67……この呪いを受けて、良かった

 ――この親子が幸せでありますように。


 念を丁寧に込めた紅玉は美しい碧に輝いた。

 赤子を抱いた母親までを護りの光が覆ってゆく光景は誰もが息を飲んだ。

 サアラも顔に驚きを見せた。


「大丈夫。ティティさまは、ちゃんと、他人の幸せを願えるのですわ」


 ルウの言葉――。封じられていた熱い感情が心からじわりと滲み出てくる。


(大切なのは、正しく己と向き合うこと。それこそが、真の理で、ねじ曲がった世界を変えるのだと、そうよ。胸を張ってイザークに逢うために、わたしは前を向く)


「ありが……と」声にならなかった。愛おしいと想う気持ち。(思い出したわ)ティティはそっと涙を拭った。


「クフとの長い心の憎しみの競り合いは、わたしから思いやりを奪っていた。いま、取り返したの。足りなかったもの……これで、いいのね、サアラさま」


 涙を拭って振り返ったサアラの顔は、穏やかさに満ちていた。

***


「ご苦労だった。ティティインカ。赤ん坊を取り上げたは初か」

「サアラさま。わたしに命の暖かさを思い出させようと仕組んだのでしょ」


(あ、微笑み……サアラさま、笑った?)


「なにか言いたいことでも?」サアラはまた、鉄仮面に戻った。


「笑った……と思って。ご、ごめんなさい。サアラさま、いつも何考えているか分かりにくいので。ああ、嬉しそうって初めて感じて」


「神を理解できるは、神だけだ。同じく、人を理解できるも、人だけなのだろう」


「でも、わたしは、ネフトさまと、サアラさま、好きです」


 サアラは僅かに眼を見開き、無言になった。視線の先には烈火の神殿、カルナヴァル。物語の始まりの場所だ。


 色々、あった。悪魔にも出逢ったし、夫も亡くした。神に裁かれて、神に助けられた。家族を取り戻したいと願い、道も間違った。


(だけど、わたしはこの呪いを受けて、良かったとすら思う)


 ――真実に近づく気配に身震いがした。イザークの心の真実への距離と共に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます