった。これがおまえたちの命運を分けたんだ。しいて言えば、これこそが、イザークの魂の重さの根源たるもの。今一度、イザークを天秤に掛ける必要がある。明日の月と太陽が合致する瞬間に、この破片をイザークの体内に。本来の歴史は戻り、歯車も、天秤も釣り合うはずだ。人が神に勝ってはならなかった。今のイザークは悪魔だ。クフの魔力に飲まれているんだ』


 サンダルの音を響かせて、男は背中を向けた。ティティは手の中で脈を打つイザークの欠片を見詰める。



「本来の、彼はちがうというの?」


『それは汝がよく知っているだろうよ。俺に歯向かい、鳥籠をも捻じ曲げた。神に逆らう運命を受け入れ、自分の性を背負う。

 その「破片」預けたぞ。抜け落ちた愛は還した。ティティインカ。世界は呪力で全てがねじ曲がった。もとに戻るには、其方が再びイザークを愛することだ』


「まあ、なんという無理を! わたし、あの人嫌いです。いくら我が国の戦士だといっても、限度がありますわ! 私の加護すら効かないし」


 なぜか男はははっと笑って、剣を構えて微笑んだ。



『俺の顔に、見覚えはないか? 俺はよく、おまえたちを知っている。呆れるほど、絆が強い。汝らは俺から真実の愛を奪い返した。その愛をどこへやった』


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