最終章:天秤の前で恋人たちの愛を諮る

72……再会はあまりにも残酷だった

 イザークは唇を噛んだ。突如訪れた空気の圧力に顔を顰めた。確かティティインカと繋がって、もう少しで……のところで、炎の羽に遮られ、覚えていないが。


「なんだ、ここは。空間が歪んでら。で、なんで俺は肉体がある? 歩いてるよな?」


 ひょこ、と鶏頭が見えた。マアティ。マアトの分身だとネフトは言っていたような。


「ちょっと失礼しますぅ」マアトの手下が持っているものにぎょっとした。でかい鎌。首を簡単に落とせそうな刃渡りの。


「なに、するつもりだ……鳥のガキが!」


 マアティはびゅんびゅんと鎌を振り回し、むっと言い返した。


「マアト様は、貴方の心臓イブと、翅で真実マアートを測る儀式モネ

をするんですぅ。翅のほうが重かったら、貴方の大切なひとの霊魂アク

は捨てられちゃいますよぅ?」


「大切なひと……ティティ? おい、ティティがこの世界にいるってのか!」


 マアティはわらわらと寄ってきて、円陣を組んで座り込んだ。作戦会議を始めた様子。頷き合って、円陣を解いた。ずらりと並んで、クスクスクスクスと笑いの大合唱だ。中央に何かを隠している。


「くぉら! この鶏! 集団で焼き鳥にしてやる!」


「くふっ。自信、ないんですかぁ? そうですよねぇ。マアトさまの翅は全ての真実より重いのですぅ。罪人アザエルになど負けません~」


 ――ここまで言われて、黙っていられるか。イザークはふんと言い返した。


「俺が愛を証明してやる。心臓でも、何でも持って行け。俺はどうなってもいい」


「知りませんよぅ?」マアティたちは数人で大きな鎌を振り下ろした。鎌の先は尖っていて、拷問道具の輝きをしている。立ちくらみと体内から何かがすり抜けた。


「きゃー、貴方の心臓、真っ黒~。悪魔、悪魔の心臓~~~~マアトさまぁ~」


 マアティたちは、首を獲った民衆の凱旋のように、黒い塊を掲げ、去って行った。マアト神は裁きの神。最期に、イザークとティティの愛情をも裁こうというのだろう。


(上等だ。俺の愛は負けやしない)


 忘れ去られたかのように、瓶が残されていた。マアティたちが忘れたのか。


 蹴飛ばしてやるかと近寄って、イザークは眼を見開いた。瓶の中に小さな霊魂が膝をつき、イザークを見詰めている。身体が静かだ。心臓の音がしない。


 ――心臓があったら、俺の鼓動は、止まったかも知れない。


「ティティインカ! ――嘘だろう、いや、ティティ……こんな、姿に……」


 瓶の中にはティティインカの霊魂が詰まっていた。ティティのコブラの頭が見えた。イザークは震える手で、瓶を手にする。今すぐにでも、割れそうな美しい白耀の瓶。


(理由なんかいい。ここに、二人で存在している。これは奇跡か、神さま――)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます